16.王国留学 3
「我がゴ・リキ・マ・アール王国にようこそ。フィアレアラ・マティス皇女殿下。殿下の留学を心より歓迎いたす。留学期間中は、ここが殿下の国と思い存分に学校生活を楽しまれよ。」
現在の国王ランセル・マ・アールに謁見し、妃たちと王子たちを紹介される。
「我が第一王子ソウルは、殿下の1つ年上だから、学校生活で何か困ったことがあれば我が第一王子に相談するとよい。ああ、そうだ、殿下の同じ学年に我が国の四大公爵家の1つサザリーナンダの五星令嬢もいる。今日の夜の歓迎パーティーで、紹介しよう。」
お礼を言い、謁見は終了。パーティーまで一時間くらい客室で待機だ。パーティー衣装に着替えたりもするから実際は30分といったところか。同い年の五星令嬢か。初めてだ。五星は一年間で一人だから、帝国には私と同い年の五星はいない。
『サザリーナンダの五星令嬢は、旧マ・アール王族家系の可能性が高いわね。フィアレアラに勝負を挑むような身の程知らずならば遠慮なく格の違いを分からせるべきね。五星ならば当然のことよ。』
『過激ね。フィオナ。あなたの子孫なのに。』
『そうだったかしら?サザリーナンダは私の祖父の代の子孫だから関係ないわよ。そんなことを言ってたら、全員エリザベートの子孫だわ。』
『【まあ、そうね。この国の五星と四星なんて、全員私に繋がっているわ。全員子孫だわ。私の遺伝子のカケラくらい残って受け継がれているかしら?旧帝国皇族家系五星ならば確実に私の魔力の遺伝だけど。】』
『そうそう。キリがないから王家王族だけでいいのよ。』
「ふーん。分かった。ところで、第二王子だけど?」
『【ナンダン王族家系五星ね。フィオナはどう思う?直接魔力に触れてないけれど、量がナンダン王族家系よ。】』
『私は、ナンダン王族家系五星に触れたことないから分からないわ。私の時代にはナンダン王族家系五星は絶えていたから。でも、旧帝国皇族家系、旧マ・アール王族家系、ワントゥン公爵家系、トーキタ王族家系の四つの家系のどれでもない五星なことは分かるわ。』
「優しそうな王に見えたけれど?帝国の皇帝の方がよっぽど悪そうな顔をしているわよ。私、祖父も叔父も怖いもの。なのに法に背き弱い魔力の自分の息子を王位に就かせようと思っているのかしら?」
『そう思っているから異母妹王女をイーデアルに降嫁させたのよ。異母妹を王族に残して、旧帝国皇族家系五星の子供を産んだら、自分の息子は王位継承権第三位になるわ。第一位、第二位が傍系王族王女と異母妹の子で国王の王子が第三位なんて避けたい気持ちが分からなくもないわ。
もう一人側妃を迎えても五星の子が授かるとは限らないし、運よく授かったとしても王の年齢から強い魔力の五星なんて、まぁ、無理ね。結局、自分の子供は傍系王女と異母妹王女に勝てないと判断したから異母妹の王位継承権を奪うことにしたのよ。国王失格の自分勝手な馬鹿な男だわ。
私なんて、第一子には超拘ったわよ。一番強い魔力の五星が生まれてくるように。第一王女のアリアレイアは狙い通りの出来だったわ。私に反抗的なくらいね。』
『【アリアレイアは、私の娘のティアララだったからよ。私のおかげね。アリアが優秀だったのは。】』
『私の娘だわ。私の娘だから優秀なのよ。』
『【私だわ。フィオナなんてアリアに何もしてないわ。私はね、フィオナと違って一人娘のティアララを息子二人よりも大切に手塩にかけて育てたのよ。私の娘のティアララの記憶があるからってアリアを放置していたあなたとは違うのよ。アリアがフィオナに反抗的だったのはフィオナが悪いのよ。】』
「どっちでもいいわよ。問題は子孫なんだから。言い合いなんて時間の無駄よ。」
『『【…そうね。その通りね。】』』
「私の留学を提案したのは、第一王妃よね?何の目的があるのかしら?」
『分からないわ。帝国とは私の時代から縁があるけれど、流石に五星を他国に入れることはまずないわ。将来自国の首を絞めることになってはいけないから。あなたを自分の第一王子の妃にするためではないと思う。』
「でも、フィオナは、それをやったのよね?」
『…悩んだわよ。我が国の将来にも繋がる問題だったし、エリザベートの記憶もあったから、祖国を見捨てることなんて出来なかったわ。うちの王国の五星は、元々旧帝国皇族家系五星だから。』
