非公式ナ組織
(……いかにもな車だな)
施設の前に停められてた彼らの車を前に、虎太郎は感嘆の息を吐いた。
目の前にあるのは、後部座席にスモークフィルムが貼られた、黒いテカテカの高級車。
(八割がた、怪しい会社っていう先入観のせいなんだろうけど。でも、うん、これは怪しいを体現したような車だな。なんか感動した)
そんな怪しいミテクレの車に乗り込み、移動すること数十分。
連れてこられた先は、五階建てのボロいコンクリートビルだった。
行き先が大手予備校のある街だと聞いたときから何となく察していたが、やはりそこまで繁盛していないようだ。
ビルの周りには廃れた個人店が立ち並び、中には昼間にもかかわらずシャッターが下ろされている所もある。
人気はなく、とても静かだ。
「いいところだろう」
虎太郎の心情を知ってか知らでか、杵築がニコリと笑いかけてくる。
「まあ、はい。静かで勉強に適した環境だと──」
──ブロロロロッ
刹那、虎太郎の声はけたたましいバイクのエンジン音によって掻き消された。
「……まあ、少しくらい賑やかな方が良いで──」
──ワンッ、ワンワンッ、ワオォォォン!
「こら、ムギちゃん。吠えちゃダメでしょ!」
全力で吠える散歩中の犬と、それを一生懸命抑えようとする飼い主。
何か言おうと口を開く前に、今度は選挙カーがやってきた。
「笑顔溢れる社会をつくります! 山際敦夢、山際敦夢でございます!」
ウグイス嬢の声が高らかに響きわたる。
「……あ、やっぱりさっきの無しで」
虎太郎は遠のいていく選挙カーの後ろ姿を見送りつつ、ボソリと呟いた。
出鼻をくじかれた杵築は、コホンと咳払いを一つすると、気を取り直して歩き出した。
「と、とりあえず中に入ろうか。ついて来て」
どうやらここはビルの裏側だったらしく、ぐるりと半周する。
やがて前を歩いていた杵築が足を止めて、虎太郎を振り返った。
「ここが正面玄関ね」
杵築の指し示す方向を見ると、建物には「御先堂」という一風変わった名の看板が下がっていた。
しかし実績の書かれた垂れ幕や、上の階から漏れる蛍光灯の明かりなど、外観は普通の予備校だ。
中に入ると受付の人たちが笑顔で挨拶をしてくれる。
それに応えつつ、虎太郎は杵築とともにエレベーターに乗り込んだ。
「君にはここで勉学に励みつつ、仕事をしてもらう。先ほど言ったように普通の予備校としても機能しているので、くれぐれも一般の予備校生と話すときは組織のことを洩らさないように。もちろん、国からの許可は得ている。何しろこの仕事は平安のころから続く、由緒正しい職業だ」
「由緒正しい非公式な組織って……なんか矛盾しているような……」
腑に落ちない顔をしていた虎太郎に、ふと杵築が顔を寄せた。
「それから、言い忘れていたけど、じつはこの組織の入学条件は新高校一年生からなんだ。でも君は特別だから、できることなら今から入ってもらいたい。色々と事情があってね。もちろん勉強は中学三年生の内容をやってもらうよ」
「え!? 特別って、なんで……?」
問いただそうとしたところで、エレベーターがチンと鳴った。
「まあまあ、説明はまた今度ね。とりあえず会場に入ろう」
そう促されて、虎太郎は講堂のような場所に入った。
中は階段教室になっていて、そこにポツリポツリと人が座っていた。
落ち着いた雰囲気にホッとしつつ、適当な席に腰を下ろす。
それを見届けてから、杵築は演台に立った。
「みなさん、初めまして。私はこの『御先堂』の学長、杵築です。本日は説明会にご参加くださりありがとうございます。この学校について説明する前に、皆さんにいくつかお伝えしなければならないことがあります」
シンとした教室内に、杵築の声だけが響いている。
周りの人たちが彼の話にきちんと耳を傾けている証拠だ。
「まず、今日ここにお集まりくださった十三名の皆さんには共通点があります。それは来年度に高校生になること、そして孤児や家出など家族を持っていないこと。……それから、これが最も重視すべき点ですが、他人には見えないモノが視えること。その三つにあります」
一気に会場内に緊張が走った。
虎太郎もまさか自分と同じ境遇の人がこれ程いるとは思っていなかったので、素直に驚く。
(というか、大人が大真面目に『見えないモノが視える』とか口にするから、一気にこの説明会が安っぽくなった気が……)
そんな虎太郎の思いなど露知れず、杵築は淡々と話を進めていく。
「みなさんは今日、あるいは数日前に組織の者から打診を受け、ここにやって来たと思います。中には簡単な説明を受けた方もいるでしょうけれど、大切なことなので改めて言いましょう。大人の勝手な都合に振り回され、ウンザリしているみなさんにもう一つの道を示すこと。これが本学の目的です。さて、それでは本学についての説明を始めます」
そこからの話は、虎太郎の今までの常識を覆すに足りるものだった。
「御先堂」進学コース。それは社会から組織の存在を欺くための仮の名前。
組織の正体は「神獣使い」と呼ばれる職業であった。
人の負の感情から生まれるバケモノを神獣を使役して退治し、人々の命を守ることを目的としているという。
(まさか、バケモノを倒す組織が本当にあったなんて。しかも聞いている限りでは、ちゃんと国家公務員だし。……ていうか、やっぱり昨日会った泉さんって人は組員だったんだな。あんなに胡散臭いのに)
あのチャラそうな男を思い出すたびに、ついつい組織のことを怪しんでしまう。
けれど、何はともあれ、人の役に立てる職業に就けるのだ。
説明会が終わると、虎太郎は嬉々として入学申込書を握りしめて帰路に着いた。




