521.【番外編】娘の秘密 1
ぼくは知ってる。
ぼくのフィーちゃんはいつも宮にいないということを。
そのことに気付いたのは、フィーちゃんが配偶者を迎えた後だ。フィーちゃんに限らず四星以上の者ならば皆眠る時に結界を張る。理由は、寝首を掻かれないためだ。結界を壊されれば目が覚める。生き残る確率があがるのだ。
ぼくのフィーちゃんは常に魔力を隠蔽している。結界からもフィーちゃん自身からもフィーちゃんの魔力を感じることはない。だから、ぼくは、フィーちゃんは宮にいるものだと思っていた。ぼくよりも強い魔力を持つフィーちゃんの結界に、ぼくは触れることさえ出来ないので、特に確かめたりもしていなかった。
ところが、フィーちゃんが配偶者を迎えた後、フィーちゃんの配偶者の結界の魔力を感じるようになった。フィーちゃんの配偶者は四星女性で同級生の友人なのだが、それはない。五星のクセに寝ている己の配偶者を守らないなんて、そんな無責任な五星にぼくは育てた覚えはない、と言いたいところだったが、男親が新婚の彼女達の生活を覗き見しているようで言うに言えなかった。
フィーちゃんは、どうやら、休日闇の曜日の前日、水の曜日のみ宮に帰って来ているようだ。そして、翌日の闇の曜日には再び何処かにいなくなってしまう。
まさか…。
ぼくは、フィーちゃんにはもしかしたら愛人がいるのではないかと思うようになった。
おそらく、その愛人は、フィーちゃんとは身分とMRが合わないのだ。だが、お互いに思い合っているのだろう。フィーちゃんは、毎日宮を抜け出し、その愛人のところに通っていると思われる。
これはあくまでもぼくの想像なのだが、フィーちゃんが宮に帰って来ない理由はそれしかない。問い詰めたいところだが、放っといてくれと言って出て行く可能性が高い。そうなったら、週末闇の曜日の前日、水の曜日にさえも帰って来なくなる。それでは、フィーちゃんの配偶者になってくれたエメロラに申し訳ない。
だから、ぼくは、フィーちゃんに注意しようにも注意出来ないまま気付けば十年近く経っていた。
ある闇の曜日、たまたまフィーちゃんの部屋のから楽しそうな女性達の笑い声が聞こえることに気付いた。
『フィーちゃんとエメロラだ。今日こそはぼくの長年のモヤモヤを聞いて貰おう。親が口出しすることではないから今まで注意せずにいたが、このままではいけない。フィーちゃんがまた何処かに行く前に言わなくては。』
そう思ったぼくは、意を決してフィーちゃんの部屋に入ることにした。
「フィーちゃん、エメロラ、話しがある。ちょっといいかい?」
ノックをした後、そう言って部屋に入った。
「えっ?あれ?君は、確か、同盟国の国王ザカラン陛下に嫁いだロクデカン公爵家の令嬢だろう?ぼくのフィーちゃんとエメロラの同級生の。何故君がフィーちゃんの部屋にいるんだい?」
フィーちゃんの部屋に、フィーちゃんの姿はなく、そこにはフィーちゃんの配偶者のエメロラと同盟国に嫁いだはずのロクデカン公爵家の令嬢がいた。そして、その令嬢の抱いている三、四歳くらいの女の子がぼくの方を見た。
「えっ?フィーちゃん?」
ぼくのフィーちゃんの小さい頃にそっくりの女の子。フィーちゃんは、魔力で幼女のフリをしているのだ。
「…。
フィーちゃん、幼女になるなんてふざけたことは止めなさい。早く元の姿に戻るんだ。同盟国に嫁いだ友人を宮に連れて来るならば、皇帝陛下の許可がいる。それに彼女には五星王女殿下がいらっしゃるのだから、簡単に我が帝国に里帰りなんて出来ないはずだ。どう言うことか説明しなさい。」
幼女のフリをしているフィーちゃんは今にも泣き出しそうだ。
「フィーちゃん。いい加減ふざけてないで早く元の姿に戻るんだ。」
「うわああ〜ん。うわああ〜ん。」
大泣きし始めるフィーちゃん。ぼくは呆れてしまった。しかも、幼女っぽい魔力まで放出している。間違いなく我が帝国の皇家皇族家系五星の魔力だ。
「はぁ~。泣くなんて、どうかしているよ、フィーちゃん。我が壱の宮家の皇従姉皇女ともあろう五星のクセに恥ずかしい振る舞いは止めなさい。」
ぼくは、泣くフィーちゃんの腕を掴もうとしたその時だった。
「父上、私の部屋に何のご用なのですか?」
振り返って見ると、フィーちゃんがぼくの後ろに立っていた。




