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5.難題

クラス分けで魔法の実技は関係ないのかと質問があった。


「この学校に入っている時点である程度の魔力は誰もが持っているものだ。

生まれ持ったもので、特別なものではないと考える。


それに、平民も貴族もできるだけ平等にしたいという考えから座学のみで判断している。

座学は努力で何とかなるが、魔法は平民では教師を見つけることさえ難しいからな」


平民の立場から見ると、座学ですら難しいかもしれない。

マリアンナの場合はたまたま色々な幸運が重なってマルグリットに拾ってもらった。


それがなければ簡単に感じた今日のテストも難しかっただろう。




明日からはこの教室に来るように言われて、解散になった。



「マリアンナさん、すごいわ」


皆が出て行ったので後に続こうと鞄を持つと、教室を出る前にオリヴィエが飛びかかる勢いでやってきた。

しかし動きはダンスをしているように優雅だ。


「まさかフィリップが1位を譲るなんて思ってもみなかったわ」

「ああ、やられたな」


オリヴィエの横に待機していたフィリップがマリアンナを一睨みした。


「君、あんなことを言って実は貴族なんだろう。

あるいはどこかの貴族の養女にでもなっているのか?」

「まあまあ、そんなことどうでもいいじゃない。

マリアンナさんの努力の結果ですもの」


オリヴィエがフィリップをなだめる。

マリアンナは間違いなく平民なので、何を言われても平民ですと言うしかない。


フィリップはまだ何か言いたそうだったが、帰りが遅くなるということで切り上げることになった。




2人と別れ、寮に戻って私服に着替える。

どこからどうみても平民…という感じでもなく、入学祝にマルグリットが贈ってくれたちょっと上品なワンピースだ。

地味にしていなかったら非常に可愛かったに違いない。




マリアンナはシロに魔力を補給してから時間を見計らって食堂に向かった。

すでにノーラが席についている。


「ノーラさん」

「ああマリアンナさん、初日はどうだった?