『【過去のことをね、今言っても仕方ないのだけれどね、子孫を愛する気持ちも祖国を愛する気持ちもずっと心の中に生きているのよ。祖国が困っていたら、子孫が困っていたら、助けたい。困っている原因は、元をたどれば私だから。私が旧帝国を逃げ出したから。フィオナが自分の娘に帝位を継がせたから。
なんとかしたいのよ。死んでからもね。心配なのよ。】』
「はい、はい。だから、私が生まれてきたって思ってあげるわよ。フィオナの国を守るために。エリザベートの祖国を守るためにね。」
『『【ありがとう。フィアレアラ。】』』
「だけど、国王の魔力は、私よりも上ね。私の魔力量が国王に勝つには最低でも半年くらいは必要だわ。一瞬で終わらせるならば一年くらい欲しいわ。私なんてまだ子供魔力よ。10歳くらいになったら、誰にも負けないって思うけれど、私、フィオナやエリザベートと違って毎日カラカラになるまで鍛えてないし。二人の記憶の技術力があるから今すぐでも国王に負けないような展開に持っていけるとは思うけれど、単純な魔力勝負ならば私の負け。複数でも私が不利だと思う。後、二、三年くらい待てば複数でも私かなって思うけれど。」
『ギリギリかも…。傍系王族王女の12歳の誕生日くらいまでが先延ばしの限度だから。王太子として立つならば13歳くらいにはそうしないとね。第二王子もよ。七歳の、初等学校入学する直前くらいまでが家系を偽るリミットね。いつまでもウソを貫き通せるわけないのに、本当に馬鹿だわ。あのランセルって男。
旧帝国皇族家系五星ではない第二王子に王位を継がせるつもりならば、法を変えないといけないけれど、そう簡単には変わらないわ。四大公爵家、侯爵家の賛成と、成人王族、降嫁や臣下になった元王族でも法改正の投票権があるから。本当にどうするつもりなのかしら?」
「傍系王族王女の一族は、第一王妃になった妹も含めて改正に反対するのでは?各公爵家、侯爵家もまともな考えを持っていたら、皆、反対するわよ。第二王子がナンダン王族家系五星ならば、将来の魔力なんて五星の中でも下の方なのよね?国王の魔力がそんなに少ないなんてあり得ないんだけど。なんなら今からでも側妃を娶って五星の子を得る方がいいような気がする。傍系王女よりも魔力が少ないとしても他家系五星よりかは全然上だわ。」
『国王でも基本妃は二人までなのよ。私の時には五星が極限まで減っていたし、王族も全くいなかったからフェリオには妃が四人いたけれど、今の状況ならば厳しいわ。王族五星がいるもの。第二王子も旧帝国皇族家系五星になっているし。五星の子供が一人もいないならばもう一人側妃を…にはなるかもだけど。』
「第二王子は『ナンダン王族家系五星』だから王位を継ぐには相応しくないって公表して側妃をもう一人迎え入れたらいいのに。」
『そうね。帝国の皇家ならば、弱い魔力の第二王子にさっさと見切りをつけて側妃を迎え入れるでしょうね。でも、うちの王国は帝国と違って、それが難しいのよ。王族に五星が複数いるから。若い五星は、傍系王女一人だけどね。
私が法を変えるまではね、公爵家の五星女性は、たいてい王家か王族に嫁がされていたのよ。例えば今の状況ならば、傍系王族王女を第二王子の妃にする、四大公爵家に五星の女性がいたら、その女性も王家王族男性の妃にする。各公爵家系五星なんて関係なく、王家、王族が優先よ。国王さえ強ければ、国はどうにかなるって考えよ。』
「で、フィオナの時代には各公爵家系五星が極限まで減っていたのね。」
『ええ。残っていた公爵家系は旧マ・アールと運よく先祖返りしたワントゥンのみ。他の公爵家系は旧帝国皇族家系五星に変わっていたわ。その筆頭公爵家イーデアルにも若い五星がいない状態。四星イーデアル公爵家当主が三代続いた時代よ。私の叔父、従弟、従弟甥とね。従弟甥に漸く五星女性が嫁いでくれて、その子供から当主が五星に戻ったのよ。でも、未だに四大公爵家第一位の権限はイーデアルに戻ってないわね。』
色々と問題を抱えてはいるみたいだが、私は、留学中の同盟国の皇族皇女だ。しかも、まだ、初等学校一年生。もうすぐ二年生だけど。政治に興味もなければ、口出しする権利もない。留学は、お互いの文化と交流を深めるためだとは思うが、初等学校一年生の私に期待されても正直困る。
と、思っていたら、すぐに着替えの時間が来て、パーティーの時間にもなった。