翔太の訪問
「相変わらず、1人で住むには勿体ないくらい広い部屋だよな」
「うるさい、文句言うならつまみ出すぞ」
「ちょ、そんな怒んなって、冗談だよ」
爽やかな笑顔で翔太はそう言った。
俺は軽く舌打ちをして、昼飯の準備に取り掛かる。舌打ちはひどいとかそんな声が聞こえたが、気の所為だろう。
なぜ、こんな状況になっているのかと言うと、時は1時間前にさかのぼる。
ピンポーン
あいつほんまにきやがった。
インターホンが鳴った時俺はそう思った。
配達員であることを願いながら、ドアを開けると
「おっす!牛肉買ってきた!」
駄目だった。
俺の期待は見事打ち砕かれた。
とりあえず、ドアを閉めようとしたが、
ガッ
防がれた。
「残念だったな。お前が閉めることは、想定内だ」
ニヤリとと笑って翔太は、家の中に入ってきた。
はぁ
ため息をつきながら俺は、
「何を作って欲しいんだ?」
まぁ牛肉を買ってきた時点で、この前と一緒だろうな、、
「ビーフシチュー!この前食べたやつと一緒のやつで」
時々、家に遊びに来る翔太は、前回この家に来た時俺の晩御飯の残り物のビーフシチューを食べさせた。翔太にとっては、かなり好みだったようで、学校にいる間でもよく、もう1回食べさせてくれとよく言っていた。
「また、手間をかかるものを...人件費高くつくぞ」
「ええ!いいお肉もってきたから、安くして!」
「ものによる」
そう答えながら、俺は翔太が持ってきた牛肉をチェックしていた。
出てきた牛肉は、
A5ランクの松坂牛だった。
「おま、なんでこんなもんを」
空いた口が塞がらないとはこういう事だろう。高校生が気軽に食べれるものでない肉が目の前にあるのだ。無理もない。
「家のおばあちゃん家肉屋だから。今日友達にビーフシチュー作ってもらうって言ったら、これで作ってもらっておいでって言ってくれた」
「なんで、友達に作ってもらうだけでこんなもんくれんだよ。」
「この前、俺が絶賛してたからだよ。めちゃくちゃ美味かったって」
その瞬間、自分の口角が少し上がるのが分かった。褒めてもらうのも悪い気分じゃない。
「すまんが、今家にある材料じゃ作れん。買いに行くか」
「おう!楽しみに待っとくわ」
「何で留守番する気でいるんだよ。翔太も行くんだよ」
「ちょ、分かってるって!冗談だから!」
俺が作らんぞっていう前に翔太は謝ってきた。謝るタイミングを知っている奴だな。
「会計全部お前持ちな。人件費なくていいから」
「分かったよ..」
嫌そうにしている蒼真だが、そんなことは無かった。
蒼真にとって、翔太に料理を振る舞うことは密かな楽しみであったからだ。
美味しそうに食べてくれる翔太は、作り手である蒼真にとって、かなり気分が良いものであった。それに、一人暮らしを始めて、誰かに料理を振る舞う機会がなかなかないので、翔太は貴重なお客さんだった。
嫌々作ろうとしているのは、恥ずかしさからである。なかなか素直になれない蒼真だった。
「めちゃくちゃ美味いな!」
翔太は1口食べるなりそう言った。
「当然だ」
と、蒼真は言い放ったが内心はものすごく嬉しかった。
「さすが!お父さんが三ツ星シェフなだけあるな!」
「関係ねーよ」
口角が上がるのを我慢しながらそう言った。
翔太は、あっという間にビーフシチューを平らげた。2人前である。
「めちゃくちゃ美味かったわ!また作ってな」
「気分が向いたらな」
頼んできたら、絶対作るのに蒼真はそう言った。
ものすごく美味しそうに食べてくれた翔太を見て、蒼真は、また作りたいと思うのだった。
「やったー!」
翔太の無邪気な子供のような笑顔をみて、蒼真はふと思い出した。
そういえば、あの子元気かな。
思い出したのは遠い記憶の女の子だった。
過去を振り返ってしまう自分に蒼真は呆れて笑った。もう終わったことだ。と
hanamichiです!
今回は、翔太と蒼真のじゃれ合い?をかきました。
こういう友達っていいですよね。
次回遂に!?
急展開です!