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内海の遊女 風待ちの港 沖乗りの島  作者: 青丹よし
第四章:私は何度もくりかえす
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番外編:祭りと小波

島の祭りがあるってことで、姐遊女たちが年甲斐もなく湧きたっているのを冷めた目でみていた。


(田舎くさい祭りなんて、面白くないに決まってる)


小波はつんとすました顔で、浮かれた遊女たちの姿を心の中であざ笑う。


彼女の里では祭りといえば、老若男女誰でも踊り明かす楽しいものだった。

しかしこの港町では、男だけが神輿を担いで廻り、そして踊るのは岡の遊女だけ。

ほかの者はただそれを見物するだけだと聞いて、なんてつまらない祭りなんだろうと心底思っているのだ。


(夜祭まであって、男と女が近くにいながら夜遊びもできないし――)


夜の祭りの醍醐味と言えば、ちょっと人目のつかない物陰で……、というお楽しみもあるのだが、港町という場所が場所だけに、山に入るか、民家も道も整備されていない山向こうに行くしか、人がいない場所などない。


(夜にそんなところへ行けるか、っての!)



元々島と海の境目を幾度も埋め立ててきた港町。

本土の田舎のように、畑や田んぼ、野っぱらが広がっているわけではない。


それにおおざっぱに言えば、商人や職人、奉公人や人足が住み付き、主に廻船業で利益を得て生活をしているので、昔から先祖代々住んでいるという者は少ない。

つい百数十年ほど前は無人の島だったとも言われている。



祭りのありようが違うのは仕方のないことだが、小波は気にいらなかった。

見物人では自分が目立つことがないから、という心根なのである。


(岡の遊女がなんだっていうのよ。アタシの方が一番キレイに決まってるんだから!)


若い衆に折檻を受けて以来、とくに目立つことはせずに表面上はしおらしくしていた彼女だが、自分が一番だという気持ちは変わりはしない。


だが、再び捕らえられて折檻されるだけなら我慢はできるが、あの陰険な男の話を耳にするのはごめんだった。


(アイツは祭りでも見張っているかもしれない。――今度は気を付けないと…)


小波は弥彦のことを思い出すたびに、身震いを起こすぐらいに苦手になっていたのだった。




祭りの日の少し前。


昼もすぎて、そろそろ仕事前の湯屋へ行く刻限。

新しい白粉を手にした小波がおなごやへ帰る途中、つた屋の店先で太一に呼び止められた。


「小波さん、少しいいかな?」


「あら、太一さん。何かお話でも」


「今度、祭りがあるって聞いたから、一緒に行かないか」


「え~、でもォ…。お千代姐さんを誘わないんですか~?」


「ははは。嫌だなぁ、せっかくの祭りなんだしキレイな娘と歩きたいよ」


そう言われると悪い気はしない。


あのブスより私の方がキレイってのは本当のことだし、この男は金はないけど連れ歩くには申し分ないくらいには顔はいい。

そして何より、ほかの女が気にしている男というのが心地よい。


だから少し迷ったフリをして『いいですよ』と答えたのだ。



ブス以外のババアどもは、この港町に情夫がいるような様子はない。

女も年を食うと、仕事以外で寄りつくような男はいなくなるようだ。


競争相手にもならない女たちが近くにいるのは面白味に欠ける。

もっと女として張り合って、攻め合って、そして勝利する瞬間が何とも言えない快感に浸ることができるのだ。


(まあアタシほどいい女と張り合える女なんか、めったにいないでしょうけど~)


小柄で幼く可愛らしい顔つき。

この容姿がいつまでも続くと信じて疑わない小波は、たいして祭りを楽しみにはしないが、別の趣向で面白いことをしてやりたい心づもりをしていた。




そして快晴の祭りの日――。


小波は一番見栄えのいい着物を身につけ、志乃にアレコレと注文をつけて髪をキレイに結ってもらった。

そして新しい白粉に手慣れた手つきで紅をさす。


化粧は女の美しさをさらに磨く必需品。

素顔は童顔でも化粧をほどこせば見目麗しい女に変わる。

ただ厚化粧のババアたちや、薄化粧のブスと違い、本当に器量の良い女だけが化粧でさらに美しくなれる。


「お千代、もう少し白粉をつけなよ。そこケチってたら客がつかないぞ」


「でも高尾姐さん、顔を白くしすぎると旦那さんらが『暗闇の中に浮かぶ不気味な白いのっぺらぼうみたいだ』っていわれるんだもん」


「そうですわねぇ。お千代は顔の白さより、目をくっきりと見せる化粧の付け方をした方が合いますわ」


「あたしまでいくと、ちょっと目尻が気になって多くつけちまうんだけどね……」


おなごやでほかの遊女たちの話声に聞き耳をたてながら、小波はフフンと小さく鼻で笑う。


(姐遊女たちがどんなに工夫したって、ブスやババア化粧したくらいでキレイになれるワケないじゃない)


小さな優越感。

それだけでも幸せになる瞬間。


支度が終わると、一番年上のババアがあたしに向かって何か言ってるようだったが適当に返事をする。


そしてやっと外へ出かけられるようになった。

今日は沖の船まで行って、小汚いオッサンに体を差し出さなくてもいいだなんてうれしいことだ。


あたしだって相手を選びたい。


気分よくつた屋の船宿へ行くと、太一が店の前で待っていた。

彼もこの島の祭りが初めてなようで、店の女将さんから今日は仕事を免除してもらったという。


「船宿は祭りでも仕事だけど、せっかくこの島へ来たのだから祭りを見て来いって店のみんなから言われてさ、ありがたいことだね」


笑顔でそういう彼は、とても人がいい。

働いている店の人たちにも好かれている。

そして今まで見たことのない正直な男だ。


だが遠慮というものを知らない。


ある程度は大目に見ることができるくらいの広量だと自負しているつもり。

だから少しくらいの彼の失言は良しとする。

それに、それ以上の価値があるから、軽くつき合うくらいはかまわない。


でもこんなただの奉公人じゃなくて、もっと財力も容姿も十分な男はいないかと祭りの間に目星をつけておきたいと思うのだった。

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