57.王族 クロード 1
「母上、お話ししたいことがあります。」
真剣な目で母上に話しかける。母上は、何か分からないようなお顔を作っているが、私が何をいいたいかなんて分かっているはずだ。最初に娘のお祝いのお礼を述べ、すぐに本題に入る。
「ところで、母上がクララを可愛いがって下さるのは、たいへん有難いのですが、急に母上がクララの魔法の先生に変更になったのは何故なのですか?しかも、我が国に留学中の帝国の皇族皇女フィアレアラ殿下と同じ時間に二人同時になんて。フィアレアラ皇女殿下の魔法の先生も元々は母上ではなかったはずです。」
母上は、自分が一番二人の魔法の先生にふさわしいからだと言った。そして、フィアレアラ皇女殿下もクララも旧帝国皇族家系五星だからと。
「は?何をおっしゃっているのですか?母上。フィアレアラ皇女殿下が私達と同じ我が国の王家王族家系五星だと?」
母上は、祖父か、曾祖父の時代に『王家王族家系五星』と今のように言われるようになったが、元々は『旧帝国皇族家系五星』と言われいたと言う。その理由は、我が王国の初代国王ジュリアス陛下の母親であるエリザベス王太后陛下が、帝国から亡命されたとても強い魔力を持った皇女殿下で、初代ジュリアス陛下は、母親譲りの魔力を持った国王陛下だった、我が王国の『王家王族家系五星』は、エリザベス王太后陛下から繋がる『旧帝国皇族家系五星』で、今の帝国の『皇家皇族家系五星』と同じ家系の五星なのだと。
当然、私は、母上の話を否定した。そんな1000年以上も前の昔の話は信憑性がない。我が王国の『王家王族家系五星』と帝国の『皇家皇族家系五星』は、別の家系五星だと。しかし、母上も引き下がらない。その証拠に今の南のサザリーナンダ公爵家の家系五星を『旧マ・アール王族家系五星』と言うのは、今のサザリーナンダの家系五星が旧マ・アール王国の王家王族の家系五星だったからだと。ウソだと思うならば、自分で調べろと言った。
だが、しかし、今、私が言いたいことは、それではない。一刻も早く母上の目に余る行動をお止めしないといけないのだ。
「それは後で調べます。
今はそんなことより、母上がクララとフィアレアラ皇女殿下の魔法の先生をしていることを止めていただきたいのです。母上が我が妹クノン第一王妃陛下と一緒になって、クララとフィアレアラ皇女殿下を巻き込み王家を騒ぎ立てるのは、ご遠慮ください。クララは、王族の王女らしく今まで通りおとなしく控えめにしているのが一番安全なのです。魔法も北家に任せておけば大丈夫ですから。」
だが、母上は、私の言うことを聞こうとしない。ならば、最終手段だ。実力勝負して分かっていただくしかない。
「母上、私の言うことを聞いてもらいます。」
「あなたに私の結界を破ることが出来るかしら?一生無理だと思うけれど。」
どこからくるのか分からない母上の自信。明らかに少し前までの母上とは違って別人のようだ。話し方も態度も以前の控えめだった母上ではない。そして、母上の張った結界も?何だ?これは?
「普通の結界ではないようですが、何の結界ですか?壊しますよ?」
「あなたに壊すことが出来るかしら?無理だと思うわ。」
母上の張る結界に触れた途端に己の魔力を消されてしまう。何度も壊そう必死で己の魔力を全力で母上の結界にぶつけるが無駄だった。
「くっ。母上、この結界はいったい?」
「相手の魔力を遮断する結界に決まっているわ。」
「なるほど。そのような結界があることは知っていましたが、実際に張れる者はいないはずです。」
「いるわよ、ここに。クララも出来るように私が教えますわ。」
「私は、母上の張るこの結界を壊すことが出来ないのですね?ならば、戦略を変えます。母上の魔力がなくなるまで待ちます。このような難しい結界ならば、魔力消費も激しいでしょうから。」
「では、私は、魔力がなくなる前にあなたを攻撃しますわ。」
母上は、相手の魔力を遮断する結界を張ったまま、上から別の結界を張り、その結界に魔力弾をぶつけて結界で包み込んだ弾を私に向かって放ってきた。私はあわてて結界を張ったが、母上の攻撃を防ぐことは出来なかった。母上は、容赦なく私の結界を撃ち壊し、魔力弾を私に撃ち続けた。
「降参しなさい、クロード。あなたは、私に勝てない。実力の違いがまだ分からないのかしら?」
攻撃を防げなくて仰向けに倒れる私の前に立ち、母上は警告した。
「うっ、くっ。はあはあ。母上。何故このような魔法が扱えるのですか?はあはあ。はあはあ。こんな、魔法、はあはあ、聞いたことも、見たこともありません。はあはあ。」
荒い息でまともに話せない。私の負けだ。だが、母上は、まだ私を許さなかった。母上は、一度全ての結界を解き、新しく違う結界を張った。なんだ?この結界は?知らない。母上は、こんなに強い五星だったのか?逆らえない。私は、魔力を恐怖で支配された。失神するギリギリまで締めあげられる。
「クロード、私の魔法の技術が分かるかしら?あなたの言う通り私の魔力量は減少していてあなたよりも少ないわ。だけど、私には、魔力量に負けない技術がある。息子と謂えども私に逆らうことは許さない。息子を信じているから、このくらいで許してあげるわ。言っておくけれど、あなたが一生私に逆らえなくなるようにすることも出来るのよ。」
母上は、そう言って結界を解き、支配から解放してくれた。私は、失神寸前で魔力はほとんど残ってなかった。完敗だ。謝罪しなければ。
「はい。はあ、はあ。も、もしかしたら、はあ、はあ、そう、では、ない、か、と思いました。はあ、はあ。申し訳、あ、あ、ありません。はあ、はあ、はあ、はあ。お許し、ください。はあ、はあ、はあ。」
朦朧とした意識で満足に呼吸も出来ない私をさすがに可哀想に思ったのか、母上は、ほんの少しだけ回復させてくれた。