きっかけ
「じゃあな!また来るわ!」
「へいへい。気を付けて帰れよ」
「おう!バイバイ!」
俺は、翔太をエントランスまで送った。
なぜエントランスまでって?
送れ送れうるさかったからだよ。
送らないと帰らないとかいいだすし。
しかも、階段で、、
8階だぞ。おれの部屋
鍛錬になるって、、たいして変わんねーよ。
はぁ、エレベーターで上がるか。
エレベーターから降りると、普通なら有り得ない光景を目にした。
目の前で、女性が自分の身体に倒れかかってきていたのだ。
え?
どういう状況?
倒れかかってきた女性を体で受止め右手を回して抱きとめた。
顔を見れば雪のような真っ白な肌が明らかに紅潮していた。
瞼は固く閉じられ、呼吸が荒くなっていた。
「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」
明らかに、身体に力が入っていなかった。触れている肌がかなり熱くなっていた。
「ぇ、..ぅ.ん..で」
何か言ってるが全く分からなかった。
まともに喋れる状態じゃないようだ。
昨日挨拶に来た、隣の女の子だった、
見たところ、ただの風邪に見えた。
ただ、蒼真が勝手に判断をする訳にもいかず、ポケットからスマートフォンを取り出す。
一、一、九と打ち込もうとしたが、蒼真の手が熱い何かによって遮られた。
「....救....急車は大丈...夫です。た...だの風邪です...から」
途切れ途切れであるが、消え入りそうな弱々しい声が蒼真の耳に届いた。
スマートフォンを打つ手を止めた。
理由を聞く暇もなく蒼真の手の中で再びぐったりとしてしまった。
病院には行きたくないみたいだった。面倒事に巻き込まれたくない蒼真だったが、放っておく訳にも行かず、冷静に頭を巡らせたが、気が進まない案しか思い浮かばなかった。相手が女性なら尚更気が進まない案だった。
でも、今はやるしかなかった。ここまで来れば、もう自分の感情どころじゃないからだ。
人の命がかかってる。
寄たれかかっている女の子の膝下に左手を入れ、右手で背中を支えながら、
「少しの間、我慢しろよ」
一応声をかけて、蒼真は女の子を抱き上げた。
少し不安定なお姫様抱っこだった。
蒼真の首元に回される手が宙に投げ出されたままなので、体勢を少し崩せば、落下するかもしれなかった。
女の子を抱いたまま、家の扉を開けるのは困難だったが、小指を上手く使って開けることが出来た。
自分には、この子を看病する責任がある。
女の子を自分のベットに寝かせるのは戸惑ったが、女の子の負担を少しでも少なくするために蒼真は自分の部屋のベットにゆっくりと女の子を寝かせた。