64.公爵令嬢リマリーエ 3
フィアレアラ様に腕力があることは分かった。だが、心配なことに変わりない。
お昼休み、約束通り道場に行くフィアレアラ様に、私達女児の友人達もぞろぞろとついて行く。バッシュは既にきていて、彼は道着に着替えていた。取り巻きの男児二人も道着を着ている。
「ちょっと、バッシュ。何故、テスとアレクがいるのよ。仲間を連れてくるなんて卑怯じゃない。」
ソマリリアがバッシュに文句を言っている。
「別に。一緒にいるだけだよ。勝負ならば、オレ一人で十分だし。フィアレアラ様も女児達を連れて来ているから同じじゃないか。」
「私達は見にきただけですわ。」
「オレ達もだ。」
男児と女児の言い合いの喧嘩が始まった。その間にフィアレアラ様は、道着に着替えてきた。
「お待たせ。はじめようか?えっと、相手はバッシュだよね?怪我すると危ないから、防具は着けた方がいいかな?」
あれ?言葉遣いが少し変だわ?気のせい?と思ったが、そんなことよりも…。
格好いい。フィアレアラ様の道着姿に見とれてしまう。
はっ、と気付いたら、テスとアレクが打ち合っている。あれ?何故この二人は打ち合っているの?
「止めろ。これだけ打ち合っているのは遊びとはいえない。防具を着けるべきだ。」
あれ?やっぱり言葉遣いが変だわ。どうやらフィアレアラ様は、木刀を持つと人が変わるようだ。
「君らがヘタクソだと教えてやるよ。」
「何だと。後悔させてやる。」
テスがフィアレアラ様に襲いかかった。
「やあああ~。」
フィアレアラ様は、二回ほど木刀を交えた後、テスを木刀ごとふっ飛ばした。テスの負けだった。
「次は、ぼくだ。」
アレクも向かっていくが全く相手にならない。簡単にあしらわれ、アレクは木刀を叩き落とされて尻餅をついた。
「むやみやたら木刀振っていても勝てないよ。いいかい、カッタル派イットー流はね、まず、こう構えて、こう打つんだ。それから、こうして、こうだ。」
「…。
こう、ですか?」
「違う。こうだ。」
「はい。」
「動作が遅い。腰が入っていないからだ。こうだ。」
「はい。」
「お手本を見せるからやってみろ。」
「はい。」
???
フィアレアラ様は、何故かテスに剣術指導をし始めた。そして、アレクにまで指導している。
「アレク、ジンクス派は、こう受けるんだ。こう受けて、こう返す。」
「はい。」
「こう返して、さらにこう返しながら、次の攻撃に備える。」
「はい。」
20分ほど続くフィアレアラ様の熱血剣術指導。みんな、ぼ~と見ていた。格好いい。お手本を見せるフィアレアラ様の剣技は、ビシッと決まってとても上手だと分かる。素人目に見てもテスとアレクなんて足元にも及ばないほどの腕前に差がある。
「さて、こんなもんかな。次からは、きちんと防具を着けるように。」
「「はい。ありがとうございました。フィアレアラ皇女殿下。」」
「ああっ。剣術勝負。忘れてた。…ごめんなさい。」
フィアレアラ様は、今、漸く思い出したようだ。バッシュとの剣術勝負を。
「オっ、オレ、急いで防具着けてきますので、オレにも教えてください。五分、いえ、三分、一分でもいいですから。」
「えっ?うん。もうお昼休み終わるから少しだけなら…。」
フィアレアラ様は、バッシュとも三分間打ち合っていたが、バッシュは、三回ふっ飛ばされていた。
……………
午後からの選択授業。バッシュは当然のようにフィアレアラ様のところにくる。そしてお昼休みに一緒に剣術の稽古をと、お誘いしたが断られていた。
「自信満々で勝負挑んで三人揃ってフィアレアラ様の足元にも及ばなかったくせに。ウワサ広げて、人集めて、恥かくなんて大バカよね。」
ソマリリアの容赦ない言葉に言い返せないバッシュは私に同意を求めてきた。
「しょ、勝負を挑んで負けたのは、リマリーエ様も同じだよね?ねぇ、リマリーエ様。」
うっ。
あの歓迎パーティーのことは触れて欲しくなかったのに最悪だわ。なに言っていいのか分からない。しばらく沈黙が続く。
「つっ、つまり、フィアレアラ様に負けてリマリーエ様は仲良くなったのだったら、オレらも同じで、オレらとも仲良くして欲しいってことだよ。フィアレアラ様の凄さがよくわかったから。」
私もバッシュ達と同じだ。自分に自信を持っていて、気に入らない相手にたくさんの人達の前で恥かかせようとしたのだ。そして全く歯が立ず返り討ちにあったのだ。
私のお父様は、その場で私の失態を謝罪し、フィアレアラ様の魔力を褒め讃えた。私も五星はそうすることが正しいと幼い頃から教えられてきた。勝負を挑んで負けることは恥ではない。相手に再起不能にさせられるまで己の力の弱さの分からない五星が一番愚かだと。
「…。
フィアレアラ様の魔力ならば、凄かったですわ。回復魔法も。今までに感じたことのない極上で膨大な魔力でしたわ。」
今までの私は、自意識過剰の傲慢な五星だったと反省した。同級生の友人達や本人を前にしてまだ少し恥ずかしい気持ちはあるが、私は、自分の負けを認め、彼女を褒めた。
「剣術も、凄かった。めちゃくちゃ格好よかったんだ。本当だよ。オレらは自惚れてたんだ。自分達が一番強いって。でも全然違った。オレらなんてまだまだダメだった。フィアレアラ様の剣技をもっと教えてもらいたいって思ったんだ。」
バッシュも私と同じだ。彼は、自意識過剰の乱暴者だ。その彼が素直に負けを認めて相手を讃えるなんて今までの彼では考えられない。
「確かに、めちゃくちゃ格好よかったですわ。皆さまフィアレアラ様に見とれていましたわ。ねぇ、リマリーエ様。」
「えっ?ええ。素敵でしたわ。」
見とれてしまうくらい格好よかった。フィアレアラ様が男児だったならば、惚れてしまいそうになるくらいに…。
いえ、性別なんて関係ないわ。
男児だろうが女児だろうが格好いいことには変わりない。フィアレアラ様は、めちゃくちゃ格好よかった。
「フィアレアラ様のファンが増えそうですわね。誰かさん達が剣術勝負を言いふらしたせいでたくさんの児童が見に来てましたから。ふふっ。私もまたフィアレアラ様の剣術を見たいですわ。本当に素敵でしたから。ねぇ、リマリーエ様。」
「ええ。また見たいですわ。格好よかったですわ。」
「まぁ、たまに遊ぶくらいならば。お昼休み毎日剣術の稽古はいやだけど。」
「本当ですか?フィアレアラ様。ならば、もっと男友達連れてきますね。うちの学校の男児は、将来騎士団に入りたい者が多いのです。みんな、絶対喜びますから。」
「ええ。構わないわ。」
それから、フィアレアラ様は、お昼休みに私達とおしゃべりしたり、男児達と道場で剣術をしたり、男女関係なくグラウンドで遊んだりと、いつの間にかうちの学年で一番人気のある児童になっていった。




