54.第一王子ソウル 2
我が国にやってきたフィアレアラ皇女殿下。彼女は、歓迎パーティーでさっそくトラブルを起こしている。
相手は、サザリーナンダの五星令嬢リマリーエ。ぼくは彼女が苦手だ。ぼくより一つ年下の彼女はなかなか強引傲慢な令嬢なのだ。自分に意見する者は容赦なくいじめる。そして必ず言うことを聞かせようとするワガママ令嬢。彼女はいきなりフィアレアラ皇女殿下に魔力勝負を求めたのだ。
ぼくは、四星だが、無謀だと思った。殿下は、あの帝国の皇族の五星皇女なのだ。我が国の王家王族家系五星はこの世界一の強い家系で有名だが、あの帝国の皇家皇族家系五星も強い。差は僅かだと聞いている。公爵家の令嬢リマリーエよりも全然上なのではないのだろうか?
なのに、なんとなく勝負をやれやれみたいな雰囲気になっている。わかっている。みんな他国は気に入らないのだ。帝国の皇女なんてやってしまえ、って思っている者が多いのは否定出来ない。第一王妃である母上の強いの希望で殿下は我が国に留学したが、意味がないと思っている者が少なからずいるのだ。
五星の魔力勝負。みんな注目している。全力で勝負を挑むリマリーエに対して殿下は余裕綽々だ。だんだん回りの者達が止めはじめた。降参しろと。なのにリマリーエは降参することなかった。殿下は、一瞬でリマリーエを気絶させ、そしてリマリーエを回復させた。
『格』が違う。母上のお招きした皇女殿下はとても強い魔力を持ったお方だった。あまりの出来事に苦い顔をしている者もいる。帝国の皇族家系五星は強いと危機感を感じた者もいたはずだ。
もしかして、母上の狙いはこれなのか?我が国は、世界一強い家系五星の治める王国で、各公爵家の当主もみんな五星だ。我が国の国民は、皆、我が国を他のどの国よりも強い優れた国だと思っている。帝国よりも上だと。
だが、次世代は?
ぼくは、第一王子なのに四星だ。そして異母弟は?
ぼくの従姉クララ王女しかいない可能も否定出来ない。
当事者でない者は危機感が薄いのだろうか?
いや、当事者であったとしても、ぼくの父上は?
ぼくの父上は、本当に我が国のことを考えているのだろうか?
ぼくの父上は、自分さえよければそれでいいダメな男だと思う。
なのに、父上に意見出来ない自分が悔しい。
悔しい。悔しい。
ああ。あんなに強い魔力を持つフィアレアラ皇女殿下が羨ましい。母上は、リマリーエを打ち負かした殿下を嬉しそうに見ている。母上は、ぼくよりもフィアレアラ皇女殿下の方がいいのだろうか?母上は、ぼくよりもフィアレアラ皇女殿下を可愛がるのだろうか?
………………
ぼくの予想通り、翌日から母上はフィアレアラ皇女殿下につきっきりになった。母上は、殿下の魔法の先生を母方の祖母に指名し、お祖母様とクララいとこ姉上様を巻き込んで四人でずっと一緒にいるようになった。
昨日は、お祖母様とクララいとこ姉上様と一緒で、今日は、朝からフィアレアラ皇女殿下と一緒だ。お昼からもフィアレアラ皇女殿下の剣術の稽古を見にきた。
昨日のフィアレアラ皇女殿下はやる気なく稽古をしていたが、今日は、母上が見ているからかやる気満々だ。母上と一緒なのが嬉しいのか、ぴょんぴょん飛びはねている。
ぼくの母上なのに…。
嫉妬心を持ってしまう。いけない。稽古に集中しよう。準備運動をして軽く走り柔軟体操をした後、素振りをする。フィアレアラ皇女殿下も同じだ。素振りをしている。
えっ?上手い。めちゃくちゃ上手い。昨日とは全然動きが違う。足捌きの練習もしているが体がぶれないで凄く上手い。ビシッと格好いい型。キレのある素早い動き。凄い。思わず見込ってしまった。
殿下は、指南役の女性と打ち合い稽古をしはじめた。上手い。大人と対等に打ち合うなんて、凄い。よし、ぼくも。見てばかりではく、ぼくは、ぼくの練習をしなくては。ぼくは、練習を再開した。
『ドガン』
「えっ?」
大きな音に驚いて振り向くと、殿下の指南役の女性が場外までぶっ飛んでいて、木刀が壁に突き刺さっていた。慌てて彼女のところに駆け寄る殿下。謝りながら回復魔法をかけている。
母上も二人のところにいく。みんな心配そうに様子を見ているが大丈夫のようだ。
しばらく何か話し合っていたが、フィアレアラ皇女殿下は、再び剣術の稽古を始めた。一人で素振りだ。さっきよりもゆっくり。さっきよりも素人っぽい。あれ?別人?さっきまでの方が上手いように思ったが、だんだんスピードが上がってくる。少しずつ少しずつ上手になっていく感じだ。
「ソウル第一王子殿下。フィアレアラ皇女殿下の剣技は凄いですね。八歳の女児とは思えません。少しフィアレアラ皇女殿下の動きを見ましょう。上手な人の動き見ることも練習になります。」
ぼくの剣術の指南役であるイットー侯爵にそう言われ、近くに行ってフィアレアラ皇女殿下の動きを見る。
「ソウル第一王子殿下。あれはブードー流の構えと型です。とても上手ですね。お手本のような動きです。さっきまでは、イナコ流の構えと型で、その前は我が本家イットー流でした。誰が殿下に指南したのか不思議です。」
本当に不思議だ。何故彼女はこんなに上手く我が国の剣術の流派を扱えるのだろうか?
