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再会する親子 1

「俺が見てくるから、お前はここで大人しくしてろ」


 翔の両親を最後に見た場所である彼らの部屋の前へと辿りついたサブは、手を引いていた翔にその場で待っているように告げている。

 それはその部屋であった惨劇を考えれば、当然の行動であろう。

 部屋のすぐ入口で殺された陣馬の存在を思えば、そこですら近すぎるぐらいだ。


「ぼ、僕もついていくよ!!」


 しかし、翔はそれを拒絶する。

 その行動は、彼の両親がその先で待っているかもしれないという希望からくるものであろうか。

 しかしその希望は同時に、その先で両親が死んでいるかもしれないという絶望と隣り合っている事を、彼は気づいているだろうか。

 少なくともサブは、その可能性を考えた上で彼をその部屋から遠ざけようとしていたようだった。


「あぁ?お前分かってんのか?親が死んでんのかもしんねぇんだぞ?それを自分で見たいってのかよ?」

「うっ!?そ、それは・・・で、でも!お父さんとお母さんに早く会いたいよ!!この部屋にいるかもしれないんでしょ!?」


 翔の言葉に面倒臭そうに頭を掻いたサブは、もはや包み隠さずその事実を伝えて彼を引き下がらせようと試みている。

 しかし逸れた両親と一刻も早く再会したいという翔の気持ちは、そんな言葉にも折れることはなく、より一層激しくサブに突っかかってきていた。


「生きてんなら、この部屋にはいないと思うがな・・・ちっ、しぁねぇな。ついて来てもいいが、覚悟はしておけよ。兄貴の死体は確実にあるんだからな・・・泣いたり喚いたりしたら蹴り飛ばすぞ!」

「う、うん!僕、頑張るよ!」


 両親との一刻も早い再会を望む翔に、サブはもし生きていてもこの部屋にはいる筈がないと、一人呟いている。

 それでも彼は、今更翔の説得は不可能だと諦めると、ついて来てもいいと許しを告げる。

 それは泣き言は許さないという厳しいものだったが、翔はそれに威勢よく答えて見せていた。


「うんじゃ、行くとしますか・・・おい、目ぇ瞑んなよ」

「うっ!う、うん・・・分かったよ」


 翔の返事に、ようやく薄く開いたままであったドアへと手を伸ばしたサブは、それを押し開こうと力を込める。

 彼は自らの背中へと掴まりぎゅっと目を瞑っている翔の姿に、それは許さないと厳しいを態度を見せていた。

 それはこの先に待っているかもしれない光景を考えれば、当然の注意だったのかもしれない。

 図星を突かれた翔もまた、一瞬言葉を詰まらせてしまっていたが、すぐに覚悟を決めたように目を見開いていた。


「よし、じゃあ行くぞ―――」

「・・・翔、翔か?」


 翔がその目を見開いたことをチラリと確認したサブは、そのままドアを開こうとする。

 その時、どこかから掛かった声があった。

 その声は、彼らが求めた存在のものではなかったか。


「・・・お父さん?本当にお父さんなの・・・?」


 その声を耳にした翔が、そちらへとふらふらと近づこうとしている。

 その目に浮かんだ涙を見れば、その先に佇む存在が誰かは自ずと知れるだろう。

 それは翔の父親、進藤大助その人であった。


「そうだよ、翔!お父さんだよ!」

「う、うぅ・・・うわぁぁぁぁん、お父ざーん!!」


 信じられないものを見たように首を振りながら、その実在を疑っている翔に、大助は両手を広げると確かにそこに存在するのだと力強く宣言する。

 彼のその言葉に、目の前にいる存在が間違いなく父親なのだと確信した翔は、大声で泣き声を喚き散らしながらそちらに向かって駆け出していく。


「おい待て、翔!!行くんじゃねぇ!!」

「っ!?どうして、サブ兄ちゃん!?お父さん、お父さんなんだよ!?」


 しかしそんな親子の再会を、サブは翔の襟首を引っ張っては止めている。

 そんな彼の振る舞いを、翔が訳が分からないと怒っていたが、それは再会を邪魔されたもう一人、大助も同様であった。


「何をするんです、ええと・・・」

「サブで、いい」

「ではサブさん。貴方には確かに翔の面倒を見てもらった恩はあります、しかし本来私達は敵同士では?私達親子の再会を邪魔する謂れはない筈です。っ!?貴方まさか、まだ翔を狙って・・・?」


 親子の再会を邪魔された大助はその不満を宥めながら、サブに何故そんな事をしたのかと尋ねている。

 その途中に彼はサブ達が本来、翔を狙っていたことを思い出してそれを口にしてしまう。


「僕を狙う・・・?サブ兄ちゃん、どういう事なの?」

「ちっ、余計な事を。お前は知らなくていいだよ!」


 そんな話を始めて耳にした翔はそれに驚きサブの顔へと視線を向け、彼もまた余計な事をと舌打ちを漏らす。

 それはサブにしても、翔に聞かれたくなかった事実なのだろう。

 例えそれに、サブ自身は乗り気でなかったとしても。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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