人を呪わば穴二つ
「俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くない・・・」
急速に充満していっている煙にも、滝原がそれに気づかないのは俯き、なにやらぶつぶつと一人呟き続けているからだろう。
斉藤を殺し、それを目撃した匂坂達から逃げ出した彼は、まるで自らの罪を再確認するかのように、あの部屋の前へと戻ってきていた。
「っ、ごほっ、ごほっごほっ!!?な、何だ?急に煙たく・・・!?」
自分が宿泊し、親しかった女性二人を失うことにもなった部屋の前へと戻ってきた滝原は、不意に吸い込んだ息に煙が混じり、猛烈に咳き込んでしまう。
そうして初めて周りの様子へと目をやった彼は、そこが既に火の手に取り囲まれていることを知る。
「なっ、え!?何でこんな事に!?と、とにかく逃げないと!」
逃げ出してから今までずっと、茫然自失の状態でふらふらと彷徨っていた滝原は、いきなり目の前に現れた火の手に驚き戸惑ってしまう。
それでもこんな状況では逃げるしかないと、彼はその場から走り出そうとしていた。
「っ!?な、何だ・・・?何かが引っかかって・・・!?」
しかし走り出そうと踏み出した足は、何かに引っかかったもう片方の足によって、前に進むことが出来ない。
俯いて、先ほどまで見ていた床にはそんな引っかかるようなものなどなかったと、不思議そうな表情で振り返った滝原は、そこに自らの罪の姿を見ていた。
「れーん・・・くー・・・ん。どう、して・・・どうして、私を・・・おいて、いくの・・・?」
「れーん、れーん・・・痛い、よぉ・・・たす、けて・・・たす、けてぇ・・・」
振り返った滝原が目にしたのは、自らの足にしがみつく二人の女性の姿だった。
その二人とは、彼がかつて見捨てて逃げた下妻秋穂と美倉夏香だろう。
彼女達は切り裂かれたお腹から内臓を引き摺りながらも、まだ死に切れないのだと滝原に救いを、あるいは道連れを求めていた。
「何で!?お前ら、もう死んだはずじゃ・・・くっ、この!!離せ、離せよ!!!」
どう見ても死んでいるとしか思えない状態で自らの足に組み付く二人に、滝原は驚きと恐怖の入り混じった表情を浮かべている。
それでもその身に痛みを感じるほどの熱が間近に迫っている状況であれば、とにかく逃げ出そうと急ぎもする。
しかし幾ら滝原が蹴りつけようとも、二人は彼の足から離れる事はなかった。