テスト大変だったでしょう」


「分かっていたなら教えてくれてもいいじゃないですか…。抜き打ちだったので驚きました」


マリアンナが恨めしそうに言うと、何でもないことのようにノーラが笑う。


「ふふ、だって事前に分かってたら折角の初日に気分が沈むじゃない。

どうせ最初のテストなんて全くできないんだし、知らない方が幸せなこともあるでしょ」


「……」


特別クラスで1番でした、とは口に出せなかった。









マリアンナは次の日も日課の早朝鍛錬を終えて食事を済ませ、早めに学園に行くことにした。


「ずっと一緒にいなくても大丈夫だから遊んで来たら?」


周りに誰もいないのでシロに話しかける。


『そうだな。着いたらどこかでのんびりしている』


シロは律儀に学園の中まではマリアンナと一緒にいるらしい。


結局特別クラスに着くまで傍を離れなかった。




「先生、おはようございます」

「早いな、おはよう」


担任のルーカスが既に教室にいた。


「昨日説明を忘れていたんだ。認証カードを出して一度外に出てくれ」


マリアンナが言われたとおりにすると、ルーカスが一緒に出てきた。


「今から教室の個人登録をする。鍵がかかっていたらカードで開けるように」


扉のドアノブの横に魔導具があり、言われてそこにカードをかざすとお互いが一瞬光る。

それで登録ができたので、開けるときは横にカードを差し込むといいらしい。

一度試すと開けることが出来た。


前世のホテルのカードキーのようだ。



「その青いカードは4年生の…?いや、少し色が違うな。

…ギルドカードか?」


「えっ、あ…はい。そうです」


ギルドカードも肌身離さず持っていなければならないので、マリアンナは学園の認証カードも一緒にして首から下げていた。

認証カードを出したことでギルドカードも一緒に見えてしまったのだ。


ディオから贈られた探知の魔石はマルグリットの家に置いてきている。



「基本3種の薬が作れる…?」

「はい」


ルーカスはギルドカードの仕組みを知っているらしい。


「必修の基礎薬学は、ナイフの使い方から始める」

「…そうですか…」


非常に辛い時間になりそうだが仕方ない。


「選択科目の希望は?」


ルーカスがマリアンナに向かって手を出したので、マリアンナは今日提出予定の選択科目の希望を書いた用紙を渡した。

ルーカスはそれをざっと見て、応用薬学にチェックが入っているのを確認する。



「…応用薬学だが、1年生のうちは初級傷薬を勉強する」

「……そうですか」


「ちょっと一緒に来てくれ。免許の確認をさせてもらいたい」

「教室に誰か来るのではないですか?」


誰もいなくて鍵が開いてなかったら入れない。


「貴族はそんなに早く来ない。すぐ終わるから大丈夫だ」


ルーカスはすたすたと速足で歩いていく。

マリアンナは慌てて後に続いた。



教員の事務室のような場所について、マリアンナは部屋に通された。


「あれ、ルーカス先生どうしたんですか?」

「ええ、ちょっと」


他の先生に話しかけられるがルーカスはほぼ無視している。


「これの使い方は分かるか?」


ルーカスが持ってきたのはギルドカードを通して免許の取得状況が見える魔導具だ。


「はい」


マリアンナは商業ギルドや商会で使ったことがあったので、ギルドカードに魔力を流しながら魔導具に通す。

カードに魔力登録されていない他の者が魔力を流しても反応しないのだ。


画面に取得している免許がざーっと表示された。



「…なんだこの数は!」

「す、すみません」


何しろ3歳で初めて免許を取ったのだ。

あれから6年、普通に作れるようになった薬はほぼ免許を取っていた。



「必修の方は受けてもらわなければならないが、選択科目の方は免除してもらえるように伝えておこう」

「えっ!?いいんですか?」



そんなことが可能なのか。


出来るならぜひお願いしたい。





教室に戻り、その日の必修授業を受ける。

1年生の選択科目は来週からなので、お昼ご飯を食べてから帰るかと鞄の支度をしているとルーカスに呼ばれた。



「薬学の教員で話し合ったのだが……」



だが、の後がなかなか出てこない。

言いにくそうにしているルーカスを、マリアンナは辛抱強く待った。


もしかして免除は無理になったのかもしれないがそれならそれで構わない。




「君には6年生の授業を受けてもらう」




はい?!



「は、え?1年生の応用薬学が免除になるのでは?」


「ああ。しかしそれだと君の能力では高等部になるまで毎年免除になってしまう。

ずっと授業を受けられないのはどうかという話になったんだ。


だから、選択科目の応用薬学に限り6年生の授業に混ざるように。

授業は明日から始まるから丁度良かった。場所と時間はこれになる」


ルーカスはマリアンナに詳細が書かれた紙を差し出した。



「は、はい…」




マリアンナは状況をうまく把握できないまま条件反射で受け取る。



ルーカスが去った後、立ち尽くすマリアンナの元に話が終わるまで待っていたらしいオリヴィエが近づいた。



「マリアンナさん?」


「はっ!」


「ルーカス先生に何か無理難題でも言われましたの?」




確かに結構な難題だった。





寮に帰っても昼食が食べられないので、オリヴィエが帰った後マリアンナは学園のランチルームでさっと食事を済ませた。


目立たないようにと思っているのに最初から死ぬほど目立っているような気がする。

取りあえず学園に慣れてから兄さま探しをしようと思っていたのに、まず慣れることが大変になりそうだ。


『どうした?元気がないな』


一旦教室に鞄を取りに戻ったところで、遊びに行っていたシロが帰ってきた。


ちなみに特別クラスには奥に個人の鍵付きの部屋まである。

部屋といっても前世でよくある服の試着室くらいの広さだが、戸棚と服がかけられるフックまであって非常に便利だ。

ローブや使わない教科書を置いておけるので助かる。


目立つのは困るが、これは特別クラスから落ちないように頑張ろうという気にもなってしまうものだ。



「んー、色々あってちょっと疲れちゃったかも」



昨日今日で一気に予想外のことが起こって先行きが不安で仕方ない。

マリアンナは夜に一度裏の家に行ってみようと決心した。

早朝に帰ってもマルグリットは起きてないので話ができないのだ。



『なら少し息抜きに行くか?』


「ん?どこに?」


『荷物は置いてついてこい』



いいところがあると動き始めたシロに反対する気力もなく、マリアンナは教室を後にした。







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