62.フィアレアラの新学期 4
お昼休みにバッシュとの約束通り道場に行く。心配したリマリーエや、女児の友人達も私についてくる。バッシュは既にきていて、彼は道着に着替えていた。
「お待たせしてしまったかしら?私も着替えるからもう少し待って欲しいわ。」
「構いませんよ。オレ達が早くきただけですから。オレらはここで少し遊んでますから。」
バッシュの他に二人道着を着た男児がいる。誰?
「ちょっと、バッシュ。何故、テスとアレクがいるのよ。仲間を連れてくるなんて卑怯じゃない。」
ソマリリアがバッシュに文句を言っている。三人がかりってこと?そっちがその気ならばそれでもいいけどね。私もフェリオにお任せだから。
「別に。一緒にいるだけだよ。勝負ならば、オレ一人で十分だし。フィアレアラ様も女児達を連れて来ているから同じじゃないか。」
「私達は見にきただけですわ。」
「オレ達もだ。」
男児と女児の喧嘩が始まるのはよくない。さっさと着替えて勝負を終わらせよう。道場の入り口横にある更衣室に入り、念のために姿を隠蔽する結界を張り、服も下着も全部脱いでフェリオと交代する。フェリオのために男児用の下着持参だ。フェリオはさっさと下着と新品の道着を着ると、新品の木刀を持って彼らのところに走って行った。
「お待たせ。はじめようか?えっと、相手はバッシュだよね?怪我すると危ないから、防具は着けた方がいいかな?」
「はははっ。オレの心配でしたらご無用ですよ。オレらはいつも防具なしで打ち合って遊んでますから。真剣勝負以外は防具は着けません。道着だけで十分です。」
「真剣勝負だよね?」
「はははっ。でしたら、フィアレアラ様だけ着けたらいかがですか?新品の防具を。その新品の道着と新品の木刀にお似合いですよ。」
「どんな風に遊んでいるのか少し見ていい?防具着ける着けないは、それを見て判断するから。」
「構いませんよ。テスとアレクが打ち合います。」
フェリオの目の前で男児二人が打ち合う。結構真剣に。まだ素人だけどフィアレアラの私が見る限り、防具はあった方がいいと思う。怪我したらたいへんだ。いや、怪我ならばマシだ。もし頭を打ったら最悪の事態になる可能性がある。フェリオは少し見ていたが堪らなくなって彼らを止めた。
「止めろ。これだけ打ち合っているのは遊びとはいえない。防具を着けるべきだ。」
「はぁ?皇女殿下にとってはそうかも知れませんが、ぼくらにとっては遊びです。はははっ。これが遊びと思えないならば、バッシュの相手にはならないですよ。真剣勝負なんて止めて降参したらいかがですか?」
「テス、って名前だったかな?君は、カッタル派イットー流だね?ヘッタクソな剣技だから言ってるんだ。」
「何だと。言ったな。」
「アレク、君は、ジンクス派かな?まだまだ全然下手だけど。ぼくは、ヘタクソ同士が打ち合うと危ないから言ってるんだ。君らがヘタクソだと教えてやるよ。」
「「望むところだ。」」
あーあー、知らないわよ、私。
…ってか、フェリオ、あなた、私なんだけど?今、ぼくって言ったわね?最悪だわ。
でも、もう今さらだわ。今さら私に代わってもどうすることも出来ない。
フェリオ、あなた、初等学校二年生の子供に熱くならないって言ってなかった?
フェリオが子供だわ。言葉遣いまで男児のフェリオになっている。勘弁してよ、私、女児なのよ。
フェリオは、テスとアレクに剣術指導をしながら打ち合っている。バカじゃないの?意味不明だわ。
…………
20分ほど続いたフェリオの熱血剣術指導。みんな、ポカンとして見ていた。私も同じだ。こんなことになるなんて。
「さて、こんなもんかな。次からは、きちんと防具を着けるように。」
「「はい。ありがとうございました。フィアレアラ皇女殿下。」」
…。
フェリオのバカに呆れて言う言葉が見つからない。
「ああっ。剣術勝負。忘れてた。…ごめんなさい。」
やっと思い出したか。バカフェリオ。どうするつもりなのよ?まったく…。
「オっ、オレ、急いで防具着けてきますので、オレにも教えてください。五分、いえ、三分、一分でもいいですから。」
「えっ?うん。もうお昼休み終わるから少しだけなら…。」
フェリオは、バッシュとも三分間打ち合った。
……………
午後からの選択授業。バッシュは当然のように私のところにくる。
「フィアレアラ様。オレの父上のおっしゃっていたことは本当でした。フィアレアラ様の剣術の腕前は凄かったです。オレとの打ち合いがたった三分なんて残念です。お昼休み毎日オレらと道場で剣術の練習をしませんか?」
「…遠慮するわ。お昼休みならば私は女友達とお話ししている方がいいのよ。」
「そうですわよ、バッシュ。フィアレアラ様は、あなた達身の程知らずの三バカイットリオの相手なんてしませんわ。自信満々で勝負挑んで三人揃ってフィアレアラ様の足元にも及ばなかったくせに。ウワサ広げて、人集めて、恥かくなんて大バカよね。」
「ううっ。」
ウワサを広げたのは、やっぱり彼らだった。
「しょ、勝負を挑んで負けたのは、リマリーエ様も同じだよね?ねぇ、リマリーエ様。」
うわっ。触れてはいけないあの歓迎パーティーのことをこの男、触れてしまった。
リマリーエもソマリリアも青い顔で絶句している。私もなに言っていいのか分からない。しばらく沈黙が続く。
「つっ、つまり、フィアレアラ様に負けてリマリーエ様は仲良くなったのだったら、オレらも同じで、オレらとも仲良くして欲しいってことだよ。フィアレアラ様の凄さがよくわかったから。」
「…。
フィアレアラ様の魔力ならば、凄かったですわ。回復魔法も。今までに感じたことのない極上で膨大な魔力でしたわ。」
「…。それはどうも。」
「剣術も、凄かった。めちゃくちゃ格好よかったんだ。本当だよ。オレらは自惚れてたんだ。自分達が一番強いって。でも全然違った。オレらなんてまだまだダメだった。フィアレアラ様の剣技をもっと教えてもらいたいって思ったんだ。」
「それはどうも。」
「確かに、めちゃくちゃ格好よかったですわ。皆さまフィアレアラ様に見とれていましたわ。ねぇ、リマリーエ様。」
「えっ?ええ。素敵でしたわ。」
マジ?ポカンと呆れていたのではなかったの?
「フィアレアラ様のファンが増えそうですわね。誰かさん達が剣術勝負を言いふらしたせいでたくさんの児童が見に来てましたから。ふふっ。私もまたフィアレアラ様の剣術を見たいですわ。本当に素敵でしたから。ねぇ、リマリーエ様。」
「ええ。また見たいですわ。格好よかったですわ。」
おおぅ。まさかのモテ期到来か?いやいや、ボッチさえ回避出来ればそれで十分だ。
「まぁ、たまに遊ぶくらいならば。お昼休み毎日剣術の稽古はいやだけど。」
「本当ですか?フィアレアラ様。ならば、もっと男友達連れてきますね。うちの学校の男児は、将来騎士団に入りたい者が多いのです。みんな、絶対喜びますから。」
「ええ。構わないわ。」
こんなことになったのは、フェリオの責任だから剣術はフェリオに任せよう。初等学校の頃のフェリオは、いつもたくさんの男児と一緒にいた。フェリオは男ホイホイだから、男ばかりがよってきていた。男の相手はフェリオがしたらいいわ。私は知らないわ。