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彼らは武器を手に入れる

「・・・翔?翔か?お前、何でこんな所にっ!!」


 その驚きと喜びが混じった声は、この薄暗い部屋に光が差し込むと共に響いていた。

 その声の主はここまで翔を探し回ったのであろう、荒い息をどうにか落ち着かせようとしている男性、進藤大助であった。

 彼は押し開いたドアの向こうに息子の姿を見つけると、それに一直線に駆け寄っていく。


「何であの部屋で、ジッとしていなかったんだお前は!!」

「えー・・・だって、退屈なんだもん」

「退屈ってお前・・・でも、あぁ・・・良かった無事で」


 ドアを開けるや否や、大声を上げては駆け寄ってきた父親の存在に、翔は面食らってしまっている。

 大助はそんな息子の肩を掴むと、何故あの部屋で待っていなかったんだと問い詰めている。

 それに翔は特に理由はないと答え、その答えに大助は呆れて言葉を失ってしまうが、それ以上に愛する息子が無事だったことに喜び、その身体をひしっと抱きしめていた。


「な、何だよいきなり・・・気持ち悪いなぁ」


 いきなりやって来ては、力一杯抱きしめてきた父親に、翔は口では気持ちが悪いと毒づいている。

 しかしその口元が緩んでいることは、隠しようのない事実であった。


「・・・いいなぁ」


 そんな親子の姿を、羨ましそうに見詰める少女の姿が、そこにあった。

 文字通り指を咥え、目の前の親子に羨望の眼差しを向けるあさひの心情は、如何ほどのものだろうか。

 しかしその声に、彼女の存在に気づく者もいた。


「あ、貴方・・・あれを」

「ん?どうしたんだい、静子?あぁ、君は・・・まさかっ!?」


 一人呟いたあさひの声に彼女の存在に気づいた静子は、その頭に取り付けられたホッケーマスクの存在にもまた、気づいている。

 静子はそれを潜めた声で夫に伝え、この部屋の中を見回していた。

 そうして静子は、この部屋の隅に放置されているチェーンソーの存在までも見つけてしまっていた。

 それを指差し自分へと教える静子に、大助もその事実に気付くまでにそう時間は掛からない。

 驚きの声を上げ、大助は目の前の少女へと驚愕の視線を向ける。

 そう彼女こそ、このロッジに潜む殺人鬼その人なのだ。


「か、翔!母さんの方に行きなさい!!」

「えー?何でだよ・・・?」


 こんなすぐ傍に殺人鬼が潜んでいたという事実に怯える大助は、抱きしめていた翔を庇うように背中へと回すと、それを静子の方へと差し向けていた。

 大助によって押し出された翔は、すぐに静子に抱きとめられ、その腕の中で不満げな様子を見せている。


「あぁ、あさひ!それ後で返せよな!」


 息子を安全な場所に引かせた夫婦は、あさひの方をジッと睨みつけながら、ジリジリと後退していく。

 そんな緊張感の溢れる場面に、間の抜けた声がする。

 それは静子の腕の中の、翔が上げた声だ。

 この状況が良く分かっていない彼にとって、あさひの腕の中にあるゲーム機の方が何より大事だったのだろう。


「えぇー!もっとやりたいやりたいー!!もうちょっと借りてちゃ、駄目?」

「あのなぁ・・・それ、俺も兄ちゃんに借りた奴なの。それにそれ、もうちょっとで充電切れるぞ」

「充電?充電ってなにー?」


 目の前の殺人鬼を刺激しないようにゆっくりと後退していた大助と静子は、翔の声に驚き固まってしまう。

 そんな二人などお構いなしに、翔とあさひの二人は和やかに会話を交わしていた。

 その二人の様子に、大助と静子も目の前の存在があの恐ろしい殺人鬼なのかと疑い始めていた。


「ね、ねぇ、貴方。あの子・・・」

「あぁ、そうだな。こんな子が、あんな恐ろしい事をしたなんて到底思えない・・・」


 目の前の少女の振る舞いは、年相応の無邪気なものでしかない。

 そんな彼女の姿に、大助は戸惑いもはや警戒すらしなくなっていた。


「いいえ、違うの貴方。あの子・・・使えると思わない?」


 しかし、静子は違う。

 彼女はあさひの様子に、彼女が利用出来ると考えたようだ。

 それはつまり、彼女を使って自らに邪魔な者を排除させようということだろう。


「・・・何だって?」


 妻の、そんな邪悪な提案に大助は面食らい、オウム返しのような返答しか返せない。

 しかしそんな夫の態度にも、静子があさひに向ける目は、その色を変える事はなかった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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