56.クノハとクロード親子バトル
「母上、お話ししたいことがあります。」
「何かしら?」
真剣な目の息子クロード。そろそろ何か言ってくるかと思っていたけれど、やっぱりね。
「先ずは、母上、クララのお誕生日プレゼントと中等学校入学祝いの品をありがとうございます。」
「あらあら、いいのよ。クララは、私の可愛い孫娘なのだから。」
「ところで、母上がクララを可愛いがって下さるのは、たいへん有難いのですが、急に母上がクララの魔法の先生に変更になったのは何故なのですか?しかも、我が国に留学中の帝国の皇族皇女フィアレアラ殿下と同じ時間に二人同時になんて。フィアレアラ皇女殿下の魔法の先生も元々は母上ではなかったはずです。」
「ああ、それならば私が一番二人の魔法の先生にふさわしいからですわ。フィアレアラ皇女殿下もクララも旧帝国皇族家系五星ですから。同じ家系五星女性の私が魔法の先生でないと他家系の者では役不足ですから。」
「は?何をおっしゃっているのですか?母上。フィアレアラ皇女殿下が私達と同じ我が国の王家王族家系五星だと?」
「ええ、そうですわ。お祖父様か、父上の時代に『王家王族家系五星』と今のように言われるようになりましたが、元々は『旧帝国皇族家系五星』と言われいました。
我が王国の初代国王ジュリアス陛下の母親であるエリザベス王太后陛下は、帝国から亡命されたとても強い魔力を持った皇女殿下で、初代ジュリアス陛下は、母親譲りのとても強い魔力を持った国王陛下だった、とあなたも歴史で習ったでしょう?我が王国の『王家王族家系五星』は、エリザベス王太后陛下から繋がる『旧帝国皇族家系五星』です。つまり、今の帝国の『皇家皇族家系五星』と同じ家系の五星なのです。」
「そんな1000年以上も前の昔の話は信憑性がありません。我が王国の『王家王族家系五星』と帝国の『皇家皇族家系五星』は、別の家系五星です。」
「ならば、聞きますが、誰があなたに違う家系五星だと言ったのですか?少なくとも、私は、そんなこと言ってませんよ。」
「それは…、
一般常識です。他国の五星と我が王国の五星が同じ家系なんてありえませんから。」
「初代国王陛下の母親が旧帝国の皇女殿下だからだと言ったわ。その証拠に今の南のサザリーナンダ公爵家の家系五星を『旧マ・アール王族家系五星』と言うでしょう?それは、今のサザリーナンダの家系五星が旧マ・アール王国の王家王族の家系五星だったからなのです。」
「信じられません。母上、適当なことをさも正しいように言わないで下さい。」
「母の言うことがウソだと思うならば、自分で調べなさい。」
つい喧嘩腰に言い争ってしまったが、息子の言いたいことはそれではないことはわかっている。息子は、ため息をつき、本来の話を切り出した。
「それは後で調べます。
今はそんなことより、母上がクララとフィアレアラ皇女殿下の魔法の先生をしていることを止めていただきたいのです。母上が我が妹クノン第一王妃陛下と一緒になって、クララとフィアレアラ皇女殿下を巻き込み王家を騒ぎ立てるのは、ご遠慮ください。クララは、王族の王女らしく今まで通りおとなしく控えめにしているのが一番安全なのです。魔法も北家に任せておけば大丈夫ですから。」
「あなた、何を言っているの?クララは、『旧帝国皇族家系五星』なのです。私がクララを『旧帝国皇族家系五星』にふさわしい王女に育てます。私は王族五星女性としてクララを誰にも負けない五星に育てる責任があります。」
「お止めください、母上。母上もクララもおとなしくしていたらいいのです。私の言うことを聞いてください。」
「…聞けないと言ったら?」
「力で言うことを聞いてもらいます。五星ですから。五星ならば、親子きょうだいと謂えども関係ありません。強い者に従っていただきます。」
「ならば、無理ね。確かに今の私の魔力量はあなたよりも下かも知れませんが、あなたは私に勝つことは出来ません。何故なら、あなたは私に触れることさえ出来ないからです。」
「意味が分かりません。」
「やってみるといいわ、クロード。あなたが私に勝ったならば、私はあなたの言う通りにします。但し、あなたが私に負けた時には、私のすることに口出し無用ですわ。」
「言いますね、母上。母上は、50歳を過ぎているのですよ。若い頃ならばともかく、老化で魔力が減ってきている母上が私に勝てる可能性なんて万が一にもありません。」
イラっとしてしまった。クノハの私ではなく、クレアの私が表に出てきてしまう。
『目の前の五星よりも自分が上の五星だ。』
