時を操る鍵守の魔人
操るはいいすぎかも。
る。る。る。
伝わりにくいしなんか設定間違えてそう。
長かった…。
全てを忘れてしまいたかった。
無かったことにしたかった。
それができないなら、せめて、せめて止める事だけは許してください。
町から少し離れたところにある一軒家。
私はそこに一人で住んでいる。
正確には一人ではないのかもしれない。だって大好きなパパとママは側にいるから。
毎日毎日パパとママが起きてくるのを待ちながら私は今日も朝食を三人分用意する。
席に座っても誰も来ないけど、いつもの事なのでそのまま一人。
「いただきます」
静かな朝食を摂り、残りは片づける。
その後もいつもと変わらない日常。
掃除をして、洗濯をして、食事の準備。
夕食の準備ができる頃にはいつも通りにパパとママの部屋を訪ねる。
コンコンコン
3回ノック。相も変わらず返事はない。
…私は持っている。
部屋の鍵は肌身離さず常に持っている。
ただ、開ける勇気がでないだけ。
…私は知っていた。
この鍵を開けてしまったら、扉の向こうはどんな状態か既に知っている。
ただ、忘れてしまいたくて。無かったことにしたくて。信じたくなくて今日も知らないフリをしようとした。
両手で握った大事な鍵。
祈るように強く握った小さな鍵。
焦りか不安か手には汗が滲み、滑り落ちた鍵は床に、静かな家に大きな音が響く。
その音に紛れるように部屋の中から物音一つ。
「パパ!? ママ!?」
慌てて鍵を拾い、開錠。勢いよく扉を開けたことと、外からの突風の影響で部屋の大きな窓が開き、カーテンが激しく揺れた。
部屋からは異臭と眠る両親の姿。
瞬間フラッシュバックした恐怖の記憶。
記憶に鍵をかけ、現実を受け止めようとしなかったのに。
全てが鮮明に思い出され、いとも簡単に私の記憶の扉は開く。
「おやすみなさい」
大きくなっても両親と寝ることが好きだった。
その日もいつも通り三人川の字になって仲良く眠る。
ただ違かったのは……。
ガタン
ようやく眠りについたところで家の中から聞こえた物音が気になりその原因を探る。
両親を起こさないように静かにベッドを抜け出し、暗い家の中をわずかな月灯りを頼りに物音のほうへ向かうと白い小動物が一匹。
「どうしたの? 迷子かな? どこから入ったの?」
何を問いかけても動物だから返事をすることもなく。
様子を伺っているが、逃げるそぶりもなく。
しばらくするとこちらを振り返りながら物置の奥の方へと進んでいく。
見ているだけだったが、何度も振り返るのでその後をついていくと物置の隅に小さな穴が一つ。
そこから外に飛び出したので穴を覗いてみる。
使われていない家具や道具に自分の姿が全て隠れた時、静かに扉の開く音が聞こえた。
親が起きて自分を探しているのかと思い、来た道を戻ろうとすると小動物が戻ってきて指を甘噛みしてくる。
「遊んで欲しいの? もう遅いから戻らないとパパとママが心配しちゃう。 明日遊ぼう?」
そういうと小動物は少し強く噛み、戻ることを拒もうとする。
どうしようかと悩んでいると今度は寝室の方から外へと向かい、いくつもの大きな足音が家の中を駆け抜けた。
様子がおかしい。
自分を探すのに声もかけずにあんなに音をたてて家の中を走るのは。
足音が無くなると小動物が指を放してくれたので急いで部屋へと戻る。
心臓がうるさい。
流れる汗が体を冷やす。
脳はこの先を考えようとしない。
部屋の扉は既に開いていた。
中を見れば、荒らされた部屋に飛び散る無数の血。そして絶命した両親。
その姿は抵抗したのか、傷つき乱れ、もがいた姿が容易に想像できた。
「……っ!!」
喉を殺し、膝から崩れ落ち、声にならない叫び声をあげ意識を失った。
目を開けたのはそれから数時間たった頃。
働かない脳は、ゆっくりと今までに起きた事を思い出す。
その現実を受け止められずに部屋の前で座り込んでいると、開け放たれた窓から一つの影ができた。
逆光の中にいたのは先程の小動物。
――ダメだよ。
頭に響く男の子の声。
――今は思い出さなくていいんだよ。
辺りを見回せどその声の主はいない。
――大丈夫。その記憶に鍵をかけてあげる。今は忘れてもその時がきたら思い出せるから。今は忘れて自分を大切にして。
小動物が跳ね、目の前に来た時には、男の子のような姿になっていた。
――この鍵は渡しておくね。
手に渡された寝室の鍵。
――鍵を閉めたら二人の時間は止まるから。亡くなった人の時間は戻せないけど、僕を……。
瞬きをする間に目の前の少年は消えた。
現状に戸惑う私は、考えることなく言われた通りに鍵を閉め部屋を後にした。
「思い出した。パパとママは殺されたんだね」
そして忘れてしまった記憶と共に思い出す弟の存在。
私は、両親の実の子ではない。
母の姉の子であり、子供の頃病で亡くし妹夫婦に引き取られた。
嫌な顔をせず、実の子のように良くしてくれた両親。
大好きで大好きで大好きで。
いつまでも側にいたくて甘えることが許される間は側を離れなかった。
それなのにいつの間にか母親の腹には二人の実の子が宿っていた。
嫉妬してしまった。
怖かった。
捨てられるんじゃないかって。
でも、不安を抱える私に両親は気付いていたのか、『二人とも私たちの大事な子よ』そう何度も言い聞かせてくれた。
実際はどうなるか分からない。完全に不安を拭えたわけではないけど、この優しい両親の言葉なら信じよう。生まれてきた子には両親から貰った愛情を同じように与えて行こう。
そう思った。
お腹の中には赤ん坊がまだ生きている。
「あなたは私の弟なんだね。そしてあの時、私を助けてくれたのも……」
――うん。僕だよ。僕はまだ生きてるよ。亡くなってしまった人の時間は動かせない。でも、止めることはできるから。時間が進んでしまえば、僕はそのまま死んじゃうから。助けて、お姉ちゃん!
