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内海の遊女 風待ちの港 沖乗りの島  作者: 青丹よし
第四章:私は何度もくりかえす
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おなごやの遊女たち

それから小波を除いた遊女たちは、おなごやから一歩も出ることを許されず、みんな何とも言えない表情で座り込んでいました。


少し前に弁蔵が再びおなごやに来て小波の荷をすべて持っていき、それ以降は時折り若い衆が見回りに来て、遊女が皆いるか確認して帰って行きます。


おなごやに沖の遊女たちを閉じ込めているのは、ほかに手助けをした仲間がいないか、そして逃げ出すことへの警戒でした。



本来ならすでに港に待機しているであろう刻限になり、この時間に嵐でもないのにおなごやにいるのは初めてのことでお千代がそわそわしていると、床に寝そべった高尾はヒマを持て余して口を開きました。


「…な~んか、ひと目見たときから何かやる女だとは思ってたんだよねー」


「それはわたくしも同じですわ。――寧ろ萩屋に女を売りにくる女衒(ぜげん)は、ああいう厄介者を押し付けに来ていますのよ」


めずらしく志乃も高尾の言葉に同調します。

ふたりの会話を聞いてお千代は胸がチクチクと痛みました。


(私も自分から女衒に無理やり買ってもらったクチだから、姐さんたちの言葉に胸が痛むよ……)


暗い顔するお千代に松野は言います。


「あんたが気をもむことはないさ。――お千代が来る前までねぇ、ああいう若い娘ばかりがここへ来てたんだよ」


松野が言うには、岡の遊女のように幼いころから茶屋で育ったわけじゃなく、それなりの歳で売られてくる者は、遊女に落とされた身を憂いて日々を無気力に生きているか、周りを見返してやろうと躍起(やっき)になっている女性が多いとか……。


「とにかくクセのある()が多いんだよ。人生これからってときに親兄弟や、恋人に売られるんだから可哀想とは思うんだがね…」


そういってどことなく悲しそうな表情を浮かべる松野に対し、高尾は床を叩きながら抗議する。


「可哀想なのはここにいるみんなも同じだよ!なのにひとりで好き勝手に周りを巻き込むんだから勘弁して欲しいよ!!」


「お千代、高尾はね。その昔この手の女に旦那さまを取られたのよ。だから今でも根に持って暴れることがあるから気にしないで頂戴(ちょうだい)な」


「暴れてねぇよ!」


ぶすっと膨れっ面をする高尾にあきれ顔をした志乃は、うつ伏せになっている彼女の尻をペシッとはたく。


「いってぇ!」


「もうあなたも姐遊女なんだから、いつまでも子供じみたマネをしないの」


そんなふたりを眺めながら松野はほほ笑む。


「ああいう手合いにとっては、高尾は格好の餌食(えじき)だったからねぇ」


「女としての資質が低いから当然ですわ。こんなに大きくなっても頭の中身は(わらべ)のようなものですもの」


「ふたりして、なんだよ……」


くくくっと笑う松野と志乃の姿に、高尾は拗ねてごろりと転がりこちらへ尻を向けた。

そんな姐遊女たちにお千代は恐る恐る問いかける。


「――それで、小波さんはこれからどうなるんですか?」


「どう、と言われてもねぇ…。ほかの茶屋(みせ)の影響次第としか言いようがないよ」


「……ほかの茶屋の影響?」


「ほかの茶屋からの抗議が来ている場合、楼主(とう)さまが場を収めるために金を支払わなければなりませんの。そういう取り決めですから……」


「えっ、岡さんたちの旦那さんの転びのときは、そんなことなかったじゃないですか!?」


「沖の遊女が昼間に安値で売りをしていたら、そっちを買う旦那さんもでてくるだろ?そうなると、岡の茶屋にとっては小さくはない金銭的な打撃になるんだよ」


「高い銭を支払って茶屋で女を買うより、手頃な値で買える若い女がいるんですもの。旦那さまたちが茶屋でお金を落とさなくなったら―――。分かりますわね」


松野が団扇で自分をあおぎながら、そう答える。

汗を拭いながら志乃もお千代に言います。


「一応、藩公認で茶屋を出してる以上、表向きは届け出た内容に沿った仕事をしなくちゃいけませんの。小波も売り上げはみんな自分のふところに入れてるでしょうし、それは無許可で仕事をしているようなものなの」


「ええっ、女が体を売るのに許可がいるのですか?」


「金のために身を売る女はそこらじゅうにいるけど、役人に知れたら取り締まりの対象だよ。だからこの島でも、陰で身を売る女は度々しょっぴかれてるんだ」


「見つかれば売り上げはみな没収。でも見つからなければ結構な儲けになるそうよ。でもそんなことを大っぴらにしてたら、茶屋の楼主たちがお役人に突きだしますけどね」



茶屋は自分たちの利益を害する者は徹底的に排除する。


そのため、定められた仕事以外の売りは許さない。

もし、そのようなことを行う遊女がいたら、茶屋の信用問題に発展する。


どこの茶屋でも起こる問題だし、たの茶屋に罰金を支払わなければならない痛手を伴う。

そしてその支払った金は、問題を起こした遊女の借金に当然ながら加算される。


闇で体を売って稼いだ金も茶屋が没収するのが決まりだ。



松野が気だるそうに口を動かします。


「あの娘は悪知恵だけはよく働きそうだから、昼間に儲けた銭もおなごやには置いてはないだろうさ。今ごろ若い衆からそのことで責めを受けているだろうよ」


「正座で言葉責めされてるんですか!?私もそういうの嫌だな…」


「小波はそんなことで口を割るような女じゃないですわ」


お千代の言葉に志乃が扇子で口元を隠しながら笑いました。


「ま、お千代も茶屋の決まりごとだけは守りなよ。本当の責めってのは正座でお小言聞いて終わりじゃないからね」


そういって松野が立ちあがると、丁度見回りに来た若い衆にいくらかの銭を手渡しました。

若い衆が一礼しておなごやから出て行くと、肩を回しながら彼女がみんなに言います。


「起こったことは仕方がない。夕餉(ゆうげ)はつた屋から安い飯を持ってきてもらうことにしたから、この話はもう終いにしようじゃないか」


その松野の言葉を聞いた高尾は、今までのことを忘れたようにぐるりと体を回転して姐遊女の方を見ます。


「松野姐ありがとう!ちょうど、お腹が空いてたんだよ!」


高尾はご機嫌になって松野を拝む体勢をします。


「そうですわね」


「はい」


志乃もお千代もやはり腹の虫が鳴くのを我慢していたようで、このままほの暗い話し合いを続けるより、あっさりと松野の提案を受け入れるのでした。

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