545.【番外編】皇帝セラティー・ヤ・マティス 1
私は、セラティー・ヤ・マティス。テラ・ダール・ヤ・マティス帝国の第56代皇帝です。
私には、解決不可の人生最大の悩みがあります。
それは…、魔力の強さが全てのこの世界に於いて、世界一の国力を持つ帝国の皇帝でありながら魔法の技術力がとても低いということです。
異母兄の失脚で皇太子となった私は、皇帝となるための魔法の技術を習う期間があまりにも短く、通常の練習ではその技術を得ることは不可能でした。故に、父皇帝は、前世の記憶を持つ祖父大上皇といとこ姉上様の幻影である伝説の末子皇女殿下を私の魔法の先生に指名しました。古の失われた素晴らしい魔法の技術を持つお二人は、強引に私の『幹』にその魔法の技術を叩き込みました。
…今思い出しても身震いします。『幹』を掴まれた時の激しい痛みを。あまりの痛みに意識を手放したくなりましたが、それさえも許してもらえませんでした。そして感じる彼我との圧倒的な魔力量の差。彼女が獰猛な肉食動物ならば、私は猫パンチでふっ飛び命を落とすちっぽけな虫程度の存在でしかない、逆らうことは許されない、と。その恐怖心が幼い私の本能に刺さったのです。
それ故、幼い私は、死に物狂いで必死に努力し、なんとか皇帝の証である『帝王結界』を張れる技術力を得たのです。そう、あんなに必死になって頑張ったのに、なんとか、なんとか程度のショボい技術力しか私は得られなかったのです。
私がそんな苦労をした分、親として、我が皇女にはそんな苦労をさせたくありません。我が皇女には、幼い頃から『帝王結界』を張るための下準備をさせて、然るべき年齢となるまでにある程度の実力をつけさせてやりたいと思っています。
本来、『帝王結界』は、皇帝又は皇太子が己の後を継ぐ未来の皇帝となる子のみに伝える皇家の魔法の技術です。習得可能な年齢があり、七歳のお誕生日から十歳のお誕生日前後の約三年間だけ。その間に出来るようにならなければ一生習得出来ません。今0歳の我が皇女が二歳になる前までには、魔法の先生を決め、七歳になる前までにある程度基本となる魔法の技術を習わせてやりたい。そうすることで七歳になれば始める『帝王結界』を張るための技術力を得る準備が整い、私のように死に物狂いで必死で努力しなくても、素晴らしい魔法の技術を身につけることが可能となるはずなのです。
我が皇女のためにも、皇女に連なる未来の子供達のためにも、早く魔法の先生を決め、下準備をさせなくてはならないと思っているのですが、誰を我が皇女の魔法の先生に指名するか迷っています。
皇家の子供の魔法の先生は、法により子供の親配偶者親族で、子供と同性、同MRの最も濃い血縁の者であり、かつ、年齢、人格、魔法の技術力等皇家の子供の魔法の先生となるに相応しい者と決まっています。
己の命に関わる魔法の技術を教えてくれる魔法の先生を子供は信用し、信頼し、好きになります。子供の身の全てを委ねるのですから『同性』『血縁』『同MR』は必須条件なのです。
ところが、子供が五星の場合、五星は分家公爵家以上の身分の者しかいないために、適切な配偶者親族がいないことがよくあります。その場合は、同性の皇家皇族五星の中から子供に一番近い関係の者が選ばれます。例えば、私の場合、私の母上は侯爵家出身でしたから、母上の実家親族には五星がいません。故に幼い私の魔法の先生は、父方祖母である第一大上皇妃陛下でした。
はぁ~、と毎日どうすべきか悩みます。
公式上、我が皇女の父親は私の第一配偶者なのですが、我が皇女の実の父親は彼ではなく、私の第二配偶者なのです。故に、私の五星第一配偶者の実家であるゴードン公爵家には我が皇女の魔法の先生を頼みにくいのです。
両親が同じMRの場合、父方の家系が優性遺伝します。つまり、私は、第一配偶者との間に子を得れば、皇家の第一子が旧帝国皇族家系五星でない可能性が高くなってしまうのです。そして、第二子は第一子よりも魔力量が低く生まれるのが一般的です。万一にも旧帝国皇族家系五星以外の子が第一子として生まれてしまえば、第二子以下の子も旧帝国皇族家系五星以外の子になってしまいます。
皇家に旧帝国皇族家系五星の子が一人もいないのは問題ありです。同盟国のザカラン国王陛下と子孫が被らないようにするためにも、弐の宮家のトリコフ皇子の子と出来る限り近い年齢の子を得るためにも、私は私の第一子の父親を四星の第二配偶者と決めました。まだ正式に皇太子になる前の皇太子予定の皇女だった時代の幼い頃に、です。祖父、父、さらには、フィアレアラいとこ姉上様やエリザベート皇女殿下とご相談した結果、そうするのが一番いいと判断しました。
第一配偶者には申し訳ないと、まだ婚約者候補であった第一配偶者に打ち明け、いやならば私の第一配偶者にならなくていいと言いました。
彼は…。
おそらくそうなるだろうと思っていたと言ったのです。家系が父方優性遺伝することは周知の事実で、自分が私の第一子の父親になってしまえば、皇家の第一子が自分の家系五星となってしまう可能性が高くなる。ならば、自分は、第一子の父親にはならない方が皇家のためだ、それを承知の上で私の第一配偶者予定の婚約者になったと。
私よりも一学年年上の彼は、ゴードン公爵家の嫡男でした。異母兄の失脚で私が皇太子となったために彼が私の第一配偶者予定の婚約者候補となったのです。




