第一章第二話
それは2週間前の事。関東地方を台風が縦断、甚大な被害をもたらした最悪の天災だった。
机に向かう雪村は、その内容を確認する様に読み返していた。
(日付も時間帯も合ってる。災害の様子もほぼ夢と同じく、ニュース番組でやっていた……。今までの全ての夢がそうだ。これも、これも、これもだし、これだってそうだ。)
このノートは、凛には隠していたが、あまりにも現実になっているのを考えたら怖くもある。
今日、帰りがけに部屋に誘ったのは、このノートを凛に見せようと思ったからだった。
(凛はどう思うだろう。見た夢を書き留めているなんて知ったらバカにされそうだ……。でも……まぁ、1度は読んでもらおう。最近で起こりそうな夢を凛と検証するってのも有りかもな。)
雪村は、凛にLINEを送った。
(明日、俺の部屋に寄って。相談したい事があるんだ)
直ぐ既読になって返事が来た。
(それLINEで良くない?で何なに?)
(見てもらいたい物も有るからさ)
(何だか知らないけど、了解〜)
翌日……。
5時限の授業が終わり、帰宅の雪村と凛。
「雪村?一体どうした?悩み事でも出来たの?」
「まぁ、部屋で話すよ。見てもらいたい物も有るしさ。」
雪村の部屋に帰って来た2人だった。
「凛、上着はハンガー使えよ。」
そう言って凛にハンガーを渡す雪村。
自分の上着と鞄はベッドに放り投げる。
凛はベッドに寄り掛かって座った。
「話ってのはさ、この間の続き。俺の見た夢の事。」
「そんなに気にする事でもないんじゃない?」
「それからこれを見てもらいたくて。自分が見た夢を書き留めてるノート。中学の頃から書いてる。」
ベッドの枕元から1冊、机の引き出しから2冊。計3冊が凛の手元に渡された。
ノートの隅には、1〜3の数字が振ってある。
受け取った凛は、順番に読み始めた。
最初はパラパラと流していたが、所々赤いペンでバツの印が付いているのに気付く。
3冊目では、少し文を読んでいた。
「随分詳しく書いてあるけど、雪村の脚色入りじゃないの?」
「いや、それは違うよ。俺が見た夢を、なるべく詳しく思い出せる範囲で書いただけ。何も付け加えたりしてない。」
「それにしても詳しい内容じゃない。小説か何かみたい。」
「それでも、目が覚めて、思い出せない所は棒線引いたり、◯◯とかって書いたりしてるでしょ?」
「うん、確かに。曖昧な文章もある。……所々に有る赤いバッテンは何なの?」
「今日、凛に来てもらったのはその事なんだ。」
「えー?赤いバッテンの事?」
「あぁ。ちょっとその赤いバツの文章を読んで欲しいんだ。」
3冊の赤いバツのチェックが入った文章に読み耽る凛。
2、30分が過ぎただろうか。凛がノートから目を離さずに言った。
「2年の時までウチら同じクラスだったけど、その時転校して来た未佳の事も書いてある。」
「あぁ。それは、夢で黒板の日付が出てきて、転校生を紹介された。凛の前の席に座ったじゃん。それも夢で見た。」
「ほんとに〜〜〜?このノートの赤いバッテン達って、もしかしてさー……。」
「そのもしかしてなんだ。……最初はデジャヴみたいなもんかなって思ってただけだったんだ。でもあまりに数が多くて……。予知夢ってヤツなのかも。」
「マ、マジか……。予知夢なんかホントにあるのかなぁ……。」
凛はまだ半信半疑だった。
「年月日に、時間に、登場人物。俺の見る夢の特徴は、必ずどこかに時間や日付が出てくる事。登場人物が誰だと分からなかった夢でも、周りの人や店なんかで誰だったか判断出来たりする。年が出てくるのは少ないけどね。」
「それを今まで、このノートに書いてたって訳ね。……うーん、デジャヴに留まらないで、予知夢にまで発展するか……。確かに、日付が分かったり時間が分かったりして、更に登場人物が分かれば、気にならなくもないね。」
言うと凛はノートを雪村に渡した。