12.不思議扉
顔合わせの後、マルグリットが家を案内してくれることになった。
1階は、マリアンナの家で夫婦の寝室として使っているくらいの広さの部屋に大き目のテーブルが置かれていて、今回人が増えるので食事が出来るように模様替えしたそうだ。
その他立派なキッチンやトイレ、使用人が来たときに泊まる部屋などがある。
キッチンは設備は整っているが、一人なので簡単なものしか作らず宝の持ち腐れだったらしい。
元々貴族のご令嬢だった人が、簡単でも作れるようになっているのがすごいと思うけれど。
寝室は2階になる。
階段を上がって左奥がマルグリットの部屋、右手に客室が並んでいて、奥からディオ、エドガー、マリオの部屋だと説明してくれる。
「ここにお客様を泊める予定なんてなかったから、ベッドと机とクローゼットしか入れてないの。急ごしらえでごめんなさい」
エドガーがマリアンナの部屋に荷物を運んでくれる。
ディオとエドガーは数日前から来ているそうで、既に荷解きは終わっているそうだ。
部屋は必要最低限のものしか置かれていなかったが、彫刻が施されているような立派な家具が入っていた。
庶民は恐縮してしまいます…
「はい、ではここからが本番です。マリ、オ、こちらへ」
あ、今マリーと言いそうになりましたね。
何も気がつかなかったふりをしてマルグリットのほうに向かった。
「この扉を開けてみて」
そう言って指した扉は、マルグリットの部屋の手前にあった。
「はい」
ドアノブに手をかけてよいしょと回す。
普通にモップやバケツ、箒などが入れてある小さいスペースだった。
「そうじのどうぐですね」
「はい、では私が開けます」
マルグリットが開けた扉を一旦閉めて、もう一度開けた。
「ええっ!!」
扉の向こうに廊下が伸びていた。
な、何これ!!?
不思議扉!?
「うふふ、この扉は許可があるものが開けると秘密の場所に繋がるようになっているの」
「す、すごい…!」
驚きの機能です!
魔法世界すごすぎ!!
「ただし、一般には伝えていない特別な魔道具なので、誰が相手でも絶対に秘密にしてね」
そ、そんな特別なもの私が知ってよかったのでしょうか!?
怖いのですが!
「この扉のこと、向こうに何があるのか誰にも言わない。
それを守れるなら、マリ、オも許可してあげましょう」
本当ですか!?
守る!絶対守ります!
「母上、大丈夫ですか?マリオは小さいですし、ぽろっと誰かに話してしまうのでは」
エドガーが不安そうな声を出した。
「マリ、オなら大丈夫よ。ね?」
はい、絶対言いません。
そしてマルグリット様、マリオ呼びに早く慣れてください。
「はい、やくそくします」
「よし、少し待っててね」
マルグリットが扉に入っていき、数分後に戻ってきた。
「ではこの魔石に魔力を込めてもらいます」
マルグリットが手を広げると、その上に1センチくらいの透明の魔石があった。
「魔力を動かして、この石に移すような感じかしら…あ!でもドバーっとやらないで、水滴を一滴落とすくらいの感じでやってね!」
それは私にはなかなかの難題ですね!
「一滴…そんなもので大丈夫なのか?」
ディオが疑問の声を上げる。
大丈夫です。イメージでは一滴、てことですので。
「では、この石の上に指をかざして」
「はい」
「さあ、いつでもどうぞ」
「はい!」
水を一滴…蛇口をちょっとだけ開けて、ポトン!のイメージ!
「そのくらいで!」
「はい!」
さっと指を離す。
「すごいわ!上手!マリ、オの魔力は綺麗な色ね」
にっこりと微笑んだマルグリットの手には、綺麗なピンクゴールドの石が乗っていた。
「これが私、こっちがエドガー、そしてこれが殿…ディオの石よ」
マルグリットが立ち上がり、扉の裏側に嵌め込まれた魔石を順に指差す。
緑、薄青、金と、魔方陣のような模様の上に綺麗に並んでいた。
金…ちょっと引っかかるがスルーしたほうがいいのだろうか。
「魔力の色はちょっとずつみんな違うのよ。色が同じでも濃さが違っていたり」
指紋認証みたいなものだろうか。
「へえ…兄さまのいろ、きれいです」
見事な濃い金色だ。
マリアンナがにっこりと笑うと、ディオは複雑そうに目を伏せた。
「そう…か?」
「わたしとちょっとにてるから、うれしい。すき、です」
「…そうか」
ディオの目元が、少し赤くなった。




