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夜ふかしのすゝめ  作者: 桜野 佳宵
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神聖ナ避難先

 鬱蒼うっそうとした森の中を、虎太郎と青年は全速力で駆けていた。

 息も絶え絶えの虎太郎と違って、青年は平気な顔をして走っている。

(なんだこの人、化け物か?)

 

 そんな失礼なことを考えつつ、走ること十数分。

 青年はようやく速度を緩めた。

 二人の目の前には大きな鳥居がそびえ立っていて、緩やかな階段の向こうには、森に紛れ込むようにして神社が建っていた。


「ここに入っちゃえば、ひとまずアレに襲われる心配はなくなるから。おいで」

 青年が額に(にじ)んだ汗を拭いながら言う。

 虎太郎は青年の言葉を受けて、そっと後ろを伺った。

 背後からは風の切る音が近づいてきている。

 

(……安全? 鳥居の内側が?)

 なんだろう、すごく胡散臭い。

 しかし、年上の言うことは聞いておくものだと考え直して虎太郎は青年の背中を追った。

 刹那、なにか重いものが落ちたような音がした。

 続いて地面が勢いよく削られる音。


 慌てて体ごと振り向いて、虎太郎は声にならない悲鳴をあげた。

「目が……!」

 ずっと虎太郎たちを追ってきていた『アレ』の身体には、生物学上ありえない量の目玉がぎょろぎょろとついていた。

 クマかと見間違うほどの大きな体はモヤモヤとした黒い煙のようなもので覆われ、顔はなく、ただ足のようなものとしっぽのようなものが不格好に生えている。


 まるで幼い子供が粘土で作ったような見た目だ。

 大量の目玉を血走らせたバケモノを前に、虎太郎は後ずさりした。

「な、なんなんですか、あれ」

「あら、直で見るのは初めてな感じ?」

 ちょっと驚いたような声で言われる。


「アレは人の怨念とか、悲しみとか、そういう負の感情が具現化したものなんだ。詳しくは言えないけど、俺はそういうものを(はら)う仕事をしているの。昔で言うところの陰陽師的なやつね」


 虎太郎はなにか言おうとして口を開いたが、声を発する前に青年によって(さえぎ)られた。


「とにかくね、(けが)れたものは神域には入れないからさ、ここにいたら安全なの」


(そういう仕事があるのか……。プロの方なら安心だな)


 ホッと安堵の息をついた虎太郎に、しかし青年は肩を(すく)めて見せた。


「まあ、アレをどうにかしない限り俺たちは出られないんだけど」


「ええっ!? ダメじゃないですか! どうしよう。俺、六時には帰らないといけなくて」


 施設内での中学生の門限は六時となっている。

 そして現在は五時半を回ったところ。

 門限を破ったら追い出される、なんてことはないが、少なからず罰は受けることになるだろう。

 ただでさえ職員たちからの信用が下がっているのだ。

 これ以上評価の落ちるような真似はしたくないのに。


 頭を抱える虎太郎に、青年は困ったような顔をした。


「あー、もしかして規則の厳しい家庭?」

「家庭っていうか、施設のルールで。俺、この先にある養護施設に住んでいるんです」

「施設かぁ。君も苦労しているのね。そっか、そっかぁ……うーん……」


 (ねぎら)いの言葉とともに、青年は頭をガシガシと掻き回して唸った。

 どこか逡巡(しゅんじゅん)している素振りに、虎太郎は首を傾げる。


「あの、なにか?」


 虎太郎の問いに答えることなく、青年は一人頷いた。


「よし、その手で行こう」


 そして、真剣な面持ちで虎太郎を見た。


「俺はこれからアイツを祓いに行くから、君はここで待っていてくれる? 今のところアイツだけみたいだし。中級以下ならここには入ってこられないから大丈夫だと思う。できるだけ早く戻ってくるからさ」


「はぁ……」


 意味がイマイチ理解出来なくて、曖昧に相槌(あいづち)を打ったとき。

 

"ならば、ワタシがこの子を家まで送り届けてあげよう"


 頭に直接響くような不思議な声とともに、リンと鈴のような音がした。

 音の方向に視線をやり、虎太郎は大きく目を見開く。


「オオカミ……? 」


 戸惑いの滲んだ声が、自分で発したにも関わらず知らない人の声のように聞こえた。


 虎太郎の視線の先にいたのは、一匹の白いオオカミだった。

 顎を引き、堂々とした(たたず)まいのそれは、澄んだ琥珀(こはく)の瞳をまっすぐこちらに向けている。

ちょっと意味がわからない。


「お、オオカミがしゃべって……はぁ!?」

「……えぇ、なんで聞こえているの? 普通なら……いや、なんでもないわ。ていうか君、何年生?」


 素っ頓狂な声を上げる虎太郎に、なぜか青年の方が困惑したような顔をする。


「中学二年生です。ていうか、しゃべるオオカミについては説明なしですか、そうですか」

「つまり次で中三か。うーん、ギリセーフかな?」

「はい? なにがですか?」

「んん、こっちの話」


 またも青年が意味のわからないことを呟く。

 しかし、詳しく話す気のなさそうな青年の様子に虎太郎は口を(つぐ)んだ。


「さてと。ちゃっちゃと片付けちゃおうかね」


 そう言うと、青年は鳥居のすぐ近くまで歩み寄った。

 腰の辺りに手を置いて、何かを確認するような仕草。

 不意に小さく「あっ」と声を上げて青年が立ち止まった。

 そしてこちらを振り返ると、口角を少しあげて笑みを浮かべた。


「そういえば、まだ名前を言っていなかったね。俺は(いずみ) 大雅(たいが)。君は?」

「……虎太郎(こたろう)です」


 普段名乗っている名字は、なんとなく口にしたくなかった。

 学校で不便にならないためとはいえ、自分の捨てられていた地名を名字として使っているのだ。

 好きか嫌いかと言われれば、大嫌い。

 名乗るくらいなら、ただの虎太郎でありたいのだ。

 大雅は一言「オッケー」と呟くと、バケモノの方に向き直った。


「それじゃあ、ミヤビさん。こたろーくんのことよろしくね」


"ああ。……お前なら大丈夫だとは思うが、気を抜いてはならんぞ。怪我などしおったら許さんからな"

「はいはい、わかってるよ。もう、相変わらず厳しいなぁ」


 それだけ言うと、彼はバケモノを引き連れて森の奥へと姿を消した。

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