547.【番外編】皇帝セラティー・ヤ・マティス 3
「皇帝陛下、謁見予定の時間よりもかなり早いのですが、壱の宮家の皇従姉皇女フィアレアラ・マティス殿下がこちらに来られています。如何いたしましょうか?」
フィアレアラいとこ姉上様のことを考えていた時に、突然侍女にそう言われてドキッとしました。フィアレアラいとこ姉上様がこちらにいらっしゃる予定時間はまだ三時間以上先のはず…。王国にお帰りになられたばかりなのに何か言い忘れたことでもあるのでしょうか?とりあえず、侍女にこちらに通すように命じます。
「従妹殿皇帝陛下、とても困ったことが起きてしまったのでご相談に参りました。少しお時間よろしいでしょうか?」
フィアレアラいとこ姉上様のお顔をじっと見ます。
《我が帝国は、皇帝至上主義。私は、将来皇帝となる皇家の皇女で、我が意見に反対する者なんていない》と、幼い頃そう思ったのは、その日のうちにすぐに間違いだと気付きました。魔法の練習に呼ばれ、このお方のお顔を見た瞬間です。このお方だけは、私は一生敵わない、私はフィアレアラいとこ姉上様に逆らうことは許されない、と。
突然のご訪問、突然のご相談にYESの返事をします。皇帝である前に私は格下五星であり、いとこの『妹』なのです。格下である『妹』が『姉』に逆らうなんてありえません。逆らった瞬間にヤられてしまうのです。痛い目に遭わされ、YESと言わされてしまうのですから、身の安全のためにも格下は最初から格上に従うしかないのです。フィアレアラいとこ姉上様のご相談は、何よりも最優先事項なのです。
「はい、フィアレアラいとこ姉上様。では、場所を変えましょう。会議室でよろしいでしょうか?人払いも必要でしょうか?」
そうお答えし、いとこ姉上様を会議室にご案内します。
二人だけで話し合う時は、皇帝と宮家の皇女ではなく従姉妹同士。当然従妹であり、格下五星の私が下となります。
『はぁ~、私がフィアレアラいとこ姉上様の上でいられるのは、公上でかつフィアレアラいとこ姉上様が私に気を遣ってくれている時だけ。
はぁ~、私、皇帝のクセにショボ過ぎるわ~。
はぁ~、はぁ~、はぁ~。
あ〜あ〜、フィアレアラいとこ姉上様が私よりも格下五星ならば我が皇女の魔法の先生をフィアレアラいとこ姉上様にと堂々と指名することが出来るのに。
はぁ~、はぁ~、はぁ~。
私、皇帝のクセに、宮家の皇女が怖くて命令出来ないなんて、ショボ過ぎるわ~。
はぁ~、はぁ~、はぁ~。』
心の中で何回もため息をつきます。父上には我が皇女の魔法の先生にフィアレアラいとこ姉上様を指名せよ、言われているので、早くお願いしなければならないことは分かっているのですが、従妹であり、格下五星の私は、皇帝でありながら宮家皇女のフィアレアラいとこ姉上様に何も言えないのです。
「聞いてる?ねぇ、セラティー。セラティーってば。」
皇帝である私を当然のように呼び捨てにするフィアレアラいとこ姉上様。以前は、『セラティー皇女』と呼んでくれていたのに、エリザベート皇女殿下が私の魔法の先生になって以降は、普通に呼び捨てされるようになりました。
「はい。もちろん聞いています。フィアレアラいとこ姉上様。」
考え事をしていたのでボケっとしてましたが、フィアレアラいとこ姉上様のお話ならばちゃんと聞いていました。
フィアレアラいとこ姉上様がおっしゃるには、なんと、同盟国の第一王女殿下にザカラン国王陛下の正体がフィアレアラいとこ姉上様だとバレてしまったというのです。
「クノンがね、リリーならば私を見れば一発で私が父親のザカランだと気付くはずだから、絶対に会ってはいけないっていうからね、会わないようにしていたのよ。なのにね、今朝、ラリーをお迎えに行った時に、部屋の中に子ども達が隠れていたのよ。で、私がザカランだとリリーにバレたわ。クノンの言う通り一目で気付かれてしまったわ。」
「マジですか?フィアレアラいとこ姉上様。一目で?なのですか?」
「ええ、そうよ。私もまさかだったわ。リリーはね、『父上が、まさか、父上が女装趣味のヘンタイだったなんて。母上方は、何故、父上(の女装趣味)をお止めになられないのですか?』そう言って泣いたのよ。私は、帝国壱の宮家の皇従姉皇女なのに、失礼だと思わない?女装趣味のヘンタイ男だなんて。」
…。
確か、同盟国の第一王女殿下は、10歳くらいだったはずです。私がもし10歳の少女の頃に自分の父親の女装姿を見たとしたら…。
幼い私にとって、父上は、その大きな身体だけでも十分威圧的でした。そして、厳格で、我が帝国の頂点に君臨するに相応しい威厳あるとても怖い皇帝陛下だったのです。
その父上の趣味が…女装?
父上が…、あのでっかい図体で厳つい髭面の私の父上が、父上が…。
オエッ…。
気持ち悪い…。
それはないですわ、父上。それはないです。父上の皇帝としての威厳は完全に消滅し、気持ち悪さだけが残ってしまいました。
ああ…。
同盟国の第一王女殿下が泣いてしまったお気持ちが分かります。私も泣きそうです。
…ってか、私の父上は女装趣味ではありませんでした。
お聞きしたことなんてないので知りませんが…。
おそらく、そんな趣味はない…、はず…。




