559.【番外編】六大公爵家パニック 2
【イッチバーン公爵家】
「ご当主様。皇帝陛下からの御命令が下されました。イッチバーン公爵様とニッチェル公爵様は直ちに登城せよと皇城より緊急呼び出しです。」
今日は、休日闇の曜日。自宅でのんびりとしていたところに緊急呼び出し。何事かは分からないけれど、筆頭公爵家イッチバーンの当主として、直ちに登城しなくてはなりません。
「ええ、わかったわ。念のため、ナッツボンに緊急事態に備えさせなさい。」
我が嫡男ナッツボンは、14歳の高等学校二年生。遵守成人年齢を過ぎた六大公爵家の嫡子は、緊急事態では戦力となる場合があるので、備えておく必要があります。
執事にそう命令して、準備をします。緊急呼び出しならば基本的には軍服で登城しなくてはなりません。身を清め、軍服に着替えている途中でヨバルテ公爵家にも緊急呼び出しがされた事、一番最初の登城呼び出しはロクデカン公爵家であったとの連絡を受け、軍服ではなく普通の謁見用の服装で登城することにしました。有事に最初の呼び出しが我がイッチバーンではなくロクデカンであるはずがないからです。
「イッチバーン公爵リスカ殿。何事かご存知ですか?」
「いえ。私も何もお聞きしてません。六大公爵家のうち四家まで緊急呼び出しならば何事かあったとは思いますが、最初の緊急呼び出しはロクデカン公爵家であったと聞きました。念のため、嫡男ナッツボンに緊急事態に備えるようには言って出てきましたが、有事ではないと思われます。」
謁見の間に向かう途中、前ニッチェル公爵に話しかけられました。貴族嗣子は、20歳前後で親の爵位を継ぐのが一般的なのですが、嫡子のMRが親よりも低い場合や、嫡子が女性の場合は親のサポートが必要になります。私も父親の爵位を継いだばかり頃はそうでしたが、女性公爵である新ニッチェル公爵も妊娠出産子育て期間中は前公爵である父親のサポートを受けています。前公爵の父親は平時の謁見用の服装なのですが、新ニッチェル公爵は軍服を着ていました。
「そうですか…。私もロクデカン公爵家が最初の呼び出しだったとは聞きましたので有事ではないと思ったのですが、筆頭公爵家イッチバーンと我がニッチェルにも緊急呼び出しならば、有事の可能性もあります。後からサーンバンメ、ゴードンにも呼び出しがあるかも知れません。とにかく急ぎましょう。」
チラっと、父親の隣にいる新ニッチェル公爵を見れば、顔を赤くしています。どうやら、私と父親が平時の服装なのに自分だけ軍服を着てしまったことを恥ずかしく思っているようです。まぁ、有事の可能性がないことはないのですが、その場合、六大公爵家当主は全員緊急呼び出しです。バラバラに呼び出されることはまぁまずあり得ません。おそらく、緊急呼び出しではあるが有事ではないだろうから平時の服装でという父親のアドバイスよりも、緊急呼び出しの時は、軍服という基本を守ること優先してしまったのでしょう。
謁見の間に入場すれば、比較的ご機嫌のいい皇帝陛下。やはり、有事ではないと思われます。
「あら、前ニッチェル公爵も来たの?まぁ、好都合ね。協力者は、多ければ多いほどいいわ。」
…。何のことでしょうか?首をかしげます。
「同盟国のザカラン国王陛下の王子様王女様の留学の話があるのよ。明日の御前会議で提案するつもりなのだけどね、私ね、同盟国の王子様王女様が我が帝国に留学なされたら、保護者になるつもりなの。一番最初は、来年度、第一王女リリーレアラ様よ。」
ニコニコとご機嫌な皇帝陛下。やはり有事ではありませんでしたが、留学とは?はて?私は何も聞いてませんが…。
「へっ?留学ですか?同盟国からいつそのような申し入れがあったのですか?」
そう言って、チラっと新ニッチェル公爵を見ます。彼女は青い顔で頭を垂れたまま…。同盟国から正式に申し入れがあったならば我が帝国の内政を担当するニッチェル公爵が知らないはずがありません。が、この顔は知らなかったと思われます。
「まだよ。まだ正式な申し入れはないわ。でも申し入れがあってからでは遅いから言っているのよ。我が帝国は長年留学生を受け入れたことがないからたくさん備える必要があるわ。」
なるほど…。まだ正式な申し入れはないから新ニッチェル公爵は知らないのですか…。
「ねぇ、イッチバーン公爵。あなたが父親の爵位を継ぐ少し前に同盟国に援軍に行ったことがあったわよね?その時、まだ少年だったザカラン国王陛下に会ったと聞いているわ。