弟は、私を助けてくれた。
そして大好きな両親の忘れ形見でもある。
今度は私が助ける番!
「守るよ! 絶対にこのまま死なせないから。一緒に支え合って生きていこう」
目の前の白い少年のような存在を抱きしめる。
――僕は、お姉ちゃんの鍵になる。嫌な事は、閉じ込めて忘れさせてあげる。僕を使って。
寝室の鍵から黒煙が溢れ二人を包み込む。
黒煙が晴れると、私は魔人としてそこに立っていた。
背中には大きな鍵穴。
目の前にははっきりと見える弟の姿。
そして時間が進んだ両親は白骨化していた。
弟は背中に周り鍵穴へと触れる。
「お姉ちゃんありがとう。ずっと、ずっと待ってたよ」
一体どのくらいの時を待たせていたんだろう。
仮初の日常を長い事過ごした気がする。
「大丈夫。お姉ちゃんの気持ちは分かってるから行こう。一緒に。親を殺したあいつらの時間を止めに」
一つ頷き、寝室に背を向ける。
「パパ、ママちょっと待っててね。二人で行ってきます」
「こんばんわー」
背の高い男に話しかける。
「ん? なんだいお嬢ちゃん。こんな山奥でなんか用かい?」
小屋の方から他にも男たちが現れる。
最初はピリついた空気だったが、子供と分かると気の抜けた空気になった。
「ちょっとお聞きしたいんですけど、町はずれにある夫婦の家知りませんかぁ~?」
男は少し怪訝そうな顔をしたが、すぐに答える。
「知らんなー。それよりこんな暗い時間に子供一人で山に来るなんて危ないぜ? お家に帰って明日町のやつに聞いてみな」
追い返そうとする彼の話を無視し続ける。
「夫婦に子供がいたってしってましたぁ~?」
「は?」
男は少し不機嫌になり苛立ちが見え始める。
「娘がいたんですよ? 母親のお腹には弟がいたんです」
「なんなんだいったい! それがどうしたっていうんだ」
話を続ける私に後ろの男たちが静かに武器を構えるのが分かった。
ニコッ
満面の笑みを向け一瞬で真顔に戻る。
「その子供が私達だって事!」
両腕を背中に回し、背中を露出させる。
溢れる黒煙を纏いそこに立つのは私と弟。
「あなたの時間、没収します! タナ!」
弟は人型から大きな一本の鍵となり両手に収まる。
指を一つ鳴らすと対象の胸に鍵穴が現れ、相手が理解する前に鍵を差し込む。
「……あ?」
勢いよく鍵を右に回すと回転し続ける鍵に合わせて彼の時間は進む。
40、50、60、70、74、腐敗、白骨化、塵。
最後の時まで回り切った鍵は落下する寸前に弟の姿へと戻った。
それを見ていた残りの男達は、悲鳴をあげ慌ててその場から離脱しようと試みるがそんなことは許さない。
「あなたたちにはこっちの鍵を使ってあげる」
左手を右から左に手を振ると一本の鍵が出現する。
落下する前にそれを掴む。
「愚者の鍵」(未定)
方々に散らばる彼らを視界に捕らえる。
「門」
直後、自身の前から彼ら全員に届く大きな扉が地面に出現する。
「開錠」
地面にできた扉の鍵を開けると、無数の手が飛び出し彼らを引きずり込む。
といっても足元が無くなれば落下するしかないのだけど。
「帰ろうか、私達の家に」
「うん! これからずっと一緒だね」
私達二人ならどんな困難も乗り越えられる。
…きっと大丈夫。
私の時間はここから動き出す。
時間に関する力は弟の物。
鍵を開けるのは姉の力。
姉が力を使えるように弟は鍵の形をとる。
両親が亡くなった時点でお腹にいた弟は自然と死ぬ予定だったが、両親が魔人化の香(名称未定)を吸っていたため、魔人としての力を手にしていた。
赤ん坊のため、正常な形で力を使う事ができず、姉を誘導した。
姉も香を吸っていたため感情の増幅で簡単に魔人化できた。
弟は死ぬ前、生まれる前。特殊な条件で生存、姉経由の魔人化をしたため特定の形をとることができる。
姉がいなければ生存できない。
追加
読み直すと弟の名前急に出てきたり、最後のおっさんたちの状態結構無視でやっぱ文字にするの難しいと思いました。
途中で力尽きてなんて言葉使おうかなやんだり表現わかんなくて、駆け足投稿しちゃうのよね。
追加
使わないつもりが使った絵
なんか想像よりでかい子達になったわ
服装ミスってた、てか違うわ