少し落ち着こう。相手は、私の息子だと。
「息子の育て方を間違えてしまったわ。女性に対してそのような言い方をするなんて。息子だからと手加減してあげる気が失せてしまうわ。」
「はははっ。要りませんよ、手加減なんて。私が母上に手加減してあげるつもりですから。」
今度は、息子と思えばこそムカッ腹立ってしまった。ならば、教えるしかない。どちらが上なのか。
「母に対してその上から発言も気に入らないわ。やはり息子の育て方を間違えたわ。」
「母上、いい加減にご理解ください。私の言うことを聞いてもらいます。」
「あなたに私の結界を破ることが出来るかしら?一生無理だと思うけれど。」
相手の魔力を遮断する結界を張る。結界の魔力よりも二倍以上強い魔力をぶつけられたら壊されてしまうけれど、まぁ、まず無理ね。私の二倍以上強い魔力を持つ五星なんて、今、この世界にいない。あの父上(フィアレアラ皇女殿下)さえも、まだ子供魔力なのだから。
「普通の結界ではないようですが、何の結界ですか?壊しますよ?」
「あなたに壊すことが出来るかしら?無理だと思うわ。」
出来るだけ魔力消費を抑えるために、七割くらいの魔力量なのだか、それでも息子は破ることが出来ないはすだ。案の定、息子は必死で私の結界を破ろうとしているが無駄だった。
「くっ。母上、この結界はいったい?」
「相手の魔力を遮断する結界に決まっているわ。」
「なるほど。そのような結界があることは知っていましたが、実際に張れる者はいないはずです。」
「いるわよ、ここに。クララも出来るように私が教えますわ。」
「私は、母上の張るこの結界を壊すことが出来ないのですね?ならば、戦略を変えます。母上の魔力がなくなるまで待ちます。このような難しい結界ならば、魔力消費も激しいでしょうから。」
「では、私は、魔力がなくなる前にあなたを攻撃しますわ。」
相手の魔力を遮断する結界を張ったまま、上から相手の魔力を打ち消す結界を張り、その結界に魔力弾をぶつけて結界で包み込んだ弾を息子に向かって放つ。息子はあわてて結界を張るが、普通の結界ならば、私の魔力の1.5倍以上強くないと、私の攻撃を防ぐことは出来ない。容赦なく息子の結界を撃ち壊し、魔力弾を息子に撃ち続ける。
「降参しなさい、クロード。あなたは、私に勝てない。実力の違いがまだ分からないのかしら?」
私の攻撃を防げなくて仰向けに倒れた息子の前に立ち、警告する。
「うっ、くっ。はあはあ。母上。何故このような魔法が扱えるのですか?はあはあ。はあはあ。こんな、魔法、はあはあ、聞いたことも、見たこともありません。はあはあ。」
荒い息。息子が十分弱ったことを確認し、一度全ての結界を解き、新しく相手の魔力を支配する結界を張る。帝国で言うところの『帝王結界』だ。『帝王結界』の中では己の魔力が1.2倍以上に跳ね上がるのだが、私はさっきまでの結界と攻撃で己の魔力を五分の一くらい消費してしまっている。容赦なく魔力弾で息子を攻撃し続けた理由は、私に反撃出来ないくらい息子の魔力を減らす必要があったからだ。
息子の魔力を恐怖で支配する。外側から一気に『幹』の手前ギリギリまで締めあげる。『幹』を支配されれば、息子は一生私に逆らえなくなるが、まぁそこまでするつもりはない。
「クロード、私の魔法の技術が分かるかしら?あなたの言う通り私の魔力量は減少していてあなたよりも少ないわ。だけど、私には、魔力量に負けない技術がある。」
真っ青になり、言葉を発することさえ出来なく、荒い息でブルブル震える息子の胸ぐらを掴み睨み付ける。
「クロード、息子と謂えども私に逆らうことは許さない。息子を信じているから、このくらいで許してあげるわ。言っておくけれど、あなたが一生私に逆らえなくなるようにすることも出来るのよ。」
結界を解き、息子を支配から解放する。息子は、失神寸前で魔力はほとんど残ってない。
「はい。はあ、はあ。も、もしかしたら、はあ、はあ、そう、では、ない、か、と思いました。はあ、はあ。申し訳、あ、あ、ありません。はあ、はあ、はあ、はあ。お許し、ください。はあ、はあ、はあ。」
朦朧とした意識で満足に呼吸も出来ない息子をさすがに可哀想に思い、ほんの少しだけ回復させる。母の情けだ。
クレアの記憶を取り戻すと同時に、クノハの私の魔力量は、クレアの時の魔力量に近い量まであがった。記憶は『力』だ。若い頃の私ならば、ランセル国王陛下と同等以上の魔力量だっただろう。もっと早く記憶を取り戻したかった。




