表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

空を映す鏡の魔人

 一話読み切りです。


 本編は終わりの見えない途中ですが、どうしても書きたくて…。

 魔人達のお話になります。

 女の子が多めになるかと……。

 男の子ってよくわからんのです。


※国語が苦手な人が書いています。

 もう一度、あの空を映したくて。






 初めて空を見たのは、とある夫婦が来た時だった。




「まぁ素敵な鏡ね。娘もきっと喜ぶわ」


「ああ、そうだね。とても美しい細工だ。主人、これを頂きたい」




 私を創った彼は、少し驚き、どこか寂し気な表情で快諾した。


 理由の一つは、私の価値。売る気はないのか高額な値段をつけた最初の一枚。


 それでも購入したいという人が現れてしまった。


 断ることもできたけど、私にそこまでの価値を感じてくれた人を無下にはできないのだろう。


 認められたという悦と、嫁に出すかのような親心。




「お前は私の最高傑作だよ。あの人たちならいつまでも大事にしてくれそうだ。いってらっしゃい」




 磨きあげ、より輝きを増した私は、丁重に包まれ運ばれた。


 闇から解放され真っ先に映したものは、開け放たれた大きな窓から見える青空。




 ――綺麗。




 その思いで何かが飛び出しそうになるのを感じる。


 この気持ちは何なのかまだ分からなかった。




 その後すぐに運ばれたのは地下の一室。


 薄暗い階段を下りた先には描かれた空と一人の少女。




「アンベル見てくれ! 素敵な鏡だろう? これからはこれでオシャレを楽しむといい」




「パパありがとう」




 少女は小さな声と精一杯の笑顔で答えた。




 少女の両親は忙しいのか、その反応に満足し部屋を後にした。




 描かれた空が広がる子供部屋。


 おもちゃや人形、綺麗な服で溢れているがあまり触れられていないのか綺麗なままだ。


 私は静かに彼女と部屋を見つめる。




 両親のいなくなった部屋からは音が無くなり、静寂に包まれた。


 先程までの笑顔は何だったのか、少女は布団にもぐり動く気配がない。


 静かな部屋で聞こえてくるのは時計の針の音。




 どのくらいか過ぎたころ、すすり泣く声が聞こえ浮遊する意識。


 映るそれは嗚咽しながらなにかを話している。




「パパ、ママ…何もいらないから…どこにもいかないで。ベルを一人にしないで」




 ――私がいるよ。




 思わず届くはずのない言葉をつぶやく。




「だれ!? パパ? ママ?」




 少女は飛び起き辺りを見回す。


 部屋は両親が出てから何も変わっていない、はずなのに一歩一歩と近づいてくる。




「あなたが喋ったの?」




 片手で私に触れ、鏡に映る自身へと話しかける。




「そんなわけないよね……」




 手を放そうとした時、咄嗟に掴んでいた。




 ――ここに、いるよ?




