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5.魔術師マルグリット 2

「改めまして、デニス=リンデルです。こちらは妻のカミラ、そして娘のマリアンナです。

商会のほうではいつもお世話になっております。」


応接室までマルグリットを案内し、デニスが挨拶した。

父さま、母さまの名前と家名が判明しました。


「ご丁寧にありがとうございます。私は魔術師マルグリット。家名は名乗っておりませんので、どうぞマルグリットとお呼びください」


マルグリットがリンデル一家を順に見てにっこりと笑った。






「あの日は天候が良かったので、マリーと一緒に森林公園まで2人で散歩にいったんです。」


カミラが淹れた紅茶を飲んで一息つくと、マルグリットがマリアンナが倒れた日のことを聞きたいと言い、カミラが話し始めた。

ちなみにマリアンナの前には水が置かれている。

紅茶が飲みたい。



「一般開放されている区画に芝生がある丘があるのですが、そこにマットを敷いて休憩していたところで、突然目も開けていられないような突風が吹いて…慌ててマリーを抱き寄せようと手を伸ばしたのですが、まるで風に攫われたように消えていたのです。」


「えっ」

「まあ」


外に出かけて疲れて熱を出したような話かと思えば、思ってもみなかった展開になってきて驚きの声が出てしまった。

マルグリットからも驚きの声が漏れた。

デニスは既に聞いていたようで、反応はしなかった。


「慌てて辺りを探して、散歩に来ていた人に聞いたりもしたのですが見つからず、あの時は生きた心地がしませんでした」



カミラがマリアンナの手をぎゅっと握る。

心配させちゃったみたいでごめんなさい。



「立ち入り禁止区域も含めると広大な場所ですので、困り果てて…一旦マットを敷いた場所に戻ったら、マリーがそこに倒れていたんです」



一体私に何が!



「体が熱くて苦しんでいたので、急いで診療所に連れて行こうとしたのですが、うちの店のほうが近かったので夫に助けを求めようと先に寄ったところで…」


「丁度私が声をかけたんですね」


マルグリットがカミラの話を引き継いだ。



「あの時は本当にありがとうございました。マルグリット様に診ていただいたおかげです」



「いいえ、私ではなく、マリーちゃんが頑張ったからですよ」


マルグリットは、ほっとしたように微笑んでマリアンナを見た。



「今だから言えますが、あの時…このまま助からないと思いました」


その言葉に、デニスとカミラがはっと息を飲んだ。



「魔力が暴走しているのを、マリーちゃんが必死で抑えているような状態で……私ができたことといえば、魔力暴走だと診断できたことと、丁度持ってきていた体力回復薬をお渡しすることだけでした。


そもそも暴走するほど魔力が高い子は貴族でも滅多に生まれないのです。それに、成長とともに器が育って落ち着く子もいますが、数は多くありません。ほとんどは、体が耐え切れずに命を落とします。

…マリーちゃんは生まれてから今までにこのような状態になったことは?」


「いえ、一度もありませんでした」



「…その色は?」



「熱が出て2日目の夜、少し落ち着いてきたようで、私もほっとして何時間か一緒に寝たのですが…朝起きるとこのとおり髪の色が変わっていたのです。3日目に目覚めたのですが、元々茶色だった目の色までこんなことに…」


カミラが説明する。




「…答えられる範囲でかまいませんが、お2人の家系に王族がいたことはないですか?」



マルグリットが思案するようにマリアンナの目を見ながら両親に質問する。



「知っている範囲ではありません」

「うちもです」


デニスとカミラが続けて答えた。


「マリーちゃんがいなくなっていた間に何があったかは…?」


マリアンナに説明できると思わなかったのだろう、マルグリットはデニスとカミラに順に視線をやった。


「それが、目が覚める前のことを何も覚えていないようなんです。私たちのことも、自分の名前も分からないようで…」


デニスが優しい手つきでマリアンナの頭を撫でる。


「まあ…!それは不安でしょうに。落ち着いたお子さんね」


ぎくり


「そう言われれば…最近は特に活発になっていて、なかなか手がかかる子だったのに。

体力が落ちてしまったのかもしれませんが、これほどじっと座っていられませんでしたね」


ぎくりぎくり

30歳が急に2歳児を演じるのは厳しいのですよ。



「まあそれはともかく、生まれつきの色が突然変化するなんて聞いたことがありません。

魔力暴走のせいだと言えないこともないでしょうが、そもそもご両親は平民の平均的な魔力の持ち主のようですから、子どもがこれほど魔力が高いのはおかしいですし…髪の色はともかくこの目の色は


―――危険です」



危険?



