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夜ふかしのすゝめ  作者: 桜野 佳宵
14/21

辺鄙ナ任務地

 御先堂の管理部門といえば伊勢(いせ)、伊勢といえば管理部門。

 これが御先堂内での常識だ。

 ケガレの情報を集めて組員に仕事を振るのも彼らの仕事である。

 

「今回はたしかに異例中の異例ではあるけど、こたろー相手ならしょうがないかな。あぁ、伊勢は悪くないよ? 杵築(きつき)家の直下で働いているわけだし、どちらかと言えば犯人は杵築家だろうね」


 車の運転席から、大雅が苦笑交じりに言った。

 話題は虎太郎の早すぎる初出勤デビューについてだ。

 

 真白たちの反応で不安になっていた虎太郎は、移動時間の暇つぶしと称して大雅を質問攻めにしていた。


「俺だから仕方ないって、どういうことですか?」

「んー、つまり虎太郎は特別だってこと」

「それ、杵築さんにも言われました。学長の」


 大雅の答えに納得のいかない虎太郎が、口をとがらせて不満げに返す。

 

 たしかに御先堂に来る前は、少なからず自分は他と違っていた。

 しかし、化け物が見えることは神獣使いにとって当たり前のことで、ようやく虎太郎は自分に居場所ができたように感じていたのだ。


 それを知ってかしらでか、大雅は複雑な表情を浮かべて笑った。

 苦笑いにも見えるが、どこか憐れんでいるようにも見える。

 線を引かれているように感じて、それがさらに虎太郎の孤独感を強めた。


「こたろーはさ、ミヤビさんの声が聞こえるでしょ?」


 予想外の言葉に戸惑いつつ、虎太郎はうなずいた。

 大雅の神使だけでなく、今朝は海斗の神使の声も聞こえた。

 

(そういえば、海斗さんの神使が言っていたな。他の人には声が聞こえないって。もしかして……)


 虎太郎はハッとして大雅を振り返った。

 視線に気づいた大雅が、その通りとばかりに口角を上げる。


「普通は契約した神使としか意思の疎通ができないんだよ。でも虎太郎は、少なくともミヤビさんと会話することができる」


 そこで一度言葉を切って、大雅はナビに目を向けた。

 任務地が辺鄙(へんぴ)な場所にあるらしく、彼が面倒くさそうに免許証を引っ張り出していた姿は記憶に新しい。


「それに、最初から神使が見えたっていうのもすごいことなんだよ。まあ、こっちはたまにあることなんだけどさ」

「そうなんですか」


 虎太郎はそういうものなのだと理解して、一旦口を閉ざした。

 会話が途切れて、車内が静寂に包まれる。

 他に聞くことはないかと思考を巡らせているうちに、車は高速道路を降りて一般道に入った。

 

「あの、そういえば孝一郎さんは任務にはいかないんですか?」


 ナビのアナウンスが途切れてから、虎太郎は再度口を開いた。

 家の壁に掛けられているボードには一日のそれぞれの予定が書かれており、孝一郎の欄だけ空白だった。


 偉い人ほどデスクワークが多くなるのは当たり前で、質問しなくても良かったのだが、気になったことはなるたけ早く解消したい主義だ。


 質問を受けた大雅は、ナビを見たり周囲を確認したりと忙しそうで、答えるのに少し時間を要した。

 数十秒後、ようやく道が分かったようで、軽く肩をすくめてみせた。

 

「主任は二年前に大怪我を負って、戦闘要員としては引退したんだ。今はほとんど主夫にジョブチェンジしてるね」


 苦い表情を浮かべた大雅に、虎太郎は余計なことを聞いたかなと思いつつ頷いた。

 

「なるほど。……えっと、もうちょっとだけ聞いてもいいですか」

「いいよいいよ。1つどころか、いくらでも聞きなよ。まあ、俺が答えられるのなんて知れてるけどさ」


 そんな会話を繰り返し、時刻が昼を少しすぎた頃、二人は山の麓にある集落に到着した。


「うわぁ、いかにもって感じ。ワクワクしちゃうね」


 どこを見るでもなく呟いた大雅に、虎太郎も同意見だと苦笑した。

 古びた民家がポツポツと建っていて、その間を埋めるように野菜畑が広がっている。

 

 わずかにお店のような看板も見えるが、営業しているかどうかすら怪しい廃れ具合。

 こういう雰囲気の場所が、たいていホラー映画の餌食になるのだ。


「それで、どんな依頼だったんですか?」


 コンビニで買ったおにぎりを頬張りつつ尋ねる虎太郎に、大雅が「ええっと」と言いながらスマホを開いた。

 少し操作したのち、調査内容を読み上げ始める。


「心霊スポットとして有名な『徒波(あだなみ)トンネル』にて、インターネットを含め、多数の怪奇現象の目撃証言あり。トンネル付近の調査をされたい。また、場合によってはケガレの修祓(しゅうばつ)も行うこと、だそうです」


 わざとらしく(かしこ)まった口調で締めくくると、大雅はへラリと笑ってみせた。


「憑依タイプだったら流石にキツイけど、普通のケガレなら一人でも祓えないことはないし、まあなんとかなるよ。だいじょぶだいじょぶ」


 その軽さが不安になるのだと心の内でぼやきつつ、虎太郎は適当に頷いておいた。


「さて、簡単にお昼も済ませたことだし、とっとと調査して帰ろうか。一応泊まることも想定して準備してきたけど、日帰りのつもりでいないとね」


 大雅いわく、普通タイプのケガレごときで泊まりがけの調査をすると、伊勢家にどやされるらしい。

 最悪の場合、宿泊代が自腹になるのだとか。

 

 手持ちの少ない虎太郎としても、無駄な出費は避けたいところだ。

 二人の神獣使いは変なところでやる気を(みなぎ)らせながら、雰囲気ある集落に足を踏み入れた。

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