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雪山一夜物語 クソザコ殺人鬼VS絶対に殺して欲しい奴がいる生存者達  作者: 斑目 ごたく
それは吹雪の中で始まる
6/70

そして復讐が始まる 1

 ロビーへと戻った匂坂は、そこに見知らぬ人々がたむろしている様を目撃して、その場に足を止める。

 彼のすぐ後ろには滝原もついて来ていたが、彼は見知らぬ人の気配を感じ取ると、さっと匂坂の背中へと隠れてしまっていた。


「な、なぁあんた。こう・・・髪の長い女と、気の強そうな女が来てないか?さっきまでいなかった奴なんだけど」

「・・・いえ、いませんよ。いや、あれは・・・もしかして貴女が探しているのは、女子高生ですか?それなら・・・」

「い、いや違うぞ!流石に俺も、女子高生は・・・他にはいないんだな?よ、よし!いや、別に気にしてなんかいなかったんだけどな!ふぅ~・・・良かったぁ」


 滝原は匂坂の背後から、その先に誰がいるのかと尋ねている。

 彼の言葉を受けるまでもなく、匂坂は新たにやってきた人々をじっくりと観察していた。

 そこにはそれぞれにはっきりと成熟した大人の雰囲気を漂わせる人々が並んでおり、彼が言うような女性の姿は見受けられない。

 いやよく見れば、一人だけまだ年若い、高校生ぐらいの年齢の女性が退屈そうにスマホを弄っているのが見て取れた。

 しかしそれは、どうやら滝原が気にしている女性の条件には当てはまらないらしい。

 匂坂から聞いたその内容に滝原は、ほっと胸を撫で下ろすと心底安心したと、さめざめと溜め息をついていた。


「ええっ!そんな部屋しかないのかい?困ったなぁ・・・」


 フロントへと集まっている数人の人物の中の一人が、その向こう側にいる従業員と何やら話している。

 彼らはどうやら宿泊出来る部屋のグレードに不満があるようで、従業員と話している恰幅のいい年嵩の男は困ったように後ろへと目をやっていた。


「私達が誰だか知っているの?九条グループの人間なのよ?その意味・・・分かるわよね?」


 恰幅のいい男の情けない視線を受けて口を挟んできたのは、豪華な装飾のされた扇子で口元を隠している妙齢の女性であった。

 彼女は自分達が暗に特別な立場な人間だと匂わせ、このロッジの従業員側に配慮をするように求めている。


「おいおいおい、やめとけよ姉貴。どうにか雨風を凌げる場所を見つけたんだ、それでよしとしようや?大体、こんな事になったのもあんたが火葬場で揉めたからなんだぜ?他の奴らはとっくに山を降りて、暖かい所ですやすやだってのによぉ」


 隠した口元にも、その視線だけで従業員の夫婦を威圧する女性を、その後ろから体格のいい男が制止している。

 その男は口調こそ宥めるような語り口であったが、彼の体格や見た目は寧ろその圧力を増して、従業員達を余計に萎縮させてしまっていた。


「黙りなさい、力也。あれに納得がいかないのは、貴方も一緒でしょう?」

「ま、そりゃあな・・・」


 フロントから距離を離すように肩を掴んだ手を振り払うようにそれを揺らした女性は、力也りきやと呼ばれた男に睨みつけるような視線を向ける。

 彼女の視線に、彼も同意するように肩を竦めて見せていた。


「で、兄貴よぉ。あんたは何であの場であんな事を切り出したんだ?もっと他にやりようもあっただろうによぉ?」

「何でって・・・親族の皆が集まる機会なんてそうないだろう?親父の遺言なんだ、出来るだけ多くの人に聞いて貰った方がいいじゃないか」


 女性の不満が理解出来るという態度を見せた力也は、その原因を作ったであろう恰幅のいい男性へと視線を向ける。

 しかし彼から問い掛けられた恰幅のいい男性は、その言葉の意味が全く分からないと、心底不思議そうな表情をその顔に浮かべるばかりであった。


「はぁ~・・・そりゃ、親父がそこらの一般人ならそれでいいんだけどよ」

「九条グループの総資産が幾らか知っているの?その内の数割が相続されるのよ?そんな軽々しく発表していい内容ではないと、子供でも分かるのではないかしら?」


 彼らはどうやら遺産相続で揉めているようで、その事を軽々しく衆目に晒した長男と思しき恰幅の男性を二人して責めているようだ。


「う、うぅん・・・確かに」

「ま、兄さんが早く発表したかった気持ちも分かるわ。私でもそうするもの、自分の取り分がああも大きければね」


 二人にやり込められ、恰幅のいい男性はその言い分に納得を示すように唸り声を上げている。

 そんな彼の様子に女性は瞳を細めると、皮肉げな口調で彼がそうした行動を取ったのも仕方がないと呟いていた。


「は、違いねぇ。それが狙いだったのかい、要兄ぃよぉ?」

「いやいやいや、違う違う!そもそも、そうなってるなんて知らなかったんだ!それに僕としてはもちろん、二人に多く配分を―――」


 自らが莫大な遺産を貰えるという事実を確定させたかったのだと語る一華に、力也もまた同意するように要へと詰め寄っている。

 そんな二人の言葉に、要は慌てて首を振ると、そんなつもりはなかったのだと早口で捲くし立てようとしていた。


「それは、また今度話しませんか?ここでは人の目もありますし・・・」


 そんな要の声を遮ったのは、揉めている彼らから一歩引いていた女性であった。

 二人の間に割って入ったその女性は、要を背中を庇うように一華の前へと進み出ている。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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