稚拙ナ虐メ
──と、再び窓の方に動きがあった。
自分たちの攻撃が相手にダメージを与えられていないと悟ったのだろう。ぞろぞろとグラウンドに出てくる。
ブランコをまるで集団リンチするようにぐるりと囲んでくるので、腰かけていた虎太郎は自然と和希たちを見上げる格好になった。
「なに?」
毅然とした態度でそう尋ねると、周囲の空気が一層鋭くなって、少しだけ恐怖心を抱く。
「おい、アレもってこい。トイレにあったやつだ。中身も入れろよな」
虎太郎をジッと睨みつけながら、和希が言った。
その言葉に、役割分担でもしてあるのか、取り巻きの一人がそそくさと部屋の中に走っていく。
その様子をぼんやりと眺めていた虎太郎は、和希の「お前さぁ」という声に視線を戻した。
「いっつも自分は何もしてませんって顔してるけどさ、わかんないわけ? なんで俺らがお前のことを嫌いなのか」
「わかるも何も、何もしてない」
それより、お前がまともに話そうって気があることに驚いた、と心の中で呟いておく。
虎太郎の返答に和希がいら立った顔をさせた。
「じゃあ教えてやるけどさぁ」
そう言って、和希は拳を振り上げた。
夕日に照らされて真っ赤に染まった右の拳は、固く握られていて当たったら痛そうだ。
瞬きをする暇もなく、その拳は風を切る音とともに虎太郎の鳩尾をえぐった。
「うぐっ」
そんな情けない悲鳴とともに、目の前に火花が散った。
遅れてズンと鈍い痛みと吐き気が襲ってくる。
座っていられなくなって地面に転げ落ちる虎太郎に、和希が足蹴をした。
肩に衝撃が走るも、腹の痛みでそれどころではない。
呻く小太郎に向けて、和希は言った。
「キモいんだよ、お前。いつもキョロキョロしているし、何もない所をガン見したりしてさぁ」
大将が手を出したことで抵抗がなくなったのか、周りの奴らも殴ってくるようになった。
「この前なんか、空中に右手突き出して『来るな』とか言ってたぜ」
「なんだ、中二病か?右手が疼くんですかぁ?」
「病院行って来いよ。頭の病院」
ゲラゲラと下品な笑い声。
痛みをこらえながら、虎太郎は思った。
やっぱりここを出よう、と。
「おい、遅いぞ」
歯を食いしばって呻くのを我慢していた虎太郎は、和希の声に瞑っていた目を開けた。
「ごめんって。職員の目を盗むの、大変なんだ」
パシリが上がった息の合間にそう言い、両手で持っていたバケツを大将に渡す。
チャポンと水のはねる音に、虎太郎はこれから起こることを悟った。
(これは……うん、困るなぁ)
こちらに傾けられるバケツと、重力に従って降ってくる濁った水が、やけにゆっくりとして見えた。