6.才能の塊
デニスとカミラと話し合った結果、マルグリットは早速次の日から教えに来てくれた。
目の色だけでも出来るだけ早く変えられるようにならなければ外出もままならないと気を遣ってくれたようだ。
感謝です。
デニスは仕事に行き、カミラが見守る中でのお勉強だ。
マリアンナの魔力が高いこと、年齢が低いことで何があるか分からないということで、使っていなかった2階の一室を使用することになった。
マルグリットが一部屋丸ごとに防御魔法を施し、カミラはここから見ていて下さいね、と言われて開け放たれた部屋のドアの前に待機している。
部屋に置かれているのはマリアンナとマルグリットのための木製の椅子が2脚のみ。
向かい合うように並べて座った。
「さて、まずは魔力を感じるところからはじめます」
「はい!」
楽しみすぎて気合十分です!
「はい、では両手を出して」
そう言いながら両手を広げたマルグリットに向かってマリアンナの両手を差し出すと、そっと手を合わせられた。
「今から私の魔力を少し流すので、嫌な感じがしたら手を離してね」
「はい」
マリアンナが頷くと、合わせられた手の平がじわりと暖かくなった。
あれに似ている。
そうそう、電気治療のような感じだ。
肩こりに効きそうだけど少しくすぐったい。
「どう?気持ち悪くない?」
ちょっとくすぐったいけど、どちらかというと気持ちいいです。
「んー、きもちいい?」
マリアンナが少し首を傾げながら答えると、マルグリットはほっとしたようだった。
「良かった、私の魔力と相性は悪くないみたいね。本当に合わない人だとものすごく気持ち悪かったり、気分が悪くなったりするのよ」
生理的に受け付けない、みたいな感じですかね。
「魔法を使う場合は相性は気にしなくていいけど、こうして人に直接魔力を流すような場合は気をつけてね。―――まあそんな機会はそうそうないでしょうけど」
そうですね、そんな気がします。
「では動かしてみるわね。はい、ぐるぐる回しまーす」
すると手の平の上で暖かいものがぐるぐる回りだした。
くすぐったい!
「ふふっ」
思わず声を出して笑ってしまった。
「あら、ちゃんと感じるのね?では一緒にやってみましょう。
目を瞑って―――ほら、マリーちゃんの魔力を動かして…手の上でぐるぐる回るのよ」
魔力を動かす…
「魔法は想像力なのよ。頭に思い浮かべることが大切なの」
なるほど!そういうことなら得意です!
何でも出来る気がします!
ぐるぐーる
ぐるぐーる
「まあ…上手!」
お?そうですか?
もっと出せますよ?
多めに魔力を流すイメージで…
するとふわっと体の回りに魔力を感じる。
おおー、これが私の魔力かな?
ぐるぐるー
自在に動かせますね!楽しい!
「ま、待って!そのくらいで!」
マルグリットにぎゅっと手を握られて、咄嗟に魔力を抑えた。
ぱち、と目を開けるとマルグリットが驚愕したように目を見開いていた。
ん?どうかしましたか?
「マリーちゃん…あなた、大丈夫?何ともない?」
「はい、だいじょうぶ」
マリアンナがにこ、と笑うとマルグリットはほっと息をついた。
どうやら魔法を習い始める8歳の子でも魔力を動かすのは苦労するらしい。
事情があって早めに教えた4歳の子がいたようだけど、能力のあったその子でもはじめからは無理だったようだ。
きっと今回も無理で、ゆっくり時間をかけて教えようと思っていたそうだ。
それがいきなり魔力を動かし、更にそれを自分の意思で抑えたものだから驚愕したみたい。
うん、ごめんなさい。
2歳の皮を被った30歳なもので…
ものすごく気を良くしたらしいマルグリットが、目の色を変えることにも挑戦してみようと言った。
うんうん、それが出来ないと家に軟禁状態ですからね。
というか目の色を変えるとか、今や出来る気しかしない。
魔法は想像力!イメージなんですよね?
それならカラーコンタクトのイメージじゃないですか?
「んー」
マリアンナはマルグリットの目をじっと見ながら大きく目を見開く。
カラコン!
一瞬、目にコンタクトを入れたような違和感があってすっと馴染む。
「ま、まあ!素晴らしいわ!」
マルグリットがパンパン、と手を打ち鳴らす。
おお、拍手をいただきました。
どうやら出来ているみたい。
「か、カミラさん!どうぞこちらへ!」
はらはらと覗き込んでいたが、防御壁のせいで近寄れなかったカミラをマルグリットが呼んだ。
大丈夫と判断されたようで、防御壁が消される。
「すごいわ!マリー!」
カミラがマリアンナの顔を覗きこんでにっこり笑った。
ふふふ、どう?すごい?
「ただ…その色もとっても可愛いんだけど、私と同じ色にしてくれると嬉しいわ」
あ、そうでした。
マルグリット様の目を見本にしてしまったのでした。
失礼しました。