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夜ふかしのすゝめ  作者: 桜野 佳宵
2/21

稚拙ナ虐メ

──と、再び窓の方に動きがあった。

 自分たちの攻撃が相手にダメージを与えられていないと悟ったのだろう。ぞろぞろとグラウンドに出てくる。

 

 ブランコをまるで集団リンチするようにぐるりと囲んでくるので、腰かけていた虎太郎は自然と和希たちを見上げる格好になった。

「なに?」

 毅然(きぜん)とした態度でそう尋ねると、周囲の空気が一層鋭くなって、少しだけ恐怖心を抱く。


「おい、アレもってこい。トイレにあったやつだ。中身も入れろよな」

 虎太郎をジッと睨みつけながら、和希が言った。

 その言葉に、役割分担でもしてあるのか、取り巻きの一人がそそくさと部屋の中に走っていく。

 その様子をぼんやりと眺めていた虎太郎は、和希の「お前さぁ」という声に視線を戻した。


「いっつも自分は何もしてませんって顔してるけどさ、わかんないわけ? なんで俺らがお前のことを嫌いなのか」

「わかるも何も、何もしてない」

 それより、お前がまともに話そうって気があることに驚いた、と心の中で呟いておく。

 虎太郎の返答に和希がいら立った顔をさせた。


 「じゃあ教えてやるけどさぁ」

 そう言って、和希は拳を振り上げた。

 夕日に照らされて真っ赤に染まった右の拳は、固く握られていて当たったら痛そうだ。

 瞬きをする暇もなく、その拳は風を切る音とともに虎太郎の鳩尾(みぞおち)をえぐった。

「うぐっ」

 そんな情けない悲鳴とともに、目の前に火花が散った。

 

 遅れてズンと鈍い痛みと吐き気が襲ってくる。

 座っていられなくなって地面に転げ落ちる虎太郎に、和希が足蹴をした。

 肩に衝撃が走るも、腹の痛みでそれどころではない。

 (うめ)く小太郎に向けて、和希は言った。

「キモいんだよ、お前。いつもキョロキョロしているし、何もない所をガン見したりしてさぁ」


 大将が手を出したことで抵抗がなくなったのか、周りの奴らも殴ってくるようになった。

「この前なんか、空中に右手突き出して『来るな』とか言ってたぜ」

「なんだ、中二病か?右手が疼くんですかぁ?」

「病院行って来いよ。頭の病院」

 ゲラゲラと下品な笑い声。 

 痛みをこらえながら、虎太郎は思った。

 やっぱりここを出よう、と。


「おい、遅いぞ」

 歯を食いしばって呻くのを我慢していた虎太郎は、和希の声に(つむ)っていた目を開けた。

「ごめんって。職員の目を盗むの、大変なんだ」

 パシリが上がった息の合間にそう言い、両手で持っていたバケツを大将に渡す。


 チャポンと水のはねる音に、虎太郎はこれから起こることを悟った。

(これは……うん、困るなぁ)

 こちらに傾けられるバケツと、重力に従って降ってくる濁った水が、やけにゆっくりとして見えた。


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