「ソウル第一王子殿下。次はコウザック流です。凄い。とても上手です。フィアレアラ皇女殿下の指南役だったお方は達人であると予想します。そして、殿下自身もかなりの練習を積んでいますね。各流派全てがその流派の当主に劣らないほどの腕前のように思います。」
イットー侯爵は、フィアレアラ皇女殿下をベタ褒めしているが本当にとても上手だ。
「最後は、ツヴァイトー流のようです。剣を二本持ちました。二刀流はとても難しいのですが、どんな動きをするのか楽しみです。五大流派で、一番難しいツヴァイトー流まで完璧に扱えるのか、興味深く思います。」
難しい流派を丁寧に練習するフィアレアラ皇女殿下。少しずつ動きが良くなってきた。構えから、型、構えから型とキレのある動きがめちゃくちゃ格好いい。
「凄い。こんなに上手に二刀流を扱えるなんて。私の知るツヴァイトー流の者よりも上手に思うくらいです。」
汗を拭き、母上と指南役の女性と話す殿下。もう終わりなのかと思ったら、また始めるようだ。二本の木刀のうち片方を床に置いて少し離れた。
何だろう?
フィアレアラ皇女殿下は舞い始めた。剣舞のようだ。優雅でしなやかな剣舞に目が離せない。くるくると舞う姿は可憐で女性らしい柔らかな動きだ。
魔力を感じ始める。
最初はほんの少し。ゆっくり、ゆっくり強くなる。
スピードと力強さが増していく。シュッシュッと振り下ろされる剣に圧を感じる。力強い男性的な勢いがある。
床の剣を拾い二刀流。難しいはずなのにキレのある剣技で格好いい。
そして、最後は、また一本。力強くて勇ましい。見ている者達全てを征し、魅了する圧巻の剣舞。
凄い。格好いい。フィアレアラ皇女殿下が舞い終わった後、拍手が巻き起こる。めちゃくちゃ格好よかった。
殿下は少し恥ずかしそうな顔をしてペコリと礼をして、母上のところに行き、笑いながら話しかけた。
「如何でしたか?知識だけでまだまだ未熟ですが、私なりに上手く出来たと思います。」
「凄かったですわ。フィオ…、こほん、フィアレアラ皇女殿下。」
「そうですね。『アレ(フィオナ)』の真似事です。『アレ(フィオナ)』は、私だと思っていただけましたでしょうか?『アレ(フィオナ)』よりも筋力も技術力もない私はこれで精一杯ですが。」
「そのものでしたわ。魔力強化も。私のフィ、フィ…、フィアレアラ皇女殿下ですわ。」
「ふふっ。それはどうもありがとうございます。」
母上とフィアレアラ皇女殿下の会話の意味は分からないが、察するに『アレ』というお方が殿下の剣術を指南した者のようだ。我が国の剣術の五大流派を全て扱える上に、帝国にいるお方なのだ。名前を言ってはいけないのだろう。だが、母上はそのお方を知っているようだ。殿下と母上はかなり前から交流があったのだろう。母上の表情が言葉が殿下への愛情に溢れている。
「あら、ソウル。あなたも見ていたのですね。如何でしたか?フィアレアラ皇女殿下の腕前は?」
突然話しかけられて驚いたが、ようやく母上はぼくに気付いてくれた。ずっとここにいたのに。母上は、息子のぼくを全く見ることなく、フィアレアラ皇女殿下だけを見ていたのだ。
「えっ?あっ、はい。凄かったです。ぼくの方が一歳年上なのに、全然ぼくなんかよりも上でした。」
落ち込んでしまう。母上は、ぼくよりもフィアレアラ皇女殿下の方が好きなんだとわかったから。ぼくは、生まれる前から母上を苦しめてきた。父上は、母上が四星を懐妊したと知ってすぐ、母上とお腹のぼくに見切りをつけた。今もぼくが四星だから母上は悪く言われている。
ぼくは、何のために存在するのだろうか?
四星だけど優秀な王子であろうと努力した。そうすれば、母上は喜んでくれると思っていた。
勉強も、運動も、剣術も。
自信があった。
努力した分結果につながっていると、思い上がっていた。
フィアレアラ皇女殿下は、そんなぼくの遥か上を行く。五星でありながら、剣術も凄い腕前だった。たぶん、勉強も優秀なんだろう。
ぼくの心はズタボロになっていった。




