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内海の遊女 風待ちの港 沖乗りの島  作者: 青丹よし
第四章:私は何度もくりかえす
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番外編:祭りと小波・中編

小波の思惑はさておき、ふたりは祭囃子の音色に誘われて、船宿が並ぶ東の港から少し北の胡神社の方角へと足を運びました。


神輿が見え、人だかりが出来ている神社の近くまで寄ります。

この神社の鳥居は海に向けて建てられていました。

なので、神社の参道は海の方から舟でくぐるようになっています。


海に近い神社ではさほど珍しい光景ではありませんが、小波が生まれた里ではお目にかかることのない建築物だったので、初めてこれをみたときはどうして陸地ではなく海に!?と驚いたものです。

太一も山里育ちなので、小波以上に海に面した鳥居を興味深そうに見ていました。


「ここの神さんは海からやってくるのかな?」


「う~ん。そんなこと分かんないよォ」


こんな鳥居を見るだけならいいが、ゆかりや(いわ)れなどは答えようがない。

興味ない。

どうでもいい。

そんなこと知ってたって、男に好かれない。


生きるための道具である男と、見下せる女、それ以外に小波が目を向けることはあまりなかった。


(神社の鳥居が海にある意味なんて、知らなくても困らないし…)


太一も深く考えることなく、今度は神社の前で踊りだした岡の遊女の方を楽しそうに眺めていました。


『あんな女たちより、ここにいい女がいるのに』と小波はムッとする。

しかし太一は小波がいてもお構いなしにほかの女に目を向けた。


「やっぱり茶屋(みせ)の遊女はキレイ処が多いな。あんな女たちは田舎の色里でもお目にかかることはできないよ」


目を輝かせながら可憐な舞を魅せる女たちに夢中な太一。


(何よこいつは、田舎の色里なんて年増のオバサンしかいないじゃない)


年季明けても借金の返せない女や、食うに困った子連れや後家。

その他色々なワケ有り女たちは、街道沿いの宿場町や小さな色里で仕事をしていることが多い。

若いキレイな女はあまりいない。


ふだんの小波であれば、岡の遊女より自分の方が!と妬むだろうが、こうして洗練された芸を見せつけられると、女として劣っていることを嫌でも自覚させられる。

そのため今だけは岡の遊女より、別の女と自分を比較することで自尊心を保とうとするのだ。


しかし目にみえない女たちを叩いても気が晴れることはない。

この目で(じか)に見ることのできる女でなければ面白くもない。


はぁぁぁっと大きなため息をついていると、側面の通りから見知った女が近づいてきた。

祭囃子に誘われてきたのだろう、こちらにはまだ気づいてないようだ。


(――これは!)


小波は彼女に気づかれないように素早く太一の腕に絡みついた。

太一は腕にピッタリとしがみ付く小波を、気にもとめない様子で遊女たちの舞を見ている。


横目で相手の姿を捉えながらも上手く視線をかわし、さもこちらは気づいてませんよという風を装う。


見知った女はこちらに気づくと、ハッとしたように目を見開いてしばらく呆然と見ているようだった。

そして、いかにも傷ついたという表情をしてそそくさと去って行く。


(あはっ。あのブス、やっぱりまだ太一さんに未練があるじゃない)


あの顔が見れただけでも、この男と一緒でよかったと思える。


誰かと共有したい愉しみじゃない。

ひとりで愉しみたい心の糧。


男とこの愉しみ以外の快感も快楽も知らない。


ご機嫌になった小波は、太一が自分のことを見向きもしなくても気にしなくなった。

さっきの見知った女の顔を思い浮かべるだけで満足しているからだ。



それからふたりは神輿のあとを追いながらも、途中の屋台でのどを潤したり軽い食事をしながら、住吉神社まで祭り見物をしていました。


昼廻し最後の地にふさわしく、若高屋の遊女たちが勢揃いで踊っています。

ここの茶屋はこの港町でも一番多くの遊女を置いてるだけあって、ほかの茶屋の遊女が見劣りすくるらいに豪華絢爛な催しになっていました。


「これはまた、竜宮城に来たみたいな美しさだなぁ…」


若高屋の遊女たちの踊りに圧倒された太一が、ぽつりとつぶやきました。


茶屋の禿たちも唄や演奏に参加し、その腕前を披露しています。

大勢の見物客の中からは、贔屓の旦那衆らが口々に遊女たちへ声援を送っていました。

花街にお世話になっていない女たちも、その美しさに魅了されているようです。


岡の遊女は見世物小屋の芸人ような真似事をして、床に組み伏せられるだけの人形だと思っていた小波は、しだいに女としての優越感が失われていく気分を味わっていました。


せっかくさっきまでは、見知った女をあざ笑いながら愉しいひと時を味わっていたのに…、と顔を歪めます。


それでも芸事ができたところで大したことじゃない。

そんなことより体で満足させた方が男は悦ぶんだと、小波は未だに思っている。


しかしここにいる男たちは岡の遊女たちの虜になっていた。

女たちですら惹きつけられている。


『自分より身分の高い女性と枕をともにしたいんですよ。だから言葉使いや立ち振る舞い、芸事に読み書きという教養の高さを岡の遊女はウリにしているんです』


そんな中で、以前にあの男から言われた言葉が不意によみがえる。


岡の遊女だからこその価値があると―――。


(そんなことない!そんなことない!アタシはアタシだからこその価値があるのよ!!)


小波はとなりにいる太一に向かって、いつものようにしなを作りながら腕にしがみ付く。

が、彼は何の反応も返さない。


「ちょっとォ、太一さぁん」


と甘ったるい声かけをしても、目さえもこちらに向かない。


『ああ、もうっ!』とグイグイと腕を揺さぶってみると、太一は顔をこちらへは向けずにこう言うのだ。


「今ちょっと目が離せないんだ。悪いけど邪魔しないでくれるかな?」


今日の太一は岡の遊女たちに興味をもっていかれて、そばにいる小波にあまり関心を寄せない。

彼はそういう男だと理解はしながらも、小波は苦しい嫉妬心から右足で何度も地面を踏みつけるのでした。

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