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夜ふかしのすゝめ  作者: 桜野 佳宵
20/22

意外ナ仕組ミ

「ミヤビさん、浄化よろしくね」


”あいわかった”


 ハンドガンをウエストポーチに仕舞う大雅を尻目に、ミヤビが足取り軽くヘドロに近づく。

 虎太郎は一瞬迷ってから、おそるおそるミヤビの後ろをついていった。

 

 ミヤビはためらいなくヘドロに鼻面を近づけ、クンクンと匂いを嗅いでからおもむろに右後ろ脚をあげた。

 なんだか嫌な予感がする。


「ま、まさか……」


 虎太郎が呟くのと同時に、ミヤビが堂々と用を足した。

 そのまさかである。

 呆気にとられているうちに浄化し終わったミヤビが、心なしか満足げな顔をしている。

 オオカミなので表情はそう変わっていないが。

 

 ご機嫌な様子で体制を戻すと、今度は先ほどのヘドロのあった場所にむけて後ろ足を交互にみょんみょん突き出した。

 ここが石畳ではなく砂場だったら、おそらく綺麗に土が掘り返されていただろう。


「あー、ミヤビさん、またやってる」


 大雅が慣れた様子で口を開いた。


"おっと、ついイヌ科の習性が"

 

 隠そうとしたのか、逆に範囲を広げてマーキングしたのか。

 犬を飼ったことがないので分からないが、どうやらイヌ科あるあるらしい。


「え、いつもこうやって浄化しているんですか……?」


 完全に引いている虎太郎に、ミヤビが片眉を上げて首を傾げた。

 何か問題でも、といった顔だ。


「あーいや、いつもじゃないよ。俺が言霊で消すこともあるし。でも力を使うから疲れるんだよね。だからまあ、基本的にはミヤビさんにお願いしているかな」


 つまり神獣流の浄化の仕方らしい。

 別になにかを期待していたわけでもないのに、なんだか残念な気持ちになる。

 もっとこう、かっこよくできないものだろうか。


 そう思ったところで、ふともう一つツッコミを入れようとしていたことを思い出した。


「ていうか、結局『あ』なんて出てこなかったじゃないですか」


 虎太郎の言葉を受けて、大雅が一瞬キョトンとした。

 視線を横にずらして考える素振りを見せたあと、今度は大げさなほど仰け反った。


「ええっ、本気にしてたの!? いや文字が武器になるとか、どこの漫画の世界よ」

 

 普通に腹が立った。

 ので、虎太郎はネズミを狩るときの猫のような目で大雅を睨みつけた。


「すでに神獣使いって職業が漫画の世界なんですよ。俺にとっては。言霊の力があるとか聞かされて、神獣やケガレの事を聞かされて、なんかもう何でもアリな感じするじゃないですか」


「うん、うん、確かにそうだね。ごめんなさい」


 虎太郎の睨みと有無を言わさぬ口調に気圧された大雅が、慌てて頷き謝った。

 すっかり肩をすぼめてしまった先輩の姿に溜飲を下げた虎太郎は、深呼吸ともため息ともつかない息を吐いてから「で?」と話の軌道修正をした。


「実際は何が入っているんですか?」


 大雅は心得たとばかりに表情を明るくすると、ご機嫌な様子でポーチの内ポケットを探った。


「これだよ」


「これは……紙くず?」


「そう。ちょー強力な念の込められた、めちゃくちゃ貴重な紙くず」


「また嘘ですか?」


 疑いの目で見上げてくる後輩に、大雅は慌てて両の手を振る。


「違うよ、今度は本当。ケガレを祓える特別な護符を丸めてんの」


「へぇー、ふーん」


 あからさまに疑わしげな目を向けてくる虎太郎を苦笑いで流し、大雅はピンと人差し指を立てた。


「ちなみに、刀とか剣を使う人は刃にこの紙が使われているんだ」


「それじゃあ、武器をもっていても銃刀法違反にはならない……?」


「うん、人に対しての殺傷能力がないからね。ただまあ、任務のたびに職質されるとキリがないから、銃が武器の人に限っては神獣使い専用の許可証を取得しているけど」


 虎太郎は眉を上げて意外そうな顔をした。

 やはり危ない組織なのではと思い始めていたところに出てきた「許可証」という単語が、ほんの少しだけ組織の印象を良くする。


「じゃあ大雅さんも持っているんですか?」


「うん。もうね、大変だった。講習会で試験受けて修了証明書をもらって、さらに射撃の実技試験に合格して、それでやっと申請できるの。実弾じゃないのに猟銃の所持と同じくらい手間かかる」


「意外とちゃんとしているんですね」


「そうなのよ。まあでも、許可されていても半年に1回は職質されるんだけどねぇ。その度に紛らわしくてごめんって思う」


 そう言って大雅はヘラリと笑った。

 虎太郎は何となくイラッとしたが、それはアンタ自身がチャランポランに見えるせいでは、とは言わなかった。

 流石に失礼だと思ったからというのもあるが、それよりも気になることがあったからだ。


「あの、でもその銃弾、本当に紙なんですか? さっき大雅さんが撃ったとき、紙らしからぬ音がしたんですけど」


 まだ発砲音が耳に残っている。

 虎太郎の問いに、大雅は僅かな誇らしさ滲ませて頷いた。


「そこが俺たち神獣使いの能力の使いどころなんだよ。言霊の力ってやつ。撃つときに心の中で『撃つぞー!』って唱えるんだ」


 言いながら、大雅が人差し指と親指だけをピンと張り、銃を構えるポーズをとった。


「そうすれば、発砲した瞬間から、紙くずは銃弾になる」


 指でつくった銃で撃つフリをする大雅に、虎太郎はスッと目を細めた。


「それ、人に当たったらどうなるんですか」


「……通常は紙に戻るよ。術者が想定していない場所に当たったところで、その言霊は効力を有しない。だから現代の銃刀法違反にもあたらないってわけ」


「なるほど」


 じゃあ、撃つことを想定して撃ったらどうなるのか。

 尋ねるべきか少し迷ってから、なんとなく触れてはいけない気がして、虎太郎はその疑問を飲み込んだ。

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