546.【番外編】皇帝セラティー・ヤ・マティス 2
『皇帝配偶者は、五星と法で決まっています。もし私がセラティー皇家第一皇女殿下との婚約話をお断りすれば、次の婚約者候補は、私よりも三学年年上のヨバルテ公爵家の五星長男となるでしょう。姉五星のいる第二子の彼は嫡男ではありませんから、ヨバルテ公爵家はセラティー皇家第一皇女殿下との婚約話をお断りすることはありません。』
私がまだ婚約者候補であった第一配偶者に打ち明け、いやならば私の第一配偶者にならなくていいと言った時、ゴードン公爵家の五星嫡男だった彼は私にこう言ったのです。
『皇家の配偶者になることは、貴族にとってとても名誉なことです。我がゴードン公爵家もセラティー皇家第一皇女殿下との婚約話をお断りすることはありません。恐れながら、私は、殿下の異母兄皇子殿下が皇位継承権を剥奪された時から、セラティー皇家第一皇女殿下の第一配偶者は私だと思って生きてきました。
もちろん、それは、私だけではありません。貴族ならば、皆、同じことを思ったはずです。
万一、セラティー皇家第一皇女殿下の第一配偶者予定の婚約者がヨバルテ公爵家の長男に決まってしまえば私はどうなると思われますか?私は、私に何か問題があるからセラティー皇家第一皇女殿下の第一配偶者予定の婚約者に選ばれなかった男となってしまうのです。
父は、私を我がゴードン公爵家の恥として、廃嫡の上、生涯謹慎を命じるでしょう。
第一子に関しても同じです。皇家の第一子がもし私の家系五星の子だとすれば、その子は皇家の第一子でありながら『皇帝』になれない子になってしまうのです。私は生涯自責の念を抱くことになります。』
『あなたは、私の第一配偶者でありながら、第一子の父親になれないことを不快には思わないのですか?』
そうたずねた私に彼は笑いながらこう言ったのです。
『あはははっ。何をおっしゃるのかと思えば、もしかして殿下は私に気を遣われていらっしゃるのですか?
恐れながら、実の父親が四星第二配偶者であられたとしても、公上の父親は五星第一配偶者となりますから、第一配偶者もまたセラティー皇家第一皇女殿下の第一子の父親なのですよ。
殿下…、私は、殿下のことを私の唯一人の女性と想い正式な第一配偶者に決まる日を心待ちにしてきました。もし、先ほどのお言葉が私に気を遣われているからの発言であるならば、どうか、私に殿下の第一配偶者となる栄誉をお与え下さい。』
彼にそう言われた私は現実を直視せざるを得ませんでした。我が帝国は、皇帝至上主義。彼には拒否権も選択権もないのだと。異母兄が失脚し、私の運命が決まった瞬間に、私同様、彼の運命も決まったのだと。ならば私の出来ることは、私自身と彼の将来のためになることのみ。私は、将来皇帝となる皇家の皇女なのですから。誰も私の決定に文句なんてあるはずがないのです
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はぁ~、とあの頃を思い出し、また深くため息をつきます。
文句なんてあるはずがない、とはいえ、ゴードン公爵家には頼み辛いのもまた事実。我が皇女の実の父親の親族でないことは、ゴードン公爵家には分かっていることなのですから。
ならば、最終手段として、直系の肉親である私の父上を娘の魔法の先生に指名する方法があります。親子祖父母の場合のみ『同性』のしがらみを外すことが可能となるのです。しかしながら、父はその頃には50歳を過ぎてしまいます。『帝王結界』の練習の始まる七歳になる頃には55歳を超えた60歳手前の老人…。年を取ると魔力の回復が悪くなる上に、男性の平均寿命は、60歳代後半であることを考えれば、娘の毎日の魔法指導を父にお願いするのはかなり厳しいと思っています。
はぁ~、一番いいのは、壱の宮家の皇女フィアレアラいとこ姉上様に我が皇女の魔法の先生をお願いすることだとは分かってはいます。父上にもそう言われています。なんとしてでもフィアレアラいとこ姉上様を我が皇女の魔法の先生に指名しろ、と。
ですが、格上五星であり、とてもお忙しいフィアレアラいとこ姉上様にお願いしたくても、断られる可能性が高くて、なかなか言い辛いのです。