「はい、皇帝陛下。確かに陛下のおっしゃる通り、私は、ザカラン国王陛下や同盟国の王家王族の方々とお会いしました。その時には同盟国に二週間ほど滞在致しましたので。」
「ならば、私の望みが分かるわよね?私は、なんとしてでも同盟国の王子様王女様をお守りしなくてはならない。あなたを警護の責任者に任命するわ。我が帝国の威信にかけて同盟国の王子様王女様をお守りするのよ。私は、留学中の同盟国の王子様王女様の保護者になるつもりなのよ。万一にも同盟国の王子様王女様を傷つける者がいるならば、それは皇帝である私に対する反逆よ。国家反逆罪として捕らえ、分家を含む一族郎党全員潰しなさい。六大公爵家だろうが誰だろうが、皇帝である私と国家に反逆するとどうなるか見せしめにするのよ。もう一度言うわ、よく聞きなさい。『同盟国の王女様を傷つける者は、国家反逆罪として分家を含む一族郎党全員を捕らえ、処分せよ。』」
「はい、皇帝陛下。承知致しました。」
現皇帝セラティー陛下は、比較的マイルドな皇帝陛下だと思ってましたが、臣下に有無を言わさず命令を下されるところは、やはり皇帝陛下だと思わざるを得ません。途中からピリピリとした威圧的な魔力を感じました。そして最後は魔力を込めた言葉でのご命令。途端に恐怖で顔が真っ青に…。私は我が命にかけて命令を遂行しなくてはならないという使命感に駆られました。上位貴族は親類も多いのですが、たとえ自分に関係が深い者がいたとしても、私は、躊躇うことなく処分することになるでしょう。
が、皇帝陛下がそうお命じになられるお気持ちは理解出来ます。同盟国の王子様王女様に万一のことがあれば国際問題になるだけでは済まされないのです。
同盟国のザカラン国王陛下の正体は、我が帝国壱の宮家の皇従姉皇女フィアレアラ・マティス殿下で間違いないのですから。
フィアレアラ・マティス殿下の御子様を傷つける者には、皇家皇族の方々が容赦しない。
フィアレアラ・マティス殿下を可愛がっている前々皇帝陛下、前皇帝陛下はもちろん、娘を溺愛する壱の宮家のエリック皇伯父殿下。さらには、第一皇子殿下の御命をフィアレアラ・マティス殿下に救っていただいた御恩がある弐の宮家。参の宮家のウィンダム皇叔父殿下も姪っ子のフィアレアラ・マティス殿下を可愛がっている上に、皇女殿下は弐の宮家の第二皇子殿下との婚姻が決まっています。
故に、皇帝陛下は、我が帝国の威信はもちろん、陛下自身の威信にかけてお守りするようにとお命じになられたのです。魔力を込めた拘束力のある御言葉で。そして、私自身も我が帝国の筆頭公爵家であるという威信にかけて第一王女リリーレアラ様をお守りしなくてはならないのです。
「新ニッチェル公爵。あなたは、明日の御前会議等の後、同盟国の王女様の留学が決まれば、国民に通達するのよ。王女様の保護者は、皇帝である私で、後見人は壱の宮家と…、そうね…、王女様王子様と関係の深い公爵家にするわ。とりあえず、第一王女リリーレアラ様の後見人公爵家は王女様と同い年の令嬢のいるヨバルテ公爵家よ。万一にも王女様が楽しい学校生活を送れない時はヨバルテ公爵家の責任にするわ。そうならないためにも六大公爵家は、全員、ヨバルテ公爵家を全力でサポートするのよ。以上よ。」
「「はい、承知致しました。皇帝陛下。」」
「ふふふっ。ヨバルテ公爵がきたら明日の準備はだいたい完了ね。明日も父上にいい報告が出来そうね。ふふふっ。楽しみだわ。ああ、そうだわ。新ニッチェル公爵。」
「はい、皇帝陛下。」
「明日の御前会議で、私、我が皇女の魔法の先生に壱の宮家のフィアレアラいとこ姉上様を指名するわね。フィアレアラいとこ姉上様には既に了承を得ているのよ。これで我が皇女は、素晴らしい魔法の技術を得ることが出来るわ。ふふふっ。最高に素晴らしいわ。皇家の未来は明るく輝くのよ。」
なるほど…。同盟国の王子様王女様の留学と皇家の皇女殿下の魔法の先生はフィアレアラ・マティス殿下絡みでしたか…。それでまだ同盟国から留学の申し入れがないのに準備するのですね。なる…。
「承知致しました。皇帝陛下。」
『父方実家のゴードン公爵家ではなくフィアレアラ・マティス殿下なのですか?』と、基本通りなのですが、余計なことを言わなかった若い新ニッチェル公爵。軍服を着て登城したから基本に忠実な融通の利かない若輩者と思ったけれど、まぁまぁね。




