25.防御の魔法3
「エドガーさん、質問いいですか?」
自動防御魔法がどの程度守ってくれるのかエドガーを実験台にしてディオと2人でそこそこ魔法をぶつけた後、マリアンナが手を上げた。
エドガーは子どもは容赦ないとぼやきながら魔力回復薬を飲んでいる。
「なんだ?」
「防御魔法はこうやって外部からの攻撃に対しては守ってくれますけど、抱き上げられて連れて行かれたらダメじゃないですか?」
「いい質問だ」
ふっふっふ、そうでしょう。
「相手が平民の場合は魔法で攻撃してやればいいが、貴族や魔力の高いものだと相手も防御魔法を使っている可能性が高い」
「こちらが攻撃魔法を使っても意味がないんですね」
「相手の防御魔法を破るくらい強い魔法を打てれば意味がないことはないが、攫われそうな状況でうまく力を発揮できるとは限らないからね。
そういう力のない子どもや女性が狙われたときには、防御魔法はあくまで補助。私のような護衛が助ける」
なるほど、一人で何とかしなきゃいけない状況じゃないってことか。
「そういう意味で、今回マリオが帰宅中にディオを外出させようと思ったんだ。
守る対象が増えると…マリオに何かあってはいけないからな」
エドガーが、申し訳なさそうに眉をしかめた。
「エドガーさんは、エドガーさんの仕事をすればいいのですよ」
私も一緒だと、何かあったときにエドガーさんもマルグリット様も兄さまを優先してしまうだろうしね。
私がここにいるときに置いていくのも忍びないと思ってくれたんだろう。
私と兄さまのことをちゃんと考えてくれた結果だと思う。
マリアンナがにっこりと笑うと、エドガーは脱力した。
「はーっ……マリオは本当に、男前だな」
誉め言葉として受け取っていいのですよね!?
話を聞いた上で試してみたい魔法ができて、マリアンナはエドガーに話しかけた。
「ではエドガーさん、護衛のいない平民の今後の参考に、ちょっと実験台になってもらってもいいですか?」
「今後の参考に実験台にされるのか!?」
「ははっ、エドガーは魔法の実験台としてすばらしい才能を持っているからな」
「全然嬉しくないんですが!?」
危なかったら打ち消せるエドガーさんだからこそ実験台がお願いできる。
大変ありがたい。
「えーっと、念のため傷薬と…中級か上級傷薬って先生置いてくれてましたっけ?」
「何をするつもりだ!!」
「ではまず防御魔法を解いてくれますか?」
「話を聞いて!」
文句を言いながらもエドガーは防御魔法を解いた。
うん、優しい。
「最初は痛くないように優しくしますから安心してください」
「ちょっとマリオ、言い方に気をつけよう」
ん?何か変でしたか?
「連れて行こうって感じで私の手を引っ張ってもらえますか?」
言うとおりに手を伸ばしたエドガーがマリアンナの腕を掴んだ瞬間、静電気を流してみた。
「いてっ」
エドガーがさっと手を離した。
「ぴりっときましたか?」
「ああ…今のは何だ?」
あれ?寒くて乾燥してたらよくなりますよね?
そういえばこの世界で何ヶ月か過ごしたけど気温の変化を感じない。
気温も湿度も丁度よくて大変過ごしやすいのだ。
年中こんな感じなら静電気にやられたこともないのかもしれない。
ちょっと弱い電流を流したんです、って何て言ったらいいかな?
ん?電気?電気ってあるの?
「ちょっとぴりっとして驚かせる魔法です!」
マリアンナは考えを放棄した。
「確かに驚いたが、連れ去るのに問題はないかな」
手を離したくせに!
「じゃあもう一度お願いします」
マリアンナは腕を差し出した。その手をエドガーが掴む。
「うわあ!!」
今度は跳び上がった。
「痛い!!」
エドガーは手をぶんぶん振って痛さを和らげようとしていた。
「これはけっこうビリッ!とくる魔法です!」
押すと電流が流れるおもちゃくらいのイメージだ。
「怖いな!」
「このくらいだったら防御してなくても怪我しませんか?もっと威力を上げてしまうと危ないので」
次はスタンガンくらいだろうか。
使ったことがないから威力が想像できない。
倒れて火傷するくらいなりそうだし流石にこわい。
「まだ威力が上がるのか…?これはちょっと…本当に連れ去られるくらい危ない時以外使わないようにしなさい。
マリオが危険人物になるぞ」
「普段は使いません!」
防御している時もどうなるか試してみたかったが、もうどうなるか分かっているので反応してしまうらしく無駄だそうだ。
不意打ちだったらこんな攻撃がくる想定をしていないので最初の一回は効果がありそう、と判断された。
よし、痴漢にあったら使ってみよう。
自意識過剰かもしれないけど、私は結構美少女なのだ。
「マリオ、今は…触っても大丈夫か?触れたら自動で発動するようになっていないだろうな?」
ディオが恐る恐る近寄っては離れている。
「大丈夫です!なってないです!」
その日、ディオとエドガーはマリオに触れようとして、びくっとしてやめるという後遺症が残ってしまった。




