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夜ふかしのすゝめ  作者: 桜野 佳宵
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ウンザリナ人生

 人生山あり谷あり。

 そんな言葉を耳にして、はてと首をかしげるのは自分くらいだろう。

 虎太郎(こたろう)はキーキーと油の足りない音をさせているブランコを揺らしながら、重いため息をついた。

 人生山あり谷あり。はて、自分に山なんてあっただろうか。

いくら思い返しても、ずっと深い渓谷の濁流(だくりゅう)を流され揉まれて生きる人生だ。


 虎太郎は生まれてすぐに親に捨てられ、乳児院から児童養護施設へと渡された、いわゆる孤児(みなしご)というやつだ。

 虎太郎という名前だって、市長が付けてくれたと聞く。


 発見された町名を苗字として名乗りながら生き、早十四年。

 学校に通わせてもらっているだけありがたいと思うべきなのだろうが、やっぱり渓谷から這い上がることは未だできないでいる。


 今日もまた、施設内の掃除当番をサボった罰だと外に出されてしまった。

 グラウンドの草むしりが終わるまで、決して部屋に戻るなと施設の職員に言いつけられたのだ。

 サボった? そんな馬鹿な。

 虎太郎はグッと拳を握り、目を伏せた。

(サボったのは和希(かずき)たちだ。あいつら、いつも俺のせいにしてくるから)

 

 和希というのは虎太郎と同い年の少年で、ともに施設で暮らしている子だ。

 幼いころから一緒なのだから、幼馴染と呼んでもいいのだが、おそらくアイツは嫌がるだろう。

 いつも虎太郎のことを『牙なしかまちょ』と馬鹿にしては、いろいろな嫌がらせをしてくる。

  

 別に虎太郎は誰かにかまってほしいわけではないのだが、そう呼ばれることに心当たりはあった。

 それは、まだ自分の名前もまともに書けないような、とても幼いころ。

 その頃の虎太郎は夜中になると決まって「外に怪物がいる」などと騒いでいた。

 そのたびに施設の人が来て「もう大丈夫。神獣使いさんが追い払ってくれたからね」などと言って宥めてくれた。


 今思うと確かに甘えん坊の戯言(たわごと)のように思われるのも無理はない。

 しかし、本当に虎太郎には見えていたのだ。

 カーテン越しにうごめく、この世のものとは思えない造形の影が。

 グルグルと低い唸り声だって聞こえていた。

 それなのに、施設の人たちはまるで聞こえていないように無反応で、一人怯えている自分を考えると酷く情けなく思えた。


 とにかく、そんな体験を何度もしてしまったせいで、虎太郎のあだ名は『かまってちゃん』やら『かまちょ』やら、果てには『牙なし』と名前に関連付けて揶揄(やゆ)された。

 さすがに小学校高学年になると虎太郎も学習し、口にすることもなければ泣くこともなくなったけれど、しかしここは環境の変わらない養護施設。

 幼馴染しかいない場所で、どうやって心機一転の機会を図れるといのだろうか。


 いくら進級してクラスが変わっても、学校から帰ればおなじみの顔がずらりと並ぶのだ。

 いい加減、ここを出て彼らから離れたい。

 それが虎太郎の心からの本音だった。


(小さい子たちは別にいいんだけどなぁ。お世話したり、遊んでやるのも嫌いじゃない。高校生とか中学のやつらが厄介なんだ)

 虎太郎はうんざりとして、本日二度目のため息をつく。

 ふと目の端に何かが映り、反射的に顔を上げた。

 見ると、ダイニングルームとグラウンドを行き来するための大開口窓に、和希とその取り巻きが立っていた。

 

事あるごとに虎太郎に嫌がらせをしてくる連中だ。

「うわ、こっち見た!」

「見んなよ、サボり魔! 草むしりは終わったのかよ!」

 中学生らしい稚拙(ちせつ)な言葉遣いで(ののし)られ、やっぱり虎太郎はうんざりした。

 面倒くさい。実に面倒くさい。


 反応しなければいずれは飽きるだろう、なんて淡い期待をしているが、今のところ悪口は絶好調のようだ。元気そうで何より。


 虎太郎が視線を足元に戻すと、今度は「こっち見ろよ!」だの「ちゃんと反省しているのか?」だの、好き勝手言い始める。

 どっちが『かまってちゃん』だと言いたくなる。

 というか、見てほしいのか見てほしくないのか、一体どっちだ。いや、どっちでもいいが。


 不意に面倒くさいという気持ちの中に、少しだけ負けず嫌いな自分が主張してきた。

 スルースキルのやたら高い自分だが、やられっぱなしでいることもまた性に合わないのだ。

 虎太郎はさり気なく窓の方を見て、それからこれ見よがしに欠伸(あくび)をして見せた。

 暇だなぁ、眠いなぁ。そんなアピールをする。

 

「あっ、あいつ欠伸しやがった! 全然反省してねぇじゃん!」

 和希の子分の一人が、こちらを指さして言う。

 相変わらずちょろい奴らだ。

 わあわあと騒ぎ立てる取り巻きたちに満足した虎太郎は、茜色に染まった空を見上げて、もう一度ブランコを揺らした。


(後書きは今回限りにいたしますので、ご容赦ください)


まずは、第1話をお読みくださりありがとうございます!

最初の数話は暗めのお話になりますが、徐々に明るくなっていきますのでお付き合いいただければ嬉しいです。

あらすじ欄で書いた通り、文章はやや硬めです。それでも「仕方ない、読んでやろう」と思ってくださった素敵な方、ブックマーク登録をしていただけると大変励みになります。よろしくお願いいたします。

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