夢に微睡む羊の魔人
出てきたものしか書けないから、繋ぐの難しい。
夢を見るために今日も眠る。
あちらの世界は今日も幸福だ。
どんな恐怖も、どんな絶望も、死も。
夢なら覚めれば現実。日々、望まぬ事も夢なら愛しい。
あちらはとても自由だ。
幸せな夢から目を覚ます。
起きてしまうのがもったいないくらいの楽しい夢。そこは私だけの海。
体を起こし、夢を思い出すように記憶を辿る。
深海に一人沈み行く。浮上しようともがくが地上の光は遠ざかるばかり。
死を受け入れ、闇に身を任せれば思い出す。
ここは夢だ。
意識することで体は自由を手にし、呼吸も不要となった。
体勢を起こし、地上へと向かい泳ぎ続けるが、変わらない光に違和感を覚える。
この世界は、ここまでしかない。
目を閉じ想像する私の知っている海。
沢山の魚、綺麗な珊瑚、思い出せるだけ思い出し目を開ければ、広がる海の楽園に心が躍った。
少々異物の混ざる不思議な海だけどそこはご愛敬。
現実が紛れ込み、陽光降り注ぐ深海は一気に、にぎやかになった。
どのくらいか楽しく泳いでいると、不穏な気配に振り向く。
背後に迫る深い闇は、有無を言わさず私を飲み込んだ。
「あの魚さえいなければ……」
飛び起き眩しさに痛む目を右手で塞ぐ。
楽しかった夢から強制退場させられたことに落胆し、続きを見ようともう一度横になるが、悲しい事に目は冴え眠れそうにない。
退屈な一日のお昼寝は大好きだ。現実から離れ、夢にもぐる。
今日もそんな何もない一日だった。が、一日が終わるにはまだ早いので本を読むことにした。
本の世界も嫌いじゃない。
そこに自分をもぐりこませ、そうであったらと想像する。置き換える。
読みふけるうちに時は過ぎ、うとうとと睡魔に襲われ意識はあちらへと招かれた。
見えない何かに追われている。
走って走って走って……。
ただひたすらに真っ直ぐ、暗く、狭い廊下を走っている。
同じ景色が続き逸れることを許さない。
鼓動は強く、早く。全身に汗が滲む。
終わりの見えない現状に、それは何故見えないのか、ふと気になり振り向く。その瞬間……。
トスッ
衝撃に目を見開き、腹部を見つめると赤に染まる白い服。
腹に刺さるそれをたどると、闇から伸びる白い腕。
見えないはずの顔は、笑っているように感じた。
(そうか…、ここは夢だったのか……)
現実に戻されたところで、手に持っていた本が落下していることに気付く。
夢とは言え、死んでしまった私の鼓動は、現実で強い脈を打ち続けていた。
深呼吸をし、息を整える。
夢で良かったと、安堵しながら外を見れば、オレンジに染まる街に今日も終わるのかと、虚しさを感じる。
夢を見る事が好きでも、それだけでは生きていけないから。
「永遠に眠っていられたらいいのにな……」
独り言は、夜の闇に吸い込まれた。
いつの間にか暗くなっていた外に、何をしていたか自分でもわからず苦笑した。
今日を終えるための一通りの行動を終え、お気に入りのベッドへともぐりこむ。
ふわふわ羊を模った枕に、もこもこの布団に包まれて安眠を願う。
どうせ夢を見るなら楽しく、幸せな夢がいい。
あんなに寝たのにすぐに眠れてしまうのは自分でも驚くが、考える間もなく夢へと招かれた。
目を開けると広がる天上世界。
淡い色の世界は紫の雲の上、桃色の城、三色の虹。
ここは夢だと、すぐに気付き今までにない胸の高鳴りを感じた。こんなに早く、夢だと気付けたのは初めてで、何よりも行動がとても自由だった。
現実と間違えてしまいそうな足取りで目指すのは桃色の大きなお城。
遠くに見えたその城は、想像よりも近く、門の前へとたどり着く。