「やはり、そうなのですか…?」


デニスが不安気に尋ねた。


何が?私にも分かるように説明してー!!



「ええ、ご存知のとおり、『金』の目は王家に連なるものの証ですから」



「ふえ!?」


驚きのあまり変な声が出てしまった。


「あら、マリーちゃんは意味が分かるのかしら?」


ふふ、とマルグリットが微笑む。



「およそ500年ほど前に、初代王が建国した際に精霊の加護を得たと伝えられているのです。

その加護の目印に金の目を授かり、それ以来、加護のおかげか金の目を持って生まれる子は魔力がとても高い。


今でこそ王本人の資質や能力が重視されているけれど、その昔は金の目を持って生まれたものが必ず王になっていたのです。


今でもやはり神聖視されていて、金の目を王家に引き継ぐことは重要視されています。目の色は両親どちらかの色を必ず引き継ぎますから、臣籍降下した者の中から金の目を持った従姉妹を娶ることも珍しくありません」



ふむふむ。やはり身分が高い方ともなると血は重要視されるのでしょうね。

政略結婚まみれなのかしら。



「という訳で、臣下に降嫁された王女の子であっても金の目を持つかどうか確かめ、そうであったら確実に管理されています。

とは言っても金を持つ子は生まれにくいらしく、今は現陛下と王弟殿下のみ。


王弟殿下は未婚ですし、陛下には8歳になる王子殿下と4歳になる王女殿下がいらっしゃいますが、どちらも引き継いでいないのです」



おやおや、次代にまだ『金』の子がいないのですね。



「そんな中、平民に突然『金』を持つ子が現れたら…」


カミラが指を震わせて青くなった。



「陛下か王弟殿下が生ませた子とみなされるのではないかしら」

「そんなことは絶対にあり得ない!」


デニスが突然立ち上がって声を荒らげる。

マリアンナは驚いてびくっと跳びあがった。


「落ち着いて。元々茶色の目だったマリーちゃんは、間違いなくあなた方の子なのでしょうね」


マルグリットがデニスを安心させるように優しい声で微笑んだ。


「…すみません」


デニスは力が抜けたようにソファーにもたれかかった。



「問題は、これから出会う者たちです。何の情報もなく、ただマリーちゃんを見た者は間違いなく疑うでしょう。

この家の火種にしたくなければ…隠すしかありません。徹底的に」



マルグリットが色々と考えを巡らせているような目をしてマリアンナをじっと見る。


「そんな…どうすれば」


カミラもデニスも考えが追いつかないのか呆然としていた。



「今回の熱で死んだことにして一生家から出さない」


これにはマリアンナも含めて全員がひぃっと息をのんだ。


「または…マリーちゃん、ちょっとここへおいで」


マルグリットがちょいちょい、とマリアンナを手招きする。

マリアンナはデニスの前を通ってマルグリットのそばに行った。


「怖くも痛くもないので安心してね」


マルグリットはそう言いながら手を伸ばし、その手の平が完全にマリアンナの視界を覆った。

するとほんのり両目が温かく感じる。


「はい、できた」


ぱっと手が離れてマルグリットの笑顔が目に入った。


くる、と体をデニスとカミラのほうに向けられると、2人が目を見開いた。


「おお!」

「まあ!」


「…こうして、色を変える魔法をかけてあげられる人が身近にいればいいのですが…

『金』に干渉することはちょっと難しいですね。私くらいの魔術師で、数刻保てたらいいとこかしら」


どうやら目の色を変えてくれたようだ。


うーん、毎日何回もマルグリット様に魔法をかけてもらうなんて現実的ではないですね。

マルグリット様に何にもメリットないし。

他の魔術師を探すにしても、話を聞いた限りこの目についてはできるだけ知られないほうが良いとなると難しい。そもそもマルグリット様は黙っていてくれるんだろうか。



「一番いいのはマリーちゃん本人が自分にかけることだけど……2歳…」


あ、やっぱり年齢がネックになりますか?

大丈夫!見た目はこんなですけど、これでも人生経験30年以上あるんで!


「まほう!じぶんで!おしえてくだしゃい」


マルグリットに詰め寄る。


「あらあら、どうしたものかしら…」



「父さま、母さま、おねがい!」




懇願した結果、3日に1回のペースで家庭教師に来てくれることになりました。


よろしくお願いします、マルグリット様!




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