3.私のご先祖様
我が帝国の同盟国ゴ・リキ・マ・アール王国は、とても強い王族の治める国だ。何代か前に普通では考えられないくらい強い魔力の王女殿下がいた。名前は、『フィオナ・マ・アール』王女殿下。彼女は、他の国々のどの王よりも強い魔力を持っていたのだが、力でこの世界を制することなく、世界平和と弱小国の救済に力を入れていたらしい。
その王女殿下の時代に我が帝国と彼女の王国は同盟国になり、我が帝国の公爵家の令嬢二人があの国の国王陛下に嫁いだ。そして、生まれた王女のうち一人が我が帝国に戻って来て、帝国の公爵家の男性に嫁いだらしい。
私の母上の形見の短刀はその頃の物で、二刀対の短刀の片方に帝国の皇家の紋章が、もう片方にはあの国の王族の紋章が刻まれている。短刀の持ち主は、『レアラ・レリ・アール・ヤ・マティス』皇女殿下。フィオナ王女殿下の双子の兄フェリオ・マ・アール国王陛下の孫で我が帝国の大皇帝である第50代エリザベート・F・ヤ・マティス皇帝陛下の養女皇女殿下になった方らしい。
私のご先祖様のレアラ皇女殿下は、我が帝国で生まれ育ったが、幼い子供の頃に父親の母国に戻った。そして、エリザベート皇帝陛下の養女皇女殿下になって学生時代を我が帝国で過ごすが、医療を学ぶために王国に戻った。そして、医師となった後に、また帝国に戻り、医師皇族として働いていたらしい。
『アラン』と言う名前の息子が一人いて、その息子も医師となった。息子アランは四星だったので息子アランと二人揃って皇族を出た後、イッチバーン公爵領で貧しい帝国民を助ける医師をしていた。そのアランと言う名前の息子が私の曾々祖父だ。
曾々祖父が若い頃、流行り病が隣国ト・ドトルで広がり、我が帝国のイッチバーン公爵領にも入ってきた。隣国ト・ドトルは人口の約30%がその病で死亡するという恐ろしい伝染病だった。我が帝国はその流行り病をくい止めるために隣国に一番近いイッチバーン公爵領都に医師団を派遣し、さらに領都を一年間閉鎖した。
イッチバーン領都への支援物資は各公爵家と帝都から送られたが、直接ではなく、領境の街から中間地点の街へ、中間地点の街から領都近境の街へ、領都近境の街から領都へと段階的に送付され、感染拡大防止を徹底的に行った。
そうして、我が帝国は、イッチバーン公爵領領都まででなんとか流行り病をくい止めたが、イッチバーン公爵領は、多くの領民、医師を失った。私の曾々祖父アランとその母親の『レアラ・レリ・アール・ヤ・マティス』皇女殿下も病にかかった民を救うために医師として懸命に患者の治療に貢献したが、二人ともその流行り病にかかり亡くなった。
この世界的に広がったで伝染病で、フィオナ王女殿下の時代から続いていた世界平和協定は、終わってしまう。形上は、世界平和のための会議が一年に一回開かれ、あの王国の王族が代々議長を務めてはいるのだが、国力を失った弱小国は、周辺強国の属国になりはじめた。世界ランキングに入る強国だったト・ドトルさえも被害の影響から国を維持出来ずに我が帝国の属国になったほどだ。
我が帝国は、今では世界一の大国となったのだが、フィオナ王女殿下の時代からの同盟国ゴ・リキ・マ・アール王国との同盟関係は今それほどいいわけではない。あの王国は、保守的なのだ。強い魔力の王が治める平和な国。自給自足できて何も困らない。だから、他国も犯さない。みんな自国で満足しろ、みたいな王国なのだ。
対して我が帝国は、強い王、強い国力がある国が世界を制する必要があると考えている。力で制圧し、力で守るのだ。自国も、属国さえも、強く制圧することで争うことなく平和になるという考え方だ。ゴ・リキ・マ・アール王国とは全く違う。
まだ子供の私は、どっちがいいなんて分からないけれど、我が帝国と王国との関係は、いい方がいい。私のご先祖様は、あの王国の王族の王女殿下だったから。
『レアラ・レリ・アール・ヤ・マティス皇女殿下』
王女皇女殿下だったのに、医師として、貧しい平民を無償で助けていたなんて凄い方だと思う。苦労もしただろうし、伝染病で家族を失った時も、自分自身が伝染病になった時も悲しかっただろう。彼女は最後まで医師だったのだ。私は、ご先祖様を尊敬し、想いを馳せる。
閉鎖解除直後、曾々祖父アランの妻の曾々祖母は、流行り病から逃げるように幼い曾祖母エリィレアラを連れて実家のあるニッチェル公爵領で暮らしていたらしい。
曾祖母エリィレアラは成人後、ニッチェル公爵家分家筋の三星男性と結婚したが、早くに夫を亡くしてしまった。その後、イッチバーン公爵領に一人娘レマレアラを連れて再び戻り、領都役場で働いていた。
曾祖母エリィレアラ、祖母レマレアラと二代に渡り領都役場で働いていた。その縁で祖母レマレアラは祖父と結婚し、生まれたのが私の母上『サミィ「レアラ」』。
母上が生まれてすぐの頃、曾祖母エリィレアラは亡くなった記録がイッチバーン公爵領にあった。そして、五歳の母上一人生き残った強盗殺人事件が起こった。
祖父は、身重の祖母と幼い母上を庇って殺され、祖母もお腹の子どもと共に強盗に殺られてしまった。
私の母上は、幼い子供の頃のその記憶がずっと心の傷として残っていたらしい。母上がMRの違う双子の私達を生むことを選択したのは、そのためだ。MRの違う双子を授かった時の危険性は分かっていたが、母上はどうしても授かった私達双子を諦めることが出来なかったらしい。
結果は、私だけが生き残ってしまったが、母上は後悔しなかったと聞いている。母上が亡くなったのは私が生まれて30分くらい経ってから。母上は、ちゃんと私を抱いてくれた。私と双子の四星兄は生きて生まれてこれなかったらしいが、私は、兄上にも母上にも感謝している。私は、亡くなられた母上と兄上の分も精一杯生きるつもりだ。