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エッセイ集

異世界の奴隷制度について今一度考えてみようという話

作者: I/O

 勇者「奴隷を解放しろ!」


 奴隷商「ええ? どうしてですか?」


 勇者「かわいそうだろ!」


 奴隷商「つかぬことを伺いますが、奴隷から解放された元奴隷はどうやって生きていくんです?」


 勇者「仕事なりなんなりすればいいだろう!」


 奴隷商「仕事が見つかるまでの費用は勇者様が出して下さるので?」


 勇者「そんな金はない! だが自由に生きる事ができるのだ。問題はない」


 奴隷商「それで問題がなければ人は奴隷になどなりませんよ」


 勇者「それはそうかもしれないが……」


 奴隷商「奴隷として売られれば少なくとも主人の下で生活はできるのですよ?

 そして売れない期間は私どもが面倒を見ているのです」


 勇者「しかしお前たちの奴隷に対する扱いは見るに堪えん!」


 奴隷商「勇者様は何もわかっておられないようですな」


 勇者「なんだと?」


 奴隷商「勇者様、もしも奴隷商が奴隷たちに美味い食事、暖かな寝床、健康的な生活を与えたらどうなりますか?」


 勇者「それは、奴隷たちも喜ぶだろう」


 奴隷商「ですよね。その環境があるのに奴隷として他の場所に売られたいと思いますか?」


 勇者「うっ……」


 奴隷商「我々奴隷商は奴隷が売れてくれないと困るのですよ。

 そしてできれば長く仕えてもらいたい。私の評判に関わりますからね。

 売られる前の方がよかったと売り先から逃げ出されては困るのです」


 勇者「新しい主人がここより良い環境でなければ困るという事か」


 奴隷商「ご明察でございます。

 どうしても奴隷の扱いはお客様次第になりますので、どんな環境でも耐えられるよう死なない程度に不快な環境を維持するのも奴隷商の手腕でございます」


 勇者「人さらいをしているとも聞いているぞ!」


 奴隷商「私はまっとうな奴隷商なのでそのような事はいたしませんが……

 盗賊達が奪ってきた村人を買う場合はありますね」


 勇者「やはりな! 奴隷商は成敗するしかない!」


 奴隷商「待ってください勇者様。秋の収穫を略奪された村人は放っておけば冬を越せず確実に死にます。そして我々も慈善団体ではないので冬を越した分は補填しなければなりません。こればかりはどうしようもないのです。ご理解ください」


 勇者「買い取らなければいずれにしても死ぬと」


 奴隷商「はい。我々が買い取らなければ盗賊たちが処分するでしょう」


 勇者「世知辛いな」



 奴隷商「それにですね、あそこに眼帯の奴隷がいますでしょう?」


 勇者「ああ、いかにも人相が悪い男がいるな」


 奴隷商「アレは犯罪奴隷でしてね、解放してしまうと勇者様や領主様にもご迷惑をかける事になると思うのですよ。あのような犯罪者はどうするおつもりで?」


 勇者「牢獄に閉じ込めておけばよかろう。禁固刑とかあるだろ」


 奴隷商「いちいち牢獄に閉じ込めていたら牢がいくつあっても足りませんよ。それに閉じ込めるって事は食事を与えて見張りも付けるわけでしょう? その予算を領主様がお許しになりますか?」


 勇者「平和のためなら惜しくはなかろう」


 奴隷商「いやいや、治安維持のためとはいえ犯罪者に金を使うのは厳しいでしょう。税収に余裕があれば別ですが、そんな領地ばかりではありません」


 勇者「うーむ」


 奴隷商「そのような犯罪奴隷はおおよそ郊外の農場に販売します。

 真面目に働いても10年ぐらいは農場で朝から晩まで働いて生きる事になるでしょう」


 勇者「実質禁固刑のようなものだと?」


 奴隷商「その通りです。農場主は安価な労働力が手に入り、領主様は犯罪者の処分ができて税収にもなる。お互い得でございます」



 勇者「そこの者は体格もよく、健康そうではないか。奴隷とは思えぬ」


 奴隷商「ご購入されますか?」


 勇者「そうではない。奴隷らしからぬ者がいるではないか。解放しろ」


 奴隷商「勇者様……さすがにこちらは無料で解放は無理でございますよ。戦争奴隷ですから」


 勇者「戦争奴隷?」


 奴隷商「はい。戦争で捕虜になった者を我々が買い上げた者たちでございます。

 相手の国が身代金を払えば解放して国に帰れるのでございますが、戦争もタダではございませんし、いつまでも無駄飯を食べさせるわけにもいきません。身代金を取れなかった兵士は戦争奴隷として売られるのでございます。

 健康状態はピンキリですが掘り出し物が期待できますよ」


 勇者「回復魔法が使えれば買った後で治療してやればいいというわけか」


 奴隷商「さすが勇者様、目の付け所が鋭うございますね。一人いかがですか?」


 勇者「だから買わんと言ってるだろうが!」


 奴隷商「残念ですね……

 それに戦争奴隷を解放してしまいますと再び敵となって戦う事になる可能性が高いわけですから戦った兵士は良く思わないでしょう。全員処刑するわけにもまいりませんし」


 勇者「たしかにせっかく倒した魔王がもう一度出てきたら私も嫌だ」


 奴隷商「奴隷を扱うにも理由があるとご理解いただけて嬉しいです」


 勇者「理由か」


 奴隷商「はい。貧しい者に生き延びる機会を与える事、犯罪者や捕虜の管理と処分を引き受ける事です。奴隷商は異国でいう所の警察や消防など『無くなればいい職業』というものですね」


 勇者「平和で皆が豊かなら必要ないということか」


 奴隷商「勇者様には是非我々が失業する世の中にしていただきたいものです。ところで勇者様、こちらの少女は村が襲われ両親をなくした子供でございます」


 勇者「なかなかかわいい……いやいや、気の毒な事だ」


 奴隷商「少々値は張りますが、人助けこそ勇者の行いではありませんか? 私としても助かります」


 勇者「人助け?」


 奴隷商「人助けです」


 勇者「人助けなら仕方がないな。別に好みだったとかそういうわけではない」


 奴隷商「さすが慈悲深い勇者様でございます」


奴隷制度については古代ローマを参考にしています。

奴隷制度をなくすためには地味にいろいろなものが必要なんじゃないかなという事を主張してみました。

みなさんのナーロッパ、刑務所ちゃんとありますか?

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― 新着の感想 ―
[良い点]  なぜ、異世界で奴隷の制度を出す必要があるのだろうか。色々な理由があるんだよ、と、いう点では面白い。 [気になる点]  ただ、異世界に憑き物の魔法というファクターを使うと大概の理由にけりが…
[一言] 奴隷制度を「懲役刑の執行の民間への委託」「ハローワークの一形態」と考えると、認容することが簡単になりますね。
[良い点] 現実世界でも封建制度が崩壊した後も人種差別的な意味合いも含めて(労働力の搾取)と(被支配階級の独立阻止)のために奴隷制度が残りましたね。 人時生産性の向上や資本主義化における経済規模の拡大…
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