4.魔術師マルグリット 1
朝食は野菜スープとパンだった。
パンが固すぎて苦戦していたら、母さまがちぎってスープに浸して口に運んでくれた。
なるほど、こうやって食べるのか。
分かってからは自分で食べようと思ったけれど、今の私の力ではパンがちぎれず結局食べさせてもらった。
うーん、成長したい。
食べ終わって、お皿の片付けをお手伝いしたら(といっても流しに運んだだけだけど)家の探検をしたい。
両親を見ると、母さまは台所に立っていて、父さまはテーブルに座ってのんびりお茶を飲んでいる。
「父さま、おしごとは?」
「ああ、今日は休みをもらったんだよ。マリーのことを伝えたら、おじい様が一緒にいてあげなさいって。」
「おじいさま?」
仕事とおじい様が結びつかなくて聞いてみる。
「ああ、うちは代々商人の家系で、今はマリーのおじい様が代表なんだよ。
私は跡取りだけど、まだおじい様について勉強中なんだ。」
ふむふむ、そうすると多少自由がきくのだろう。
というか父さま、子どもがいて一家の長なのに勉強中って生活は大丈夫なのだろうか。
パッと見たところ困っている風はないし、家もしっかりしていると思う。
平民って言ってたけれど、家が商売をしているならそこそこ裕福なのかもしれない。
この世界の一般的な生活レベルがまだよく分からないけど。
「マリーがもう少し元気になったら、おじい様とおばあ様にも会いに行こうね。」
にっこりと微笑んで、頭をなでなでしてくれる。
うーん、イケメンの笑顔が眩しい。
仕事がない父さまを誘って家の中を案内してもらうことにした。
じゃあ玄関からご案内しましょうか、お姫様。とおどけて手を引いてくれる。
素敵です。父さま。
我が家は玄関から扉を開けて、すぐ階段があり2階に続いている。
廊下が左右に分かれていて、右に行くとすぐ応接室、その隣にトイレ、さらにその隣が寝室、奥に父さまの書斎があって、お風呂、キッチンと続き、家事室があって、ぐるりと一周まわって玄関に戻ってきた。
2階は物置状態でほとんど使っていないらしく、そろそろマリーの部屋を準備しないとね、と笑っていた。
それにしても思っていたより広かった。
各部屋の調度品とかもしっかりしているし、生活に苦労はしないかも。
この生活レベルは高いほう?平民にも富裕層と貧民層とか差があったりする?そういえば貴族とかいるの?そもそもここって何て国?王制だったり?
聞きたいことが多々あるものの、2歳児が突然そんなこと言いはじめたら怖いよね。
ただでさえ記憶なくしたり姿に変貌があったりしているのに。
ぐっと堪えて、これからの成長の中で学んでいこう。
「さて、そろそろお客様が来るからね。うちとお付き合いがある魔術師さんで、マルグリット様っていうんだ。マリーが倒れたとき、丁度店のほうに来てくれてて、すぐに診てもらったんだよ」
そう言われて、母さまのところへ戻ろうとしたところで、『カンカン!』と金属を打ち付けたような音が響いた。
「おや、噂をすれば…かな。」
父さまが玄関の覗き窓をスライドして開けた。
「こんにちは」
「マルグリットさま、ようこそいらっしゃいました!」
女性の声がして、父さまがカチャカチャと鍵を開けている音がする。
扉を開けて入ってきたのは、紺色の艶のあるローブに身を包んだ壮年の女性だった。
薄緑の髪色に、薄青色の目をした綺麗な人だ。長い髪を編んで後ろで一纏めにしてる。
父さまと母さまの色は普通だったけど、薄緑って!すごい色だ。
ここでは一般的な髪色なのだろうか。青とか紫とかピンク色の人もいるのだろうか。
迎え入れた父さまが私のところに来て、マルグリットは玄関マットのところで立ち止まった。するとマットに編みこまれた模様がぽわっと光る。
おお、なんだろう。
光が消えると、靴のままマルグリットが室内に入る。
そういえば父さまも母さまも靴を履いていた。靴の汚れを落としてくれるマットかな?魔法世界!
目が覚めてから色々なことが新鮮で興奮してしまう。
音が聞こえたようで、母さまも玄関にやってきた。
「マルグリット様、わざわざ来ていただいてありがとうございます」
「昨日やっと熱が下がりました。本当にありがとうございます。さあ、マリーもお礼を」
父さまが促すように背中に手を置いた。
「ありがとう、ごじゃります」
うん、発音難しいね!
「まあ!元気になって良かった…けど、この色は…」
マルグリットはマリアンナの様子に微笑んだけれど、その後困惑の表情を見せた。