 驚く少女は目を大きく開き、鏡に映る自身と繋がる手を凝視する。


 そこには確かに鏡の手が、離れないよう指を絡めていた。




「どういうこと? あなたは誰?」




 平常を保ちつつ、自分でも驚いた。意識がここまで浮上したことはない。


 ただそこにあって、ただ映して、すこしずつ感じて……。


 思えば強く感じたのはあの時、空を映したあの一瞬で宿ったのだ。




 ――私は鏡。それ以上でもそれ以下でもないわ。




「鏡は普通喋らないよ! あなたは魔人なの?」




 魔人……自分でもよくわからないが、ここに存在していることだけは確かだった。


 ただ自由に動くことはできず、少女の手が離れてしまえば、それ以上外にでることなどできそうにない。


 不自由だ。




 ――魔人……か、分からない。けどここにいるのは確かなの。




「不思議な鏡ね!」




 映していて分かった。


 先程までの少女の顔は、親の為につくられた偽物の笑顔であり、今見せる驚きや興味を示すその表情は、少女の本当の感情なのだと。




 好奇心からか両手で私へと触れる。


 しかし、できるのは私から握ることだけ。彼女がこちらへと入ることはできないし、私が指先以上に外に出るのはできないみたいだ。




「出てこれないのね……」




 少し残念そうな少女に思う。


 私にできる事はないか……、思い出すのはあの青空。


 少女に見せる事ができれば喜ぶかもしれない。


 そう思えば私が映すものは変わっていた。




「え? きれい……」




 少女の目の前には、大きな窓から広がる青空。


 動く空に感極まる少女は立ち尽くす。一筋の涙に空を映しながら。




 それからの日々はあっという間だった。


 少女は部屋に来た両親に飛びつき、今までに見せたことのない笑顔を向けた。


 何が起きたか分からない両親は、娘の笑顔にただただ喜び、つられて笑顔になる。


 両親がいない間におしゃべりを沢山した。


 少女の病気の事、大好きなパパとママ。お友達のぬいぐるみ。


 私を創った人と、私を選んでくれた彼らの様子。


 その頃は、意識の浮上は浅く、映すことができなかった。




 時間がたち、私は少女の姿で、鏡の外へと出ることができた。


 最初の頃より、意識や想像もはっきりとし、自身を人間と錯覚するほどだ。


 そこで思いついたのが鏡の私を外に出すこと。


 私自身は鏡から映らない範囲に移動するこはできない。


 見せる事ができるのもあの時の空とこの部屋までの道。


 少女に提案し、両親へ私を連れ出すように頼んでもらった。


 私が映したものを少女に見せるために。


 大鏡の私を遠くまで連れて行くのは無理でも、家の中ならなんとかなりそうで。


 少女が両親に話すと、困惑した様子だったが、病弱な娘の頼みに私を連れ出す手配と日程をすぐにたてた。




 あと七日。




 少女はとても楽しみにしていた。


 親はどんな所で生活して、どんなお客さんが来るのか。


 今日の空はどんな顔か。


 私も楽しみだった。




 あと二日。




 外が騒がしい気がする……。


 地上の音はそんなに聞こえないはずだが様子がおかしい。


 少女はまだ気づいていないようだが、すぐにわかることとなる。


 食事の時間になっても誰も来ない。


 日々元気になっていった少女はお菓子を要求することも増え、一時的ならしのげそうだが長く持ちそうにはない。


 部屋で飲むことのできた水は泥を含むようになり、異変は少女の不安を煽るには十分すぎた。


 外に出ようと試みるが鍵がかかって出られない。


 無理に鍵を壊し外に出ることも試したが、地上へと繋がる出口は何かが重くのしかかり開きそうにない。


 焦げ臭い匂いがどこからか流れてくる。




 もうダメだった。




 少女の体調はあっという間に悪化し、動くことすらできなくなった。


 最後の時もすぐにきてしまった。




「ママ…と…パパに……会いたかったな」




 少女の手を握り見つめる。


 小さな手は、痩せ細り今にも折れてしまいそうだ。




「外に…出してあげれなくて……ごめんね」




 なんとか言葉を紡ごうとする少女に首を振ってこたえる。


 胸が苦しい。


 これが……人間。




「私も……もう一度だけ……空……みたか…った…な……」




 少女はその言葉を最後に事切れた。


 私と少女の目には、同じ、一筋の涙が流れていた。




 少女が亡くなってすぐに私の意識も深く……深く沈んだ。














 長い年月が過ぎ、一筋の光が私に差し込んだ。


 浮上する意識に焼き付いた記憶。


 少女の眠る部屋。




「私は……魔人になれたのね」




 外へと出ると崩れ荒れ果てた家屋に生い茂る緑。


 何があったか察するには十分だった。




 少女だったものを埋葬し、空を見上げる。




「あなたと見たかった空。私は映していくよ」














 もう一度、あの空をあなたと見たくて。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