35.王族クノハ 5
「【エリザベスお祖母様、フィオナ父母上。魔法指導の終了時間には少し早いですが、もう一時間経ちますわ。続きは、また明日になされてはいかがですか?フィアレアラ皇女殿下の魔力が持ちませんわよ。】」
『フィオナ父母上?あなた誰?』
父母上は、当然驚いてそう言った。
「私ですわ。フィオナ父母上。『クレアレイア』ですわ。」
『あなた、クレアなの?』
「はい。フィオナ父母上。さっきフィアレアラ皇女殿下に『幹』を拘束されて思い出しましたわ。昔、父母上にも『幹』を拘束されて一瞬で気絶させられてしまったことを。メリッサ様もシャルロット様も異母姉上もゆっくり丁寧に優しく魔法指導してくださってましたが、父母上はスパーンと一瞬で私の魔力の源の『幹』を拘束しましたから。なんて強引なお方なのだろうと幼い私には衝撃的でしたわ。」
『…そうだったかしら?』
「…嫌な記憶は残るものですわ。まさかそんなことされるなんて思ってもなかった幼い子供です。私の魔力をいきなり気絶するほど拘束するなんて酷い叔母上様だと思って泣きましたわ。」
『…。』
「もう二度とフィオナ叔母上様には相談なんてしないって思いましたわ。」
『…悪かったわ。』
「ふふっ。子供の頃、ですわ。アリア異母姉上はお優しい方でしたから。異母姉上やティアララ様に魔法を教えてもらうのは好きでしたわ。異母妹にも負けたくなかったし。」
『アリアは…、私には反抗的だったけれどね。』
「私は『クレアレイア』だった頃の記憶を今漸く思い出しました。まさか、私が自分の子孫に生まれ変わるなんて思ってもなかったですわ。…ですが、もっと早く思い出したかったですわ。この国の今の状況、かなりヤバいですわね。」
『私もそう思っているわ。』
「孫のクララの魔法指導ならば、私も手伝いますわ。フィオナ父母上も、エリザベスお祖母様もフィアレアラ皇女殿下の魔力では厳しいでしょうから。私は普通の指導しか出来ませんが多少のお役には立てるはずですわ。」
『多少なんてものではないわ。あなたがクレアだなんて心強いわ。誰も魔力量を調整出来る技術がないなんて絶望的だと思っていたから。』
「本当、かなり絶望的ですわね。魔法の先生が王子は男性、王女は女性って決まっているからですわ。フィオナ父母上は、何故変えなかったのですか?」
「子供が身を委ねるには肉親に近い同性の方がいいからよ。特に女の子にはね。あなただって男性が魔法の先生なんて嫌でしょ?メリッサの父親の西のオヤジよりもメリッサ、シャルロット、アリアレイアの方が良かったでしょ?西のオヤジに手を握られて魔法指導して欲しかったのかしら?」
「それは…、遠慮致しますわ。南もですわ。異母弟レオンの魔法の先生でしたが、顔が私の好みではありませんでした。もちろん、西も。」
『あなた達が変えて欲しいって言ったら変えたけれど、何も言わなかったからそれでいいのだと思っていたわ。』
「…。そうですね。魔法指導はスキンシップがありますから同性の方がいいかも知れません。初等学校を過ぎれば、女児ならばたいてい成人男性を嫌がりますわ。中等学校の少女になれば、父親さえも嫌になりますわね。一般的に。」
『敢えて変えなくても困った時に困った子孫が変えたらいいと思ったのよ。』
「私は、息子に魔法指導しても良かったのにって思ってましたわ。」
『あなたがそうしたいならそうしたら良かったのに。アリアレイアもよ。アリアも何も言わなかったわ。』
「それは…。アンリ王子が…。」
『アンリが、何?』
「知らないのですか?父母上。アンリ王子は、男性が好きな男性でしたわ。」
『…マジ?えっ?待って、待って。ちょっと待って。そんなはずないって打ち消していたけれど、もしかして、アンリの相手って…。』
