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2.レアランの花

ある日、帝国を治める強い魔力を持つ若き皇帝第54代ジュヴァン・ヤ・マティスの元に緊急の連絡が入った。


「皇帝陛下、申し上げます。帝都でたいへんなことが起こりました。一大事です。」


「何だ?何が起こったのだ?」


「帝都の質屋にとんでもない名刀が持ち込まれました。」


「はぁ~~。何事かと心配したが、質屋に名刀とは珍しいが、騒ぐほどのことではないではないか。驚かせるな。」


「二刀対になっている短刀で帝国の皇家の紋章と同盟国ゴ・リキ・マ・アール王国の王族の紋章がそれぞれ入っている名刀です。お印は共に『レアランの花』。」


「なんだと。何故それを早く言わぬ。その二刀対の短刀を質屋に持ち込んだ者を今すぐにここに連れてこい。短刀も一緒にだ。」


「盗賊のようなのです。捕らえて尋問中です。」


「短刀の持ち主は、男ならば『アラン』、女ならば『レアラ』のはずだ。その者の名前は何だ?」


「全く違う名前の男で、友人からもらったと言っています。友人の名前も『アラン』、『レアラ』ではありません。」


「今すぐにその者をここに連れてこい。」


……………………………


「お前がこの短刀を持ち込んだ者か?この短刀をどこで手に入れた?友人からもらったならば、友人を連れてこい。どこのどいつがこの短刀をお前に渡した?正直に言わぬか?この短刀の持ち主は、我が帝国の皇系と同盟国の王系に連なる者のはずだ。お前の友人がその者だというのか?」


「こ、皇帝陛下に申し上げます。

生活に困って盗賊家業をしていました。この短刀は、イッチバーン公爵領の領都近くの一軒家に入った時に盗みました。若い夫婦の寝込みを襲い持ち帰りました。幼い子供と臨月らしき妻を夫は庇ってましたので簡単に殺れました。夫か妻の両親と思われる中年夫婦が騒ぐのでついでに殺しました。」


「なんだと。イッチバーン公爵、すぐに領に連絡しろ。貴様、この短刀の持ち主を殺したのか?なんてことをしてくれた。私はご先祖様に顔向け出来ないではないか。詳しい場所を言え。早く言わぬか。イッチバーン公爵、直ちに領の者をその場所に向かわせるのだ。その男は極刑にいたせ。直ぐにだ。一番残酷な刑にいたせ。その者の一族も全員極刑にいたせ。」


「はっ。皇帝陛下。」


「お許しください。知らなかったのです。金が欲しかったのです。」


「許せるわけがない。この短刀の元々の持ち主は、『レアラ・レリ・アール・ヤ・マティス』皇女様だ。

我が帝国の大皇帝である第50代皇帝エリザベート・F・ヤ・マティス陛下の養女になられた同盟国ゴ・リキ・マ・アール王国の王女殿下だったお方だ。貴様が殺したその若夫婦はそのお方の子孫だ。


貴様のせいで私はご先祖様や同盟国に謝罪せねばならぬ。貴様の一族全員の首を帝都に晒してくれるわ。それでもまだ足りないくらだ。」


「幼い子供の命まではとってません。お許しください。」


「何?イッチバーン公爵、領に連絡して、その幼い子供を保護しろ。子供は、男か?女か?」


「幼い女の子でした。そのまま放っておきました。」


「女の子ならば、名前は『レアラ』のはずだ。『レアラ』を探せ。急げ。急ぐのだ。」



……………



「皇帝陛下、『サミィ「レアラ」』という名前の五歳の幼女を既に保護していると連絡が入りました。幼女のMRは四星です。」


「…早いな。一時間も経ってないではないか。」


「はい。すぐに分かりました。事件が起きたのは、10日前。我がイッチバーン公爵領領都郊外の一軒家に賊が入り、若い夫婦と夫の両親が殺されました。


殺されたのは、我がイッチバーン公爵家分家出身の平民夫婦。夫の名前はザッボン、MR三星、享年26歳、領都役場職員、妻レマレアラ、MR四星、享年26歳。妻は二人目の子供を妊娠中でした。


一緒に住んでいた夫の両親も殺されています。バッボン、MR三星、享年48歳、領都役場職員。妻、MR二星、享年47歳。

ザッボンの父バッボンは、分家イッチバーン公爵家の次男坊で、独立後は、平民となり、息子ザッボンと共に領都役場職員として働いていたそうです。


五歳の幼女唯一人生き残っていた残虐な事件でした。


ザッボンの妻レマレアラの祖父、つまり幼女の母方曾祖父の名前は、『アラン・R・マティス』。MR四星、皇族出身の医師であったことも確認されています。


『アラン』殿下は、医師となった後、皇族を出て、両親と一緒に父親の出身領である我がイッチバーン公爵領で母親の『レアラ・レリ・アール・ヤ・マティス』殿下と共に医師として働いていましたが、隣国ト・ドトルが我が帝国の属国になった伝染病で亡くなっています。


