双剣の麗人は魔人
「ねぇ? 知ってる? 双剣の麗人様の話!」
「知ってるわ! 炎の剣を振るう殿方でしょ? 一度お合いしてみたいわ〜」
「何言ってるのよ! 氷の剣を振るう美しい女人でしょ! 何を勘違いしてるのよ」
「中性的って聞いたし、どっちか見間違えたんじゃない?」
「「「ん???」」」
ここはとある小さな村。
村人達は自給自足、身を守るすべも自分達次第。
苦楽を分かち合い、支え合いながら生きて行く平和な村。
そんな小さな村にも困りごとはある。
近くの森には魔物が住むため、日々の退治と収集は欠かせない。
「はい! 今日のお手入れもバッチリだから! 大ケガだけはしないでよね」
「あぁ。 いつも助かるよ」
いつも通りの何気ない会話。
「あとこれ」
彼女から手渡されたのは小さな短剣。
彼女と僕、2人で習いながら初めて作り上げた作品。
「なら、これは君に。 守り刀として君に持っていてほしい」
彼女は嬉しそうに短剣を抱きしめる。
「考えてることは同じなのね。 こっちはあなたが持ってて」
彼女の短剣は僕に。
彼女の明るさを纏ったような真っ赤な短剣。
「この子の出番がないように!」
いつもと少し違う会話。
違和感。
いつもと種類の違う魔物。
やや苦戦を強いられる現状に嫌な汗が一つ。
考えたくもないし、考えてはいけない、嫌な予感。
「おい! 村から煙が…うわっ!」
倒れる仲間を横目に周囲を見渡せば、戦況は悪化していた。
一人一人倒れ、村へと、彼女へと気がそれたその一瞬、背後から切り裂かれる。
視界が霞、全てが暗転する。
「どうして!? なんで村に魔物が? みんなは!?」
獣を象るそれらは、容赦なく村人を襲う。
村に戦える若者は少なく、またたく間に淘汰される。
✕✕✕は、短剣を持ち抗うが、虚しくも払われた短剣で心臓を貫かれた。
冷たい雨に目を覚ます。
背中の傷、重く鉛のような体を引き摺り一本一本と進む。
何事もありませんように。
村だけでも、彼女だけでも…。
願いを打ち砕く悲惨な現状。
雨の中燃え続ける家屋。
蔓延する血の匂いと異臭。
向う先は、彼女のもと。周りに目もくれず、ただその場所へと急ぐ。
叶うわけがなかった…。
守るために渡したのに…。
彼女には複数の引き裂かれた傷と、心臓に突き立てられた青い短剣。
膝から崩れ落ち、雨に混ざった涙は彼女に降り続ける。
声にならない声をあげ、彼女の頬に手を添える。
時間が経てば、この絶望が現実であることを嫌というほど、意識させられた。
自分以外誰もいなくなったこの村。
自身を見ても長くは持たないだろう。
「君を…君だけを逝かせたりはしないよ。 僕も一緒だ」
彼女から貰った短剣を自身へと向ける。
ーあなたを守ってくれますように。
そんな彼女の声が聞こえ一瞬戸惑うも、より涙が溢れ、全ての音を消した。
「僕の命が少しでも残っていたなら君にあげたかった。 でも、この体ももうダメなんだ…。 僕の短剣は君を守れなかった。 だから君が僕を連れていってくれ。 来世は…、可能性が少しでもあるなら僕は君を今度こそ守るよ」
真っ赤な短剣を自身の心臓に向かって一突き。
動力を失った体は彼女を守るかのように覆いかぶさる。
2人の血と涙が混ざり合う。
短剣にはめ込まれたお揃いの石。
2人がいつまでも一緒にいられるようにと願われたまじない。
石は血と涙を吸い上げ輝く。
黒煙は2人を包みこんだ。
ザシュッ
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか」
差し伸べられた手を握り立ち上がる。
「た…助けてくれてありがとうございます! 剣士様」
魔物に襲われていた女性を助けると、頬を赤らめながら去っていく。
ーねぇねぇ!なんか惚れられてない!? 嫉妬しちゃうんですけど!
「何を言ってるのさ、ただ助けてあげただけだろ」
ーでもでもー! あんまり女の子に優しくしないで!
「僕には君だけだってわかってるだろ? なら君が表に出るかい?」
ーむっ! そっちもいいけど、今はこっちでいいからはやく次の町に行こ!
あの後、僕達は一つになった。
そう、物理的に。
正確に言えば共有なんだけど。
目を覚ますと短剣の代わりに形を変えた長剣が二振り。
何故か赤い長剣には命を感じる。
逆に青い長剣は空っぽだ。
どこか短剣に似ている長剣に触れるとはめ込また石が光、炎が噴き上がる。
驚きはしたが触れても熱さを感じず、彼女に似た温かさにまた涙が溢れた。
ーいつからそんな泣き虫になったの?
顔を上げ、揺らめく炎越しに刀身を見ると、その刃にうつるのは自分であって自分ではない、彼女のようでどこか違う姿。
「これは…何がおこったんだ?」
壊れた家屋の窓越しに自身を確認する。
自分と似ていると言われれば似ているし、彼女かと言われると少し違う。
どちらにも似ていてどちらとも違う。
体の傷もなく、調子もよく感じる。
ー私にもよくわからないの…。少し前に起きたんだけど気が付いたらこんな感じで…。
揺らめく炎は、どことなく人の形をしていて、意思を持って動いているが、剣から離れることはできなさそうだ。
赤い長剣を手放し、青い長剣を手に取る。
とたんに意識が暗転し目の前を見ると。
「え? 今度は私?」
ー僕が今度は剣になったのか?
赤い長剣は抜け殻のようになり、青い長剣は冷気をまとい意思を持つ。
人間では考えられない事だが、この状況を冷静になって考えてみる。
もう自分達は人ではなくなったのだと。
どうやら本体がどちらの剣を持つかで意識の移動がおこり、体の所有権が入れ替わる。
中身が変わることで体にも変化は起きた。
華奢な体に大きなかわりはないが、性別はそれぞれのものへと変化した。
「形は変わったけど、私達、またこうして一緒にいられるんだね」
ーまさかこんなことになるとは夢にも思わなかったけどな。
「もう村の皆もいないんだね…」
ー僕も約束を守れなくてごめん…。
「そんなことない…。 ちゃんと私のところに帰ってきてくれてありがとう」
二人は、村の人を埋葬し後にする。
あの時の違和感を確かめるため。
これからも生きていくために。
「「「だから、麗人様はどっちなのよーーー!!!」」」
二人のまじないが魔人化へと繋がったと思いきや、お腹の子供の願いによるものが大きい。
まだ形にもならないお腹の子はかろうじて生きていた。
石はお腹の子の願いも聞き入れ、両親の体を使い子の体を作り出した。
麗人の姿は、子の未来の姿である。
両親は子ができたことにまだ気付いていないため、その容姿は混ざった結果くらいにしか思っていない。
子の意識は、すでに亡くなっている。
後に天使を統べる母なる魔人によって、子の存在を知ることになる。
剣士様は片方の剣を振るう姿しか目撃されない。
殻になった剣はもろい。




