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DEVIL'S PARADE -CYBER DEAMON SAGA-  作者: 鉄機斎規格
9/9

And then he's gone, and the Greyhound is tracking him, sniffing what's left of him.

 アヴァターラの崩壊――。白京(バイジン)を裏で牛耳る犯罪組織の壊滅は、日をまたがずに魔都に棲まう人々と魑魅魍魎に膾炙された。偽装されたアヴァターラの本社ビルは今や廃墟と見紛う外装を解かれ、周囲のビルとは一線を画する威容を誇っていた。しかし、見栄えが良かろうが所詮は主を亡くした虚ろな(おか)。この魔都にあっては、数日の内に荒廃の嵐が吹きすさぶのは目に見えていた。


 猖獗を極めた都市にあって、警察とはマフィアの別称に近しい存在ではあるものの、なおざりながらも仕事の体は保たねばならぬとみえる。気だるげな顔を隠そうともしない警察官が、アヴァターラのビルの屋上で断面が整った(わだち)を見つめていた。


 その奥には鉄骨が突き刺さっており、ドッグタグがぶら下がっている。月明りに手を伸ばすような鉄骨に垂れ下がったそれには、梁伟 (リャンウェイ)とある。察するに、アヴァターラの関係者だろうか。どちらにせよ、腐敗した警察には興味の範疇にない話だ。


「こりゃ、呪術だな。俺たちにできることはなにもない」


 無精髭と寝癖を整えようともしていない中年の刑事がいい加減に判断し、早々に帰路につこうとする。警察機関とはいえ、魔科学については門外漢に過ぎない。もっとも、通常の殺人事件さえも魔科学由来のものと判じて捜査を打ち切られるのは、珍しい話ではない。結局のところ、彼らは仕事をしたというポーズこそが求められるのであり、真面目に捜査を行う気など毛頭ないのだ。


「呪術? 本当にそうかな?」


 中年の刑事――(チャン)は突如背後で響いた男の声に振り返った。誰もいない。


「?」


 まさか、ここはとっくの昔に呪術的汚染を受けていて、魔物が発生しつつある異界なのだとしたら……。尋常な常識や法則さえも通じぬ異界と化した地域は封印せねばならない。侵入した者を含めて、だ。だが、ファウストカウンターでは、それほどの魔咒線量は検出されなかったはず――。


 背筋に怖気が走る。


「まあ、そんなに驚くなよ。(チャン)


 ねっとりとした粘性の声。肩を叩かれた(チャン)は、その主に思い当たった。


(レン)特別捜査官……」


 首を巡らすと如何なる身のこなしか、察知されることなく背後から背後へと回り込んだ(レン)と呼ばれた捜査官の姿があった。


 高級なスーツを着込んだ捜査官はそのスタイルもあって、流麗な印象を受けなくもないが、アイマスクで隠された両眼がそれを打ち消している。不気味な男だ。魔科学関連の事件を追う、特別捜査官はつい先日アヴァターラの捜査のために白京(バイジン)へと到着した。本格的な捜査の開始の前に、その対象が消滅した形なのだが、(レン)に気にした様子はない。


「確かに、これは呪術的な痕跡が残っている。ただ、かなり痕跡自体が少ないのが気になるが……」


 宙を仰いで、鼻を鳴らしながら特別捜査官は告げる。鋭敏な感覚は電子的な拡張がなされているという噂もあるが、真偽の程は定かではない。


 (チャン)の胸元で端末が震える。通話に出ると、警察署長だった。(レン)特別捜査官へ代われとの仰せだ。特別捜査官だというのに、端末の類を所持していないのか。


(レン)特別捜査官、電話です」


 無言で受け取った特別捜査官は二、三言葉を交わすと、端末を返してきた。


「捜査対象の変更が署長経由で伝わってきた。短い間だったけど、じゃあな。(チャン)刑事?」


 結局、何をしに来たのか、(レン)は上機嫌のまま現場を去っていった。



 * * *



 口笛を吹きながら、(レン)は地下へ通じる階段を降りていく。鋭敏な嗅覚が求めるものを嗅ぎ分けたのだ。階段の終着点にある重厚な扉を開けば――めくるめく芳醇な甘い香りが立ち込める。


「いらっしゃいませ」


 初老の声。ゆるやかに流されるクラシックなジャズ。色境には映らなくとも、この店が初老のマスターの自慢の城であることは、わかる。大気に満ちる空気がそれを肌感覚で伝えている。


「先客が、いたのかな?」


 目敏く――という表現が適切かはともかく、(レン)は先程までスツールに座っていた人物の残した気配を感じ取っていた。酒精の香りが、マスターの確かな腕を特別捜査官へと物言わぬ声で告げてくる。


「ええ、友人が遠くに行くそうなので、無事を祈って一杯を」

「ブラッディマリーか」


 血のような粘りと赤から付けられた「血まみれメアリー」の名を持つカクテル。もう(レン)にはその鮮烈な赤を見ることはかなわないが、薄れてもなお嗅覚に陶酔をもたらすアレンジにマスターの確かな熟練の技を感じた。


「よくおわかりで。お客様? 何かお作りしましょうか?」

「そうだな。では、グレイハウンドを頼む」

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