『アラン』殿下の妻は、分家ニッチェル公爵家出身の三星女性で、夫の『アラン』殿下を伝染病で失った後、長女『エリィ「レアラ」』殿下を連れて実家のあるニッチェル公爵領に移住しています。


『エリィ「レアラ」』殿下は、成人後、ニッチェル公爵家分家筋の三星男性との結婚を機に皇族『マティス』の名字を離れ、平民となったようです。若い時に夫を事故で亡くしたことをきっかけに、一人娘『レマ「レアラ」』様を連れて、ニッチェル公爵領から我がイッチバーン公爵領に戻ったと記録にあります。


『レアラ・レリ・アール・ヤ・マティス』皇女殿下の子孫に間違いありません。


そして、両親と祖父母を亡くした幼女『サミィ「レアラ」』様は、父方祖父の実家である我が分家イッチバーン公爵家で保護されていました。」


「そうか。よくやった。分家イッチバーン公爵家に褒賞金を与えよ。しかし、父方祖父の実家とは、その幼女にとって他人みたいなものではないか。しかも、我が帝国の大皇帝エリザベート陛下の皇女様の子孫が平民でそのような目にあっていたとは…。その幼女を帝都に連れて参れ。両親と祖父母の家族全員を失ったのだ。我が養女皇女にしようではないか。そのように手配いたせ。」


………………………


そうして、私の母『サミィ「レアラ」』は若き皇帝第54代ジュヴァン・ヤ・マティス陛下の養女の第一皇女となり、成人後、皇族五星の父に嫁いだ。


二人の間に生まれたのが私『フィア「レアラ」・マティス』7歳。MR五星。母は私を産むとすぐに亡くなったらしい。私の双子の兄も。私と兄はMRの違う双子だったらしい。MRの違う双子は、通常生まれることが出来ない。だから、もし授かったら、子を諦めて母親の命を優先するべきなのだ。なのに、母は私を生むことを選択した。そして亡くなった。


母をとても愛していた父が悲しんだのは言うまでもなく、父は今でも母以外の女性を娶ることはない。母にそっくりだという私をとても大切に育ててくれている。私のせいで母と双子の兄は亡くなったのに。


でも、私は、父の愛がはっきりいってウザい。父は、皇族だが、第54代皇帝ジュヴァン・ヤ・マティス陛下とは少し世代が離れてるため特にこれといった仕事がない。私の魔法の先生から勉強、剣術、礼儀作法に至るまで全部自分が教えると言って、四六時中ベタベタベタベタ私にまとわりついてちゅうちゅうちゅうちゅうキスをする。



『フィーちゃん。ぼくの可愛い娘のフィーちゃん。いいかい、よく聞くんだよ。フィーちゃん、皇族はね、目立ってはいけないんだ。出る杭は打たれるから。だからね、フィーちゃんは、なんでもゆっくりでいいんだよ。何も頑張らなくてもいいからね。ぼくがフィーちゃんを守ってあげるから。絶対に目立ってはいけないよ。絶対に。大人しく、目立たないようにしないといけない。フィーちゃんはぼくの側にいるんだよ。ぼくから離れたらダメだからね。大好きだよ。ぼくのフィーちゃん。』



父は私に毎日そう言った。そして私の側から離れようとしない。小さな頃はまだよかったが、私は、もう七歳だ。来年、初等学校に入学する。なのに、父親が毎日毎日くっついてきて、ベタベタちゅうちゅうキスされる生活なんてもうそろそろキモいから止めて欲しい。


来年、初等学校に入学することがとても楽しみだ。漸く父親から離れられる。


待ちに待った初等学校入学。父親から離れられる学校生活はとっても楽しい。だがしかし、学校から帰った瞬間から父親が私を待っていてくっついてくる。はぁ~、ウザい。私は、いつまで父親にベタベタちゅうちゅうされないといけないのだろうか?どうにかならないものかと思っているけれど、どうにもならない。


と、思っていたら、私に同盟国ゴ・リキ・マ・アール王国への留学の話がきた。


行く。

行きたい。


父親の猛反対を押し切り、留学を決意する。期間は、来年から二年間。三年間を希望したが父親のボロ泣きの猛反対にあい妥協する。別にどうしても外国に行きたいって訳ではないが、あの王国には興味があった。


私の母、『サミィ「レアラ」』は、あの王国の王族の子孫だった。母のルーツでもあるあの王国。世界一の魔力量を持つ王の治める国。その魔力量は我が帝国の皇族五星よりも微妙に上らしい。


私だって皇族五星だ。皇族の中でも自分では多いと自信がある。もう少しで父だって抜く。自分の魔力があの王国でも通用するのか試してみたい。私は、来年の留学をとても楽しみにしていた。

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