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夜ふかしのすゝめ  作者: 桜野 佳宵
21/22

衝撃的ナ光景

 宿に1泊して泉家に戻ると、庭に大きな熊がいた。

 赤褐色で獰猛な顔つき。間違いない、ヒグマだ。

 のっそのっそと花壇のそばを歩いている。


「おぅ……」


 車を置きに行った大雅を見送って、一足先に家へ入ろうとしていた虎太郎は、ものの見事に庭の前で固まった。

 そして花壇の花の匂いを嗅いでいた熊もまた、顔を上げてこちらを見た。


(あ、終わった)


 これはあれだ。絶体絶命というやつだ。

 熊と鉢合わせたときの対処の仕方はなんだったか。

 半ばパニックに陥りながら、虎太郎は一生懸命に生き残る道を探す。


 次の瞬間、熊が後ろ足だけで立ち上がった。

 鼻をひくつかせ、虎太郎の存在を再確認する。

 こうしてみるとなんだか中に人が入っていそうな気もしてくるが、「グオォ」と鳴いたので本物の熊だ。

 しかしなぜ熊がここに。


(いやでもここ山近いし、熊の1匹や2匹普通にいるか)


"おいや、新人の子だべや"


「ん!?」


 唐突にヒグマが話しかけてきた。

 脳内に直接響く声と動いていない口元から、虎太郎は即座に察する。

 このヒグマは誰かとペアを組んでいる神獣であるということを。


「あれ、ダイフクくんだ。真白たち帰ってきたんだ」


 大雅が慣れた様子で虎太郎の隣に並んだ。

 車の鍵をくるんと器用に指先で回してからポケットにしまう。

 

 代わりに家の鍵を取り出し、大雅は虎太郎に入室を促した。

 虎太郎は庭から視線を外さないまま玄関に足を踏み入れる。


「あんな風に放し飼いにしていて大丈夫なんですか? 見える人からしたら驚愕ものですよ、あれ」


 世間を気にする体を装ってはいるが、虎太郎はこういうことに関して神経をとがらせる質ではない。

 詰まるところ、驚いているところを見られたのが恥ずかしかったのだ。


 大雅はそんな虎太郎の気持ちを知ってか知らでか、相変わらずの軽い調子で笑った。


「大丈夫だよ。むしろ驚いている人を見かけたら人手確保のチャンス! こたろーも視えてそうな高校生以上の人いたらどんどん声かけてよ」


「嫌ですよ、そんな怪しい宗教の勧誘みたいな」


 言い合っていると、右手の階段から何かが勢い良く飛び降りてきた。

 テディベアより少し大きいくらいの、手足が長いなにか。

 それが一直線に虎太郎と大雅めがけて飛んでくる。


「うわ、えっ、なに!?」


 身構える虎太郎に対し、大雅は慣れた様子でそのナニカに手を伸ばす。

 一方のテディベア(仮)もまた、大雅に向けて長い手足を伸ばしている。


 見事キャッチした大雅の腕には、可愛らしいピンクのおリボンを頭につけたニホンザルがいた。

 白いフリルのワンピースを身に着け、ニカッと歯を見せて笑うサルに、虎太郎は頬を引きつらせながら笑みを返す。


「この子は主任の神使で名前はヤヨイちゃん。人懐っこいからこたろーも可愛がってやって」


「はぁ……」


 虎太郎は少し迷ってから手を差し出した。

 ゆっくりとした動作でヤヨイの手に触れ、慎重に頭を撫でる。

 ヤヨイは虎太郎が声を聞けることを知らないからか、一言も言葉を発することなく大人しくしていた。

 

 靴を脱いで家に上がったところで、孝一郎がリビングにつながるドアから顔を出した。

 エプロン姿なのでどうやら昼食を作っているらしい。


「ああ、帰ったか。昼はどうする」


「俺らの分もある?」


「おう。少し多めに作ったからな」


「んじゃ、お願い」


 慣れた雰囲気を感じて、虎太郎は「なんかいいな」と思った。

 普通の家族みたいだ。

 ヤヨイが大雅の腕からピヨンと飛び降り、俊敏な動きで孝一郎の背中に飛びつく。


(この子も俺よりよっぽど馴染んでる。当たり前だけど、なんか負けた気分)


 靴を脱いで荷物を自室に置く。

 リビングに入ると、真白と海斗がなにやらゲームをしていた。

 ゲーム機とテレビを接続して、大きな画面で遊んでいるらしい。


「ふたりともお帰り」


「初任務おつかれ」


 画面から目を離して笑顔を向けてくる真白と、振り向きもしない海斗がチグハグで少し面白い。

 まるで自分と大雅のようだ。

 もしかしたら、組織はあえて正反対の性格の人間同士をペアに選んでいるのかもしれない。


「おー、真白たちもお疲れ。それ新作のホラーゲーム?」


「です」


 手元のコントローラーを忙しなくいじりながら海斗が答える。

 画面には3Dの古びた旅館が映し出されていた。


「どんなゲームなんですか?」


 覗き込む虎太郎に、真白が画面を見たまま口を開いた。


「徘徊している殺人鬼から逃げ回りながら、監禁されている子供たち救い出すゲーム。敵と遭遇したら、うおっ、こんなふうに……えーと……」


「真白、話しながらだと途端に下手になるよな」


 アバターらしき二人の人間が、包丁を持った大男にバッドで殴りかかっている。

 そのうちの片方、角刈りの男の動きがぎこちないのを見て、虎太郎はすぐにどちらがどちらのキャラを操っているのか分かった。


「うわっ、一刺しで半分減った! 死ぬ!」


「任せろ! 俺が一気に片付ける!」


「いや、海斗も瀕死でしょ! ていうか、なにこの人、硬すぎない!?」


 トゲトゲ頭のマッチョが殺人鬼に飛びかかる。


「まって、置いていかないで! 僕ホラーゲーム苦手なんだから!」


 じゃあなんでやっているんだ、とは突っ込まなかった。

 トゲトゲ頭が撃沈し、続いてヤケクソになってバットを振り上げた角切り頭も床に沈む。


「あーあ、終わった」


 大雅がケラケラ笑いながら言った。

 いつの間にか炭酸飲料の入ったコップを片手に持っている。


「キリが良さそうでよかった。昼飯にするぞ。大雅、虎太郎、料理を運ぶのを手伝ってくれ。真白たちは人数分の飲み物を頼む」


 虎太郎は胸がこそばゆくなりながら返事をした。

 きっと、これが普通の家庭というものなのだろう。

 馴染めているかどうかはさておき、その環境に自分が身をおいているという事実が改めて嬉しい。

 あれほど忌まわしかった能力が、今はあって良かったと思う。

 つくづく人間は身勝手な生き物である。

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