563.【番外編】六大公爵家パニック 6
【ヨバルテ公爵家 長女スイレン 2】
「スイレンお嬢様。ああ、よかった…。ご気分は如何ですか?
ご当主様、お嬢様が目を覚まされました。」
…私は?
私の名前は、スイレン・ヤ・ヨバルテ。10歳。初等学校三年生。MR四星。
「スイレン…。ごめんなさいね。私がすぐにイッチバーン公爵に返事をしていればあなたが気を失うことなんてなかったのに。」
「お母様…。私は…?ここは…?」
「四星のあなたは、イッチバーン公爵の体から溢れ出した魔力にあてられて気を失ってしまったのよ。ここはね、帝城の我がヨバルテ公爵家専用控室よ。」
ああ…、そうだった。思い出した。あの時のことを。とんでもなく怖い魔力にあてられ、ふらふらで立てなくなり、しゃがみ込んだのだった。どうやら私はあのまま気を失ってしまったらしい。
「あの後ね、ロクデカン公爵家にもどういうことか確認したわ。ロクデカン公爵は不在だったけれど、嫡男のガードくんが帝城のロクデカン公爵家専用控室にいたからね、ガードくんから色々聞いたのよ。皇帝陛下は、あなたの学年に五星の子供がいないからと、ロクデカン公爵家の分家五星の子供を帝都に呼び寄せるように御命じになられたらしいわ。四星のあなただけでは力不足だから、王女様をお守りするに相応しい品位ある五星に教育せよとね。」
私は、自分の学年では、一番身分も高いし、MRも四星の中では強いと思っている。だが、私だけでは力不足なのね…。
六大公爵家ヨバルテの令嬢だという自尊心を傷つけられた気持ちになり、悲しくなって下を向く。
「それくらいたいへんなことなのよ。あなた一人ではとても支えきれないほどの。」
お母様はそうおっしゃって人払いなされた。
「これはね、口に出して言うのは憚られることだから決して誰にも言ってはいけないわ。もし、もし、口外したことが知られてしまえば、我がヨバルテ公爵家は誰一人として生き残れない。よくて見せしめにされ、一族郎党潰される。悪いと…、最初からヨバルテ公爵家なんて存在しなかったかのように歴史から抹消されてしまうかも知れないわ。」
ゴクッと生唾を飲む。同盟国の王女様なのに、そんなことってあるのだろうか…。
「母の従妹、ロクデカン公爵家の令嬢だったスーラが同盟国に正妃ではなく側妃として嫁ぐことになった時、プライドの高い我が帝国民はね、ロクデカン公爵家を相当批判したわ。『よくロクデカン公爵家は令嬢のご婚約を受け入れたな、世界一の大国である我が帝国の六大公爵家としての誇りはないのか』とね。」
それは知っている。私が生まれる前の話だが、我が帝国の貴族でロクデカンいとこ叔母上様スーラ側妃殿下のことを知らない者はいない。
「当時、ヨバルテ公爵だった私の母上は、ロクデカン公爵家に何度も説得に行ったのよ。可愛い姪っ子のスーラが同盟国に正妃ではなく側妃として嫁ぐなんて反対だとね。
でもね、スーラの婚約は、スーラ自身の希望によるものだから認めるしかないのだと義叔父様ロクデカン前公爵もスーラの母親のロクデカン叔母様もそうおっしゃったらしいのよ。
そして、すぐに当時の同盟国の前国王クノハ陛下と国王クロード陛下の両陛下からの正式な申し入れを当時の皇帝陛下がお認めになられ、スーラは同盟国に嫁ぐことになった。」
何故ロクデカンいとこ叔母上様スーラ側妃殿下は、見ず知らずの他国の国王陛下に側妃として嫁がれたのか疑問には思っていた。私だったらそんなのは絶対に嫌であり得ない話だ。
「私の母上は、たった一人の異母妹のロクデカン叔母様をとても大切に思っている。私もね、私の父上は一人っ子だからね、いとこはロクデカン公爵家のスーラとスーラの兄しかいない。だから、同性の従妹のスーラのことは本当の妹のように思っているわ。故に我がヨバルテ公爵家はあの当時だけでなく、今でもロクデカン公爵家と仲良く親戚付き合いしているのよ。
当時、私もスーラに言ったのよ。母上と同じで、同盟国に側妃として嫁ぐなんて反対だとね。あの子が心配だったから。
あの子は、私にこう言ったのよ。
『どうしてもザカラン王子様のお側にいたい。彼の妃になれるならば側妃だろうと何だろうと構わない。彼が好きだから。』
とね。
私は意味が分からなかった。我が帝国から出たことのないスーラはザカラン王子様、現在のザカラン国王陛下には会ったことがないはずだもの。どういうことか分からなくて混乱する私に、スーラは『これ以上は国家機密に関することだから言えない。』とそう言ったわ。
側妃となったスーラは、五星第二王女様を産んだ。スーラの両親のロクデカン義叔父様とロクデカン叔母様は、同盟国まで出産の立ち会いに行ったわ。けれど、他の家族は同盟国に行けなかったからと、スーラは生まれたばかりのラリーレアラ第二王女様を連れて我が帝国に里帰りした。
その時、私と母上は、スーラの産んだ五星王女様にお会いした。スーラには全く似ていない父親そっくりの五星王女様を幸せそうな優しい笑顔で抱くあの子にね。
スーラとスーラの王女様のお顔を見た私達は、あの子が同盟国に嫁いだ本当の理由を確信したわ。あの子はどうしても初恋のあのお方のお側にいたかったのだとね。」
お母様は、ここからが本当に重要な話で、絶対に誰にも言ってはいけないことだとおっしゃった。皇帝陛下が、私の命を賭して王女様をお守りせよとお命じになられた理由だから、と。