辺りを見回すが、この夢には他の登場人物もなく、城への侵入に成功する。
中に入れば大きな広間に一脚の立派な椅子。
自分の夢なのだからと、堂々と腰かける。
王様になったみたいだ。
モソモソ
満足げに座っていると部屋の周囲から音がした。
無人の世界に新たな気配で少し身構える。
「女王様?」
「女王様なの?」
「わ~い! 女王様だ!」
「見えないよ~」
出てきたのは沢山の雲のような羊。
しゃべっているが夢なので違和感はない。
女王様と言う単語が気になるが。
「あなた達は、どんな存在?」
変な聞き方だなと思いつつ様子を見る。
椅子を中心に群がる雲の羊はざわざわと落ち着かない。
すると一匹の羊が代表して問いに答えてくれた。
「ぼくたちは女王様の夢だよ! ずーっと女王様がくるの待ってたんだ~」
夢だと言う彼らからは敵意はなく、待っていたという事が気になった。
「ここは私の夢でしょう? なぜあなた達が待っているの? ここは私の夢ではないの?」
「ここは夢の番人である女王様だけが入れる特別な夢! ぼくたちは女王様の夢だから存在できて、ここはもう女王様のものなの!」
驚いたが女王と呼ばれることに悪い気はしなかった。
しかし、夢の番人と言われても自分に出来ることはなく、これも夢だからかと妙に冷静になった。
「残念だけど、私は夢を見る事がただ好きなだけの凡人で、番人と言われてもできることはないの。夢だから目を覚まさなきゃいけないし。なんかの間違いでここに来たのかも」
呼ばれたのは自分ではないと思うと少し残念で、そろそろ朝かなと名残惜しむ。
「そんなことないよ! ここは他の人は入れないもん! ぼくたちは女王様の力になれるよ!」
「そうだそうだー!」
「なれるもん!」
静かだった羊達が一斉に騒ぎだす。
急な変化に身構え、話していた羊の様子をみる。
「女王様は人でいたいですか?」
その質問に胸がザワつく。
「夢の女王様だって目覚めるし、他の夢に干渉したり、自分の夢にも干渉できて、望む夢を見せることももできるんだよ! 人とは違う存在になるけど、人より永い夢をみていられる。それはイヤ?」
うるうるとした瞳に見つめられ、その視線を一身に浴びる。
永遠に夢を見たいという願いは、承諾すれば叶うだろう。
それは、人である必要がなく、自身も人でありたいという欲はない。
なら、答えは既に決まっていた。
「いいよ。女王様になってあげる。だから、私の力になって! 私に永遠の夢を見せて!」
「わーい!」
「わ~い!」
私の了解を得ると羊達は喜び、一斉に飛びかかってきた。
急な行動に驚き目を瞑るが痛みはない。
むしろ柔らかいものに包まれ心地良い。
ゆっくり目を開けると微かな黒煙が晴れるのが分かった。
そして、身に纏う雲のドレスと変化した容姿に魔人と化したことを理解した。
ドレスを見ていると、話していた羊が顔をだす。
羊自身がドレスとなり、側にいてくれるようだ。
「ありがとう女王様! これからずーーーっとよろしくね!」
目を覚まし、日常へと戻る。
最初に試して見たい事があり、現実にて魔人と化す。
お昼を過ぎた頃、雲羊に乗り、人々の頭上にて街を見下ろす。
「皆さんお昼寝の時間ですよ~」
女王の証である杖を振り下ろし、街を夢雲で包みこむ。
「おやすみなさい。良い夢を」
安眠を届けた後、自身も夢の城へと帰還する。
玉座は眠りやすいよう、雲の長椅子へと変え、体を預ける。
夢の中で眠る。なんて贅沢な一時。
夢はいつまでも夢のままで。
私はですね、夢の中で包丁で刺されたことと、成人式に 轢かれる夢みたことあります。
夢でよかった!