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内海の遊女 風待ちの港 沖乗りの島  作者: 青丹よし
第四章:私は何度もくりかえす
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番外編:弥彦の考察・前編

活動報告でも書きましたが、十日ほど書くのを止めてました。

その間、リフレッシュ!とはならず、季節の変わり目で体調を崩して寝てました…。


あと、小説の更新が二日に一回になります。

本当にすみません。ご理解のほど、よろしくお願いします。

それは新人の沖の遊女が引き起こした面倒ごと片づけたあとのことでした。


ひょんなことから同じ沖の遊女のお千代さんの言葉が気にかかり、それを調べることにしたのです。

普段の言動はほぼ無害な性格の持ち主だと思っていたが、どうやら金が絡むと性格が変わる様子。


『……そうですね。何で私が払わないといけないの?って気持ちでいっぱいです。でも他のことでちょっと―――』


『…ちょっと?』


『――それは弥彦さんには関係のないことなので……』


他のことでちょっと、と言葉を濁し、僕には関係ないことと締めくくったことで疑惑が深まった。


(これはお千代さんと小波さんとの間に、何かただならぬ約定でも取り交わしていたのかも――)


だからこそ、


『これは探りを入れた方がいいかもしれませんね』


と思い立つこととなった―――。




毎朝、お千代さんは仕事が終わりおなごやへ戻って朝餉を頂いたあと、手習いのために茶屋へ通ってきます。

それから茶屋の昼見世がはじめる頃に帰る途中、福屋へ寄ることが多いという情報は店の息子さんからよく聞いています。


(息子さんがうちの常連客なので、こちらが何も言わなくても、あちらさんが笑い話の種にしてきますから……)


客が贔屓の遊女待ちのときは、幇間もしくは話し上手な若い衆が間を持たせるために旦那さんの話し相手を努めます。

泊まり客が付いてる場合は他の旦那さんにはお断りしますが、そうでない一刻ほどの時間待ちなら客を待たせることも少なくありません。


そんなときに客との会話から港町のことや、上方もしくはそれより遠くの国の話を聞くことができました。


(情報と言えば、船で移動する水主の話が一番新鮮で面白い)


弥彦は色々な情報を見聞きすることが何より好きだった。

そうなる切っ掛けは、やはり生まれ育ちからである。




庄屋の妾の子として生まれた弥彦は、正妻に子がいなかったことで跡取りにと望まれ、生みの母親はそれなりの金を受け取るとすぐに実家へと帰って行ったそうだ。


正妻に子ができない場合は、妾を雇い代わりに子を生ませるのは珍しいことではない。

が、この世はままならぬもので、弥彦が九つのころに正妻が男の子を出産した。


そうなると要らなくなった外腹(ほかばら)の元跡継ぎの処遇について、周りから嫌でも耳にするようになった。

下の弟が生まれてから、今まで可愛がってくれていた親は豹変し、跡継ぎ様として担ぎ上げていた周りの者はみなそっぽを向く。


そんな自分じゃどうしようもない出来事から目を背けるように、手習い仲間から誘われて行った刑場で人が死ぬのをはじめて間近で見たのだ。


何とも言えない気分だが、刀一振りであんなにも簡単に人の首が落ちるものだと感心した。


刀を持つ役人が罪人に向かって何かを言っていたのも気になったが、人の一生が一瞬で終わるという刹那的な状況を見ると、自分の置かれている状態などまるで些細なことだと得心がいった。


それからといもの弥彦は、刑が執行される情報を聞けば刑場へと足を運んだ。


また後継ぎなどという詰まらないことにも執着することもなく、今までは人から持ち上げられるだけで、その”人”というものに興味も持たなかったが、周りと自分を(かんが)みることをするようになった。



弥彦が十二になったくらいには、手習いを辞めさせられ家の奉公人と同じ扱いを受けるようになったのだった。


そのことに親に抗議することもなく素直に受け入れた。

元よりもう親などいないようなものだと諦めがついていたからだ。


だが、このままこの家で無給で飼い殺しになるのはごめんだと、使い仕事のときはとにかく大人たちに愛想を振り撒きつつ情報を集め回った。


その中でも『金を稼ぐなら鉱山か船に乗ればいい、学が無くとも体一つで稼げる』

ということを知ったが、生憎と体は丈夫な方じゃない。

女のような容姿と、ひょろっとした体格では力仕事は無理だと悟る。


この未来(さき)への渇望が満たされぬままだったが、丁度出会った旅の商人から面白い情報をもらった。

廓や遊女茶屋で働く男らは、元やくざ崩れや地廻りが多く、そのため素性関係なく雇ってくれると――。


他所へ奉公へ出ようとも、素性の分からない者を雇ってくれるようなところは少ない。

国元から他の国へ移住するのも容易ではなく、身分を証明する手形が必要な場合もある。


家の大人たちの目を盗んでは、寺の手伝いと称してそこへやって来る者から簡単な仕事を引き受け駄賃をもらい、寺の坊主に酒を呑ませ上手くそそのかして通行手形を書かせた。


ややあくどいことにも手を染めて、十四になると家から姿をくらました―――。



自分がいなくなっても困ることはないだろう。

それに家からは何も持ちだしてないので役人に訴え出ることできない。

体よくタダ働きさせていた者が逃げただけだ。


それからは流れ流れて、行きついたのがこの島である。


弥彦という名は本当の名ではない。

通行手形を坊主に書かせるときに、前にこの寺に来た者の出の村の名から拝借させてもらった。


聞きなれないうちは難儀したが、手形があるのとないのとでは人との信用度が違う。

人を介さない職探しの大いに役に立った。


何はともあれ、やっと周りを気にせずに生きていけるようにはなったが、――それでも人の言動や行動に敏感になりすぎる(たち)になってしまったのはどうしようもない。


(僕自身も自分で面倒だと思いますよ……)


いつまで経っても休まることのないこの性格に苦笑しながらも、人を観察し分析してしまいたいと思う心は罪だなと感じるのでした。

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