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雪山一夜物語 クソザコ殺人鬼VS絶対に殺して欲しい奴がいる生存者達  作者: 斑目 ごたく
それは吹雪の中で始まる
13/70

それぞれの思惑 3

「ぷぎゃ!?」


 そして、その背中に襲い掛かろうとしていた少女もまた、その上へと降ってくる。


「あれ?匂坂君じゃん、何でこんな所に・・・って」

「あぁ、さっきの・・・その節は・・・ん?」


 少女の落下と同じタイミングで、この場に近寄ってきたいた人々がその場へと辿りつく。

 彼らはお互いに共通の知り合いである匂坂へと真っ先に目を向けていたが、それはやがてもっとインパクトのある存在を目にしてしまう。

 そう、血塗れでチェーンソーを手にしている、ホッケーマスクを被った少女というインパクトを。


「きゃああああぁぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁぁっぁぁっ!!!」


 ほぼ同じタイミングでそれを目にした二人は、ほぼ同じタイミングで悲鳴も上げる。

 その声に、彼らの連れである人々もこの場へと集まってきていた。


「だから行かない方がいいって、あれだけ・・・って、うわっ!?えっ、何これ?マジ?」

「おいおい、何だこりゃ?えらい事になってんなぁ」

「ひぇぇぇ!?うっ、おえぇぇぇ・・・」


 彼らの声に惹かれて集まってきた人々は、それぞれにリアクションを示している。

 血塗れの少女の姿に大声で騒いでいる滝原と違い、流石に修羅場を経験しているのか、兄貴と呼ばれた男は冷静な態度を見せていた。

 そんな彼の後ろで、サブが吐き気を覚えているのはご愛嬌というものだ。


「っ!?翔、見ちゃいけません!!」

「な、何だよ、母さん!?痛いって」


 飛び出してきた血塗れの少女の姿に、慌てて息子である翔の身体を覆った静子は、その姿から彼を庇うように背中を向ける。

 母親からいきなり抱きしめられた翔は戸惑った様子を見せていたが、その表情はどこか満更でもなさそうなものであった。


「姉貴、てめぇ!俺を見殺しにしようとしたろ!?ふざけんじゃねぇぞ!!」

「あら?何の事かしら、ちょっと心当たりがないわね?」


 その騒動の、まさに渦中にある姉弟は、しかしそんな事よりもお互いの振る舞いについて言い合っていた。

 しかし彼らは忘れていないだろうか、その背中には危険人物、殺人鬼が乗っかっている事を。


「あ、あんたら!今はそれ所じゃないだろ!?」

「あぁ?なんだぁ、てめぇ?気安く声を掛けやがって、俺様が誰だか分かってんのかぁ?」

「いえ、それの言う事にも一理あるわ。早くお退きなさいな、あなた。いつまで私に乗っかってるつもり?まさか・・・そんな趣味があるんじゃないでしょうね?」


 背中に乗っかったままの存在を忘れたように言い争いをしている二人に、その様子を近くで見守っていた大助が思わず突っ込みを入れている。

 しかしそんな彼の尤もな言葉にも、彼らは言い争いを止めようとはしなかった。


「はっ!気持ち悪い事とぬかしてんじゃねぇよ、ババアが!年考えろ!てめぇの上になるぐらいなら、犬にでも圧し掛かったほうがましってもんだぜ!」

「・・・ふぅん、言ってくれるじゃない?あらでも・・・貴方がこの間相手をしていた女は、私よりも年上じゃなかったかしら?」

「あぁ?んな訳が・・・マジか?」

「マジもマジ、大マジよ。やぁね、男って。ちょっとお化粧すればすぐ騙されて、あんなの女だったら騙されないわよ?少なく見積もっても四十代ね、あそこの締まりも緩かったんじゃないの?」


 自らの姉の年齢を詰った力也は、その姉によってに同じように年齢の話によって反撃を受ける。

 彼はそれをすぐに嘘だと跳ね除けようとしていたが、姉のトーンにどうやらそれが真実であると気付いてしまったようだ。


「い、いやだから!それ所じゃないでしょ!!背中!背中にあいつが・・・!!」

「ちっ、しつこい野郎だなぁ・・・何度も言わせんなよ、てめぇは誰に・・・っ!そうか、奴がいやがった!?」


 必死に注意を促しても言い争いを続けてしまう二人に、大助は健気にも再び声を掛けている。

 そんな大助の声に力也は煩わしそうに視線を向けるが、その言葉に中にその存在を示す文言が入っていれば、流石の彼もそれに気づくだろう。

 慌てて後ろへと振り返った力也は、そこに今だに佇んでいる血塗れの少女の姿を見ていた。


「はわ、はわわっ・・・ど、どうしよう。ひ、人が多いよぅ」


 しかし、その少女もまた集まってきた人に戸惑い混乱してしまって、何も出来ずにただただその場に佇んでいるだけであった。

 不安そうに集まった人を眺めては頭を左右へと振っている少女は、ホッケーマスクの内側で何やらぶつぶつと呟いている。

 今の彼女の見た目を考えれば、その振る舞いもまた恐怖を齎すものかもしれない。

 しかし実際の所、不安そうに小さくなりフルフルと震えるばかりの彼女の様子に、その効果は期待出来るものではなかった。


「?何だ、こいつ?一体何を・・・」

「いいから、早く跳ね除けなさいな!貴方の馬鹿力なら、簡単でしょう!?」

「お、おうっ!」


 少女の良く分からない振る舞いは、だからこそそれを見る者に不可解さを与える。

 力也は彼女のその行動に、思わず頭を捻ってしまっていた。

 しかし一華は、その限りではない。

 彼女はなにより自らの身の安全を優先して、力也に少女を跳ね除けるように命令する。

 力也も彼女の言葉に迷いが晴れたのか、すぐさま身体を捻って、少女を弾き飛ばそうと腕を振るっていた。


「そ、そうだ!とにかく殺さないと!よいしょ、っと」

「っ!?不味い、間に合うか!?」

「ちょっと!?大丈夫なんでしょうね、間に合わなかったら許さないわよ!」


 迫り来る力也の腕に、自らの役目を思い出した少女は、手放してしまっていたチェーンソーへと手を伸ばす。

 それを手に取った彼女がそれを振るうのと、力也の腕が彼女を弾き飛ばすのは、どちらが早いだろうか。

 ギリギリの状況に、力也は思わず冷や汗を流す。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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