13.誕生日のお祝い
目が覚めると、いつでもどこでも確認できるように持たせてもらった手鏡で一応目を確認する。
マリアンナがいつも着ていたワンピースだと、ポケットが無いので無理だったが、ズボンだとお尻のポケットに入れておけるのが良い。
部屋の戸を開けると、いい匂いが漂ってきた。
マリアンナは導かれるように階下に行く。
「あらマリオ、起きたのね。よく眠れた?」
キッチンにいたマルグリットが、マリアンナに気が付いて声をかけた。
「はい。おはよう?ございます」
午後なのでおはようも変かと思ったが、マリアンナは一応おはようと言っておいた。
「今日はマリオとディオの誕生日だから、特別に料理人を呼んだの。夜は楽しみにしてて」
マルグリットが、台所の中でせわしなく動いている男性の方を指した。
「本日はおめでとうございます、ぼっちゃま」
白髪交じりの男性がにっこりと笑って挨拶してくれた。
ぼっちゃま!全然ぼっちゃまではありませんのでやめてー!
「ありがとうございます」
マリアンナは必死で平静を装う。
「殿…ディオとエドガーは食堂にいるけど、今のうちにクッキー渡してしまう?今なら夕食にひびかず食べてもらえるかもしれないわ」
「はい!そうします」
マルグリットが持っていてくれたクッキーを出し、マリアンナに渡した。
青色の紙袋に包んで白いリボンで飾ったのはマリアンナだ。
***
「兄さま、ちょっといいですか?」
マリアンナが部屋に入ると、エドガーとディオが真面目な顔をして話し込んでいた。
遠慮がちに声をかける。
「マリオ、起きたのか。どうした?」
ディオがおいで、とマリアンナを促す。
「あの…兄さま、おたんじょうびおめでとうございます。
これ、クッキーです。せんせいとつくったので、たべてください」
マリアンナは包みを差し出した。
「えっ…」
ディオは信じられないことが起こったように呆然としている。
「ディオ、マリオがあなたのために何かしたいって、一生懸命作ったのよ。
…味見は済んでるから、受け取ってあげて」
味見という名の毒見ですよ!
貴族の方に差し上げるのですから当然です!
「私のために…?こんな、贈り物を貰ったのは初めてだ。…ありがとう、マリオ」
ディオはマリアンナに目線を合わせて、包みを受け取った。
一瞬で伏せられたその顔には、泣き笑いのような表情が浮かんでいた。
「そういえば、今日はマリオの誕生日でもあるんだったな。
何も用意していなくて…すまない。マリオも、おめでとう」
「ありがとうございます、兄さま」
「…君に、触れても?」
「?はい、どうぞ!」
マリアンナは何も考えず両手を広げた。
ディオは一瞬戸惑ったように目を瞬かせた後、恐る恐るマリアンナの背に手を回しそのまま抱き寄せた。
「…あたたかい」
マリアンナからディオの顔は見えなかったが、少し声が震えていたようだった。
これまでまともにお祝いしてもらったことないって言ってたもんね。
喜んでもらえたかな?よしよし、いい子だね。
マリアンナがぎゅっと抱きしめ返すと、ディオは一瞬ぴくっと体を震わせたが、そのまま動かずしばらく2人で抱きしめあうことになった。
「母上…何ですかこの美しい光景は」
「ええ…私ったら歳かしら。涙腺がゆるくなったみたい」
外野!ちょっと恥ずかしいです!
その後兄さまは1枚食べてくれて「美味い!」と驚き、あとは大事に食べる、とまた包んでしまった。
えっ、ちょっと!今状態保存の魔法かけましたよね!?どれだけ大事にするつもりですか!?とエドガーさんが突っ込みを入れていたことから察するに、すごく喜んでくれたに違いない。
その夜は、みんなで食卓を囲んだ。
私には少しずつ取り分けてくれて無事全部食べられたけど、とてつもなく豪華だった。
フルコース一歩手前!みたいな。え、貴族って毎日こんないいもの食べてるわけじゃないよね?今日は特別なだけだよね?
ちょっとした疑問は生まれてしまったけど、お肉が信じられないくらい柔らかく煮込まれてて美味しかったので考えないことにしてご馳走になった。
マルグリット様とエドガーさんはお酒も入ってかなり陽気になっていた。
そうは言っても酔っ払いのようになるでもなく、少し性格が明るくなるくらいで、さすが貴族って感じだ。
「せんせいがおばあさま、エドガーさんが父さま、それから兄さまとわたしって、あたらしいかぞくみたいですね」
「…エドガー、あなた結婚もしていないのに子どもがいるそうよ」
「うっ」
「エドガーは結婚できるような気がしないが」
「もてないんですか?」
「ひどい!」
すごく打ち解けることができたと思う。うん。




