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DEVIL'S PARADE -CYBER DEAMON SAGA-  作者: 鉄機斎規格
7/9

Demon's Helo : Sacrifice To The Devil ; How Does It Taste, Princess?

黒銀(ヘイイン)! (わたし)に傷をつけるなど……許さぬぞ〟


 痛みに喘ぎながらの叱責を、黒銀(ヘイイン)は聞き流していた。何も捧げずに勝利を得るなど、隔絶した格差――それこそ次元の違いほどの差がなければ不可能だ。それを理解している黒銀(ヘイイン)は、姫の声を封殺して紫幹色金(シカンイロノクガネ)を駆る。

『大体、性質が読めてきたな』


 先ほどの巨腕を差し出したのは、何も肉を斬らせて骨を断つという狙いだけではなかった。視界――(ロウ)が右眼を捧げたアルバルクの特性は、確実に色境による〝なにか〟だ。しかし、絡繰は見えた。


 黒銀(ヘイイン)は巨腕でアルバルクの視界から紫幹色金(シカンイロノクガネ)の本体を隠したのだ。今まで《《起点》》を抑えられ、有効打となり得なかった手数。だが、視界を封じた途端、深手を与えることに成功したのは、やはり――。


 ――予知……というよりも予見だな。


 次なる動きを高確度で予測し、その起点を封じる。これこそがアルバルクの持つ権能。悪魔に魅入られた者が肉体の一部を捧げた末に与えられた、科学の外にある外法であった。


 外套(マント)じみた袈裟で躯体を覆い、内側からの刺突。際どいところで躱したものの、先ほどと比べれば精彩を欠く動きだ。やはり、そうだ。アルバルクの右眼は紫幹色金(シカンイロノクガネ)の、視界に捉えたものの動きを予め察している。しかし、同時に覆い隠された影からの動きは読めない。


 先ほどまでと打って変わった攻防の天秤は、明らかに黒銀(ヘイイン)に傾いていた。趨勢で語るならば、ほどなく決着を迎える。紫幹色金(シカンイロノクガネ)の勝利という形で――。


 廻転。地面から趾へ、趾から足首へ、足首から膝へ、膝から股関節へ、股関節から脊髄へ、脊髄から肩へ、肩から肘へ、肘から手首へ、手首から剣へ……。順を追いながら廻転勁力を増大させていく。運動エネルギーに咒いを込めた一太刀は、二の太刀を要さず。戦車の装甲の破断はおろか、いかな鬼導妖魔(デモンズドゥル)とて無事には済まさぬ、乾坤一擲の破魔の太刀。


『ッ――』


〝ああああっ〟


 粉砕。崩壊(レッキング)する瓦礫の数々。衝撃。振盪せしめる突風(ブラスト)


 絶対破断の咒いは先んじて放たれた一手により雲散霧消し、代わりに黒銀(ヘイイン)は強烈な衝撃に見舞われた。巻き込まれた床面が鬼導妖魔(デモンズドゥル)の重みに負けて、抜ける。階下へと落とされた紫幹色金(シカンイロノクガネ)は着地こそかなったが、それよりも正体不明の一手に対する疑問が黒銀(ヘイイン)の頭を渦巻いていた。


〝いい加減にせよ、(わたし)の肌をなんと心得る?〟


『黙っていろ。どうせ、再生して元通りになるだろうが』


 わずらしい声に答えながら、黒銀(ヘイイン)は考える……。

 ――爆裂、というよりも崩壊か。ここに到って行使したということは、(ロウ)の秘奥絶招の(たぐい)


 甲殻じみた装甲には細かく罅が入っている。程なく生じた隙間は閉ざされ癒えるだろうが、それでも幾度となく受ければ危険だ。距離を取る? 否、間合いが開けば今度は予測の網に引っかかる。いくら、袈裟で手足の挙動を隠したとて、躯体ごと動くのであれば予測の精度に影響を及ぼさぬとみてよい。


 結局は近接戦闘が要だ。しかし、如何にして距離を殺すべきか。左道の業とて、なにか法則性があるはずだ。


 油断をしていたわけではないが、まさか(ロウ)がここまでの手練れだったとは。流石に視力の片方を喰わせただけは、ある。


 ――視力。そうか。


 黒銀(ヘイイン)は己の鬼導妖魔(デモンズドゥル)に命じ、右腕でフロア内を什器や瓦礫ごと薙ぎ払わせた。


黒銀(ヘイイン)、何をやっておる?〟


『姫、少しは静かにしてくれ』


 粉砕。濛々たる塵芥が舞い上がり、屋上のアルバルクへと到達した。


『なに? 黒銀ヘイイン、貴様ッ』


 アヴァターラの首魁は、己と鉾を交えている相手の狙いをたちどころに理解した。当然だ。敵と自身の捧げたモノを知れば百戦危うからず。これこそが、第三次世界大戦後の鬼導妖魔(デモンズドゥル)戦闘だ。


『クソが!』


 左の視界に収めた射程内の万物を崩壊せしめる――それこそが、アルバルクの最大の権能の正体だろう。そして、破壊力と範囲の広さから察するに、少々のタイムラグを要するはず。たとえ、多少異なっていようが、視覚を銃爪(トリガー)としているのは間違いない。


『かくれんぼは得意だったんだ』

『うっとおしい!』


 時折、右腕で周囲の塵埃を巻き上げ、それで躯体を包み隠しながら、アウトボクサーの如く、蝶の舞で蜂の突きを見舞う。やはり、視認しなければ崩壊の呪詛は現実化できぬらしい。死角へ死角へと、土煙の向こうから向こうへ。ドウジギリの一閃が瞬く度にアルバルクは追い詰められ、機体が損傷していく。


 勝敗は決した。未来予測をしようにも、紫幹色金(シカンイロノクガネ)は躯体を袈裟で隠している。視覚に入ったとて、満足な予測はできぬ。


 しかして、手詰まりとなった(ロウ)がいつしか塵埃の腫れ上がりを見た頃には、既にアルバルクの四肢は破断、もしくは引き千切られていた。眼前の光景を見つめるしかない(ロウ)の視界には、黒い異形の虚無僧はいなかった。末期の光景にすら映らぬ徹頭徹尾ぶりからは、最後の最期の抵抗さえも許さぬという徹底した殺意の程が伝わる。


『王手だ……(ロウ)、お前も悪魔に身を喰わせた者デモンズ・ペイメンター。末路はよく理解しているだろう。深遠なる無へと旅立て』


 背後から囁く声。不自然な程に真っ赤な炎の色が視界の隅にちらつく。デモンズ・ハイロゥ――。黒銀(ヘイイン)の悪魔が本性を顕した証左だ。強力な悪魔が稼働する際に、余剰魔力が頭上に炎の輪を生む。デモンズ・ハイロゥを顕現させる領域の悪魔に直接身を捧げているとは……。もはや正気を疑う程の、横溢する憎悪が為せる業か。


 反応することさえ許されず、(ロウ)は自身が喰まれる絶望の咀嚼音を聞いた。

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