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内海の遊女 風待ちの港 沖乗りの島  作者: 青丹よし
第三章:今の自分にできること
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番外編:三郎は今・中編

オレはふたりに背を向けてこう言った。


「みんなの顔を見に帰ってきただけだから、もう島へもどる」


「何いってんだお前、畑の世話は誰がやるんだ!?」

「じいちゃんの世話だってあるんだぞ!!」


「ふたりで新しい嫁をもらえばいいじゃないか。それにオレは浜仲仕の仕事を辞めるつもりはないよ」


そう告げると、とうちゃんも太郎にぃも醜く顔をしかめた。


「あの女どものせいで、この里の嫁の大半が実家へ逃げた。近隣の里にもうわさが広がってるから嫁のきてもねぇんだよ」


「それに嫁をもらうにも銭もねぇ。三郎、お前は銭をたんまり持ってるだろ?とうちゃんによこしな」


「それなら尚更この里にいたくねぇよ!うちを壊したのはとうちゃんと太郎にぃだろ!?自分のケツは自分で拭けよ。……だからもう、オレはこの里へはもどらない」


オレはふたりに強く言い放って、あぜ道を走って逃げた。

後方から怒鳴り声や(わめ)き声が聞こえてきたが、振り返らずにただひたすら走った。



そして無意識のうちにサヨの家だった場所へと着く。


そこには二年前にみた小ざっぱりした民家ではなく、大勢の者から踏み荒らされ、原形も留めていないほど破壊された空き家だった。


これが今の現実なんだと、夢だけを追ってたのはオレだけなんだと痛感する。

そのあともオレは、サヨの痕跡を探すように裏の神社へ向かった。



あの日のように、ひょっこりとサヨが笑顔で現れるかもと期待していたのかもしれない。


だが、オレの期待も空しく誰も待ってやしなかった。


置手紙でもあるかと探したが、―――何一つそれらしきものはなかった。



それから当てもなくトボトボと歩いていると、山の方から懐かしい声が聞こえてきた。


「おー、三郎じゃないか!久しぶりだなぁ、元気してたか?」


顔をあげると太一が両手いっぱいに薪を集めていた。

そして山から慣れた足取りであぜ道に降りてくると、昔のままの笑顔でオレに言います。


「うちに寄るか?」

「……ああ」


こいつもサヨとなんかあったらしいのに、幼いころから変わらずにいつもご機嫌だな。



オレは太一に連れられてすこし山を上がったところにあるこいつの家に招かれた。


とはいっても居間には上がらず縁側に腰をかけるだけ。

家の人たちはまだ野良仕事に出ているようだった。


太一もオレのよこに座り、懐かしむかのように昔話を語りはじめた。

子供のときのこと、そして今のこと。


サヨとの出会い、そして別れなどを臆面もなくつらつらと話してゆく。


その話の中でつるはサヨの引き立て役程度の扱いだった。


まだ里にいたころのオレの認識だと、仲がいい幼なじみの許嫁だったのに、こいつの中でのつるは本当にどうでもいい存在だったんだな。


「そういえば三郎は、もう嫁さんをもらったのかい?」

「…いや」


「ボクはね、困ってるんだよ。何といっても跡継ぎだからさ。今はどこの里からも嫁に来てもらえなくてね…」

「太一はサヨから金をごっそり取られなかったのか?」


「もちろん家中の金を全部もってかれたよ。でもいいんだ。それでサヨが幸せになれるなら」


太一は遠い目をしてそういったが、金もない家に嫁いでくる女はいないだろう。


なんだか夢を今でも見続けているようなこいつに辟易(へきえき)してしまった。

オレが黙っていると太一は思い出したかのようにこう言う。


「つるが今、どこにいるか知らないか?」


あれだけどうでもいい女だったやつの名前をなんで出してきたんだ。



「知ってたらどうするんだ?」


「今この近隣で嫁をもらうことできないだろ?だからさ、つるならいいかなーって思ってさ」


「こっぴどい振り方しておいてよく言うよ」


「そうかなぁ。たしかにあのときは愛するサヨを守ってやりたかったけど、もう彼女はいないし…。元々はつるがうちに嫁ぐ約束だったからね。一度は手放したけど、ボクが嫁にするって言ったらつるは喜んでくれると思うよ」


「それはないから安心しろ。向こうはお前のことをもうなんとも思ってないよ」


そんな軽口を叩いてみたら、太一が大きな声を上げて笑いだした。


なんだこいつとオレがおどろいていると、こいつはひどくオレの言葉がツボにはまったのかしばらく笑いこけていた。


「そんなわけないだろー。三郎よりボクはずっとつるのことをよく知ってるんだ。あいつはいつも『いっちゃん、いっちゃん』って、ボクのうしろを追いかけてたんだぞ。どちらかといえば、今でもボクのことを思って泣き暮らしてるかもしれない。――そう思うと、可愛そうなことをしたなぁ」


太一の言葉にオレは怖くなってきた。

こんなに自分に酔っているやつだったのか?


それともそんなことが気にならないくらい、オレも周りのやつらのことを何もみていなかったのか、そんな風に思えてくる……。



だから、ぽろっと口から出てしまった。


「つるはもう本当にお前のことは気にしてない。だからあきらめろ」

「…え?三郎、つるの居場所を知ってるのか!?」


「あいつは今、オレが仕事してる島で遊女をやってるよ」

「……つるが、遊女?」


「で、もう幼なじみという過去はいらないと言っていた」


オレがつるの今のことをはっきりと太一に告げると、こいつは顔をパァッと明るくした。


「それは三郎に言ったことだよね?ボクとは切っても切れない仲なんだし、きっとボクのことだけは待っていてくれてるよ。―――それにしても遊女か。そこだけはちょっと親に言いづらいよね……」


どこまでも自分に都合のいい解釈をする太一にあきれてオレは立ちあがると、こいつはまだ何か言いたげな顔をしてオレをみるんだ。


「ねえ、三郎が住んでる島ってボクいったことないんだけど、連れていってくんないかな?」


「島にきてどうするんだよ。太一は一生この里で暮らすんだろ?」


「つるを迎えに行きたくてさ。遊女のままだと可愛そうだし……」


「遊女は大金払って身請けしないと自由にはできないって仕事仲間から聞いたんだけど。…お前、金はあるのか?」


「遊女って金を稼げるんだろ?つるなら自分で払えるんじゃないかなぁ」


里から一歩も出たことのない太一はどうにも世間知らずすぎる。

オレも里からでない生き方をしてたら、こいつと変わらない考えをしていたのだろうか―――。



サヨの跡を追っていたが、ここに来て太一という難敵があらわれ、今日は泊まるようにと強引に引き留められた。

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