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彼らの思惑 1

「サブ、そいつを使え」


 ベッドへと腰掛け、横柄に足を組んでいる陣馬竜輝はそう言って、隣のベッドへと小ぶりなナイフを放り投げる。

 彼から目の前にそれを投げつけられたサブは、それが一体何の事か分からないと首を傾げていた。


「・・・ナイフをですか?これを使って、一体何を・・・?」

「あぁ?察しの悪い奴だな、てめぇは・・・こいつで、進藤の奴らを殺して来いって言ってんだよ」


 とにもかくにも渡されたナイフを手に取ったサブは、感じた疑問をそのまま声にして陣馬へと問いかけている。

 サブのそんな間抜けな様子に呆れたように吐息を漏らした陣馬は、彼に語りかけるように姿勢を前へと傾けると、覗き込むようにしてはっきりと命令を口する。


「こ、殺す!!?な、何でですか兄貴!?そんな事したら、ここまで追ってきた意味が・・・そ、そうだ!借金はどうするんです!?」


 今まで追ってきた進藤家の者達を殺せとはっきり口にした陣馬に、サブは訳が分からないと驚いている。

 それもその筈である。

 彼らはあくまで、借金取りとして彼らを追ってきたのだ。

 それを、殺してしまっては元も子もない。

 そんな当たり前の道理を叫ぶサブに、陣馬は先ほどとは違い、不思議そうな表情を見せていた。


「何だお前、そんな事も知らなかったのか?ちっ、ノブの野郎・・・面倒臭がって、説明をサボりやがったな」


 サブの振る舞いに感じていた食い違いの正体をやっと掴んだ陣馬は、ここにはいない誰かに向かって舌打ちを漏らす。

 彼は面倒臭そうにその全ての髪を後ろにやった頭を掻き毟ると、懐から何かを取り出して見せていた。


「おい、サブ。これが何か分かるか?」

「はぁ・・・そりゃ、俺だってこれぐらい分かりますよ。あいつらの借用書でしょ?」


 陣馬が懐から取り出した書類は、なにやら細々と文字が書き込まれたものであった。

 それへと一瞬目を凝らし、すぐにそれが何かと分かったサブは、馬鹿にするなと僅かに眉を怒らせて、陣馬にその正体について話す。

 それは彼らがここまでやってきた理由そのもの、進藤家が背負った借金の借用書であった。


「これは、偽物だ。まぁ、偽物っていうか、もう意味のない代物なんだがな」


 サブの若干調子の乗った態度に眉をぴくつかせた陣馬も、それ以上は怒りを顕にしない。

 彼はそれよりも、伝えなければならない事実があった。

 それは彼が手に持つ借用書が、既に意味のない代物であるという事だった。


「ええっ、偽物!?それじゃ、俺達は今まで何のためにあいつらを追っかけてたんですか!?」


 予想もしない陣馬の言葉に、サブは全身で驚きを表している。

 それもそうだろう。

 彼らがこんな山奥まで進藤家を追ってきたのは、その借金を取り立てるためなのだ。

 それが意味のない事だと知らされて、驚かない方が無理というものだ。


「何って、借金を取り立てるためだろ?」

「は?それは一体、どういう・・・?」


 サブの疑問に答えた陣馬の言葉は、恐ろしいまでにシンプルなものであった。

 彼は進藤家から、借金を取り立てるという。

 それは彼らの元々の目的であったが、既に意味の失った借用書を手にしてそれを口にする陣馬の姿に、サブは心底意味が分からないと問いかけていた。


「ほっんとに、察しの悪い奴やなお前は!これが偽物だって、知ってんのは誰だ?」

「えっと・・・兄貴と俺と、後は・・・」

「後は、この借用書の元々の借主を処分したノブだけだな。上もこの事については知らない。ノブが搾り取った分を上げてるからな」

「はぁ・・・そうなんすか」


 一通り事情を説明したにもかかわらず、一向に事態を理解しようとしないサブに、陣馬は膝を叩いてはもはや怒りすら見せている。

 彼は察しの悪いサブに、さらに遡った事実までもを説明している。

 しかしそれを聞いてもサブは、どこかぼんやりと相槌を打つばかりで、一向に理解を示そうとはしなかった。


「つまりだ・・・こいつを取り立てて、それを懐に入れちまっても誰にも気付かれねぇんだよ」


 もはやサブが自力でそれに辿りつく事を諦めた陣馬は、ずれてしまったサングラスを掛け直すと、僅かなためを作ってその目的を打ち明ける。

 それは、取り立てた借金を自らの懐に仕舞ってしまおうというものであった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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