「アンリ王子の護衛をしていた分家ワトソン伯爵家のドリルですわ。超マッチョの。」
『…。知りたくなかった衝撃的な真実を死んでから知ってしまったわ。そんなはずないって一生懸命見ないようにしていたのに。』
「まぁ、ですから、アンリ王子には妃が二人いて、五星はアクアリア第一王女一人でしたが、それ以上は無理でしたわね。うちに息子と孫息子がいましたので、異母姉上もあまり強く言いませんでしたわ。異母姉上もずっとソアレ・マ・リップル伯爵を自分の側に置いていましたし。」
『…。そうね。』
「父母上も女性が好きな女性なのですよね?普通のことだと思っていましたわ。」
『違うわよ。フェリオの相手が男なんて嫌だっただけよ。私、ほとんどフェリオだったのよ。男が男を選ぶはずないじゃない。女性にしか興味ないわ。』
「それを女性が好きな女性と言うのですわ。」
『違うわよ。』
『【あのね、クレア。フィオナはね、自分が男だと思って幼少期を過ごしたのよ。中等学校時代、帝国留学中もね、学校以外は全部男のフェリオだったのよ。フェリオの姿で王位を継ぐと決めてからも。】』
「【はい。私達の前でもほとんど父上のお姿でした。】」
『【フィオナは、女性の姿の時も精神的に「男」なのよ。だから「男性」を拒否して「女性」しか愛せなかった。父親の呪詛なんてさっさと解呪すればいいのに、しないで次々に女を娶ったよ。子供がたくさん欲しいからって。】』
『煩い。エリザベート。私の娘になんてこと言うのよ。ちゃんと平等に全員愛していたわよ。』
「どっちも煩いわ。さっさと消えて。私の魔力がヤバいのよ。」
『『【そうね。じゃ、またね~。クレア。】』』
………………
「「「…。」」」
「えっと、すみません。私の幻影がお二人にご迷惑をおかけしました。」
「大丈夫ですわ。フィアレアラ皇女殿下。いつも通りですわ。私の方こそ申し訳ありません。あんな父親で。フィオナ父母上よりもフェリオ父上の方が真面目ですので、困った時には父上の姿になってもらうといいと思いますわ。」
「…えっと、お祖母様?」
「何かしら?」
「お祖母様ですよね?」
「そうよ。ふふっ。記憶が戻って嬉しいわ。もう50歳を過ぎてしまったけど、まだまだイケるわ~。私には技術があるからね。私、子供の頃、めーちゃくちゃ一生懸命練習したのよ。クレアレイアの時ね。結界もね、記憶を取り戻すまで五重なんてたいへんだと思っていたけれど、余裕だわ。さすがに何重も永遠には普通の五星の私には厳しいけれど、そこそこ出来るわ。
フィアレアラ皇女殿下。少し早いですが、殿下の魔力はもうほとんどありませんし、今日はもう終わりに致しましょう。また、お伺い致しますわ。今後のことも娘と相談してまた殿下にご相談致しますわね。
クララ、あなたもよ。あなたは、フィオナ父母上とエリザベスお祖母様にご指導いただいて、強い五星にならないといけないのよ。フィアレアラ皇女殿下にお願いしなさい。あのお二人を造っているのは殿下の魔力なのだから。」
「はい、お祖母様。
フィアレアラ皇女殿下、本日は魔法のご指導ありがとうございました。またよろしくお願いいたします。」
「私というよりもあの二人が勝手にしているだけですけれどね。」
「ふふっ。そうですわね。懐かしい私の父親のフィオナ父母上そのものでしたわ。エリザベスお祖母様も全然お変わりありませんでした。では、フィアレアラ皇女殿下、私達はこれで失礼致します。」
やらないといけないことがいっぱい出来た。まずは、レリーリアラ様に、娘に報告しなければ。私が『クレアレイア』であることを。
もう私は、今までの『クノハ・レリ・アール』ではない。正しいことを正しく直すためにもの申す。黙ってなんていられない。我が王国の未来を守るために